【科類紹介】理科一類〜理科三類

さて、「進振り」の説明が終わったところで、次は各科類の紹介にうつります。 一見どこに入っても同じように見えますが、実は科類ごとに「進振り」で進学しやすい学科に違いがあったり、カリキュラムに違いがあったりします。実際に、「進振り」を前にして「別の科類に入っておけばよかった...」と後悔する場合も。そうならないためにも、ここで自分が受験する科類についてしっかり予習しておきましょう!

この記事では理科一類(理一)・理科二類(理二)・理科三類(理三)**を紹介します!

概要

念のため、冒頭に紹介した各科類の概要を再掲します。

理科一類
「数学・物理学・化学を中心にして数理科学・物質科学・生命科学の基礎を学び、自然法則に関する探究心を養い、科学や技術と社会の関わりについても理解を深める」
→数学・物理学に重点を置いてカリキュラムを組む。工学部に進学する学生が多い。

理科二類
「生物学・化学・物理学を中心にして生命科学・物質科学・数理科学の基礎を学び、自然法則に関する探究心を養い、化学や技術と社会の関わりについても理解を深める」
→生物学・物理学に重点を置いてカリキュラムを組む。農学部・薬学部・工学部に進学する学生が多い。

理科三類
「生物学・化学・物理学を中心にして生命科学・物質科学・数理科学の基礎を学び、自然法則に関する探究心を養い、化学や技術と社会の関わりについても理解を深める」
→生物学・物理学に重点を置いてカリキュラムを組む。医学部に進学する学生がほとんど。

カリキュラムの違い

上記概要で「〇〇に重点を置いてカリキュラムを組む」とありましたが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

ざっくりいうと、科類ごとに必ず履修しなければいけない科目の配分とその種類が異なります。

東大の理系のカリキュラムでは、「必修科目」(=必ず履修しないといけない科目)選択科目が決まっています。理科類の場合は、この「必修科目」における科目配分や内容が異なります。

では、必修科目の中でどのような違いがあるのか詳しく解説します。

理科類は、第二外国語や英語などの文理共通の必修に加え、「自然科学」という科目も必修になっています。「自然科学」は「基礎実験」「物質科学」「数理科学」「生命科学」の4つの分野に分かれています。

科学のいかなる分野においても正確な理解の土台となる数理科学から始まり、物体の運動や物質の性質、その応用を身につける物質科学や、ミクロな分子間相互作用から動物の行動パターンまであらゆる生命現象を扱う生命科学、さらには将来研究を行うために必須となる、様々な実験の手続きや手法を身につける基礎実験と、盛り沢山の内容となっています。各分野に含まれる科目を以下の表に示し、その概要をご紹介します。

数理科学
数理科学基礎...後述する「微分積分学」「線形代数学」への導入という位置付けの科目です。各科目を勉強するにあたって必要となる予備知識の紹介とも言えます。

微分積分学...高校までに習った「微分・積分」に関する様々な定理を厳密に証明し直すことから始まり、多変数関数に関する極値問題などの応用問題にアプローチします。(先生により授業内容の差が大きく、これはあくまで一例です)

線形代数学...現在では高校範囲外となっているため、数理科学基礎で初めて触れることとなる「行列」を扱い、連立方程式の解法のみならず、あらゆる分野で応用できるアプローチを身につけます。
演習科目...各授業の内容に関連する問題が提示され、(多くの場合)次週までの提出が課されます。例えば微分積分学演習の場合は微分積分学の授業と、成績が密接に関わっています。「演習」と付いている科目の成績は、「演習」と付いていない科目の成績に引っ張られるというイメージです。

物質科学
力学...物体の運動を扱います。Aコース、Bコースの間で扱う内容に差があり、前者は高校範囲の力学を理解した上で、微分方程式に基づいて運動の条件を求めるなど、さらに発展的な内容を扱います。後者は運動方程式や位置エネルギーなど、高校範囲の力学からスタートします。

電磁気学...様々な状況における電荷・電流の振る舞いを主に扱います。電流と磁性は密接に関わっており、扱う対象は電気現象のみならず磁気現象にも及びます。様々な相互作用を記述する方程式(マクスウェル方程式)を根幹に、そうした現象への理解を深めます。力学と同様にコース分けが存在します。

熱力学(理科一類)・化学熱力学(理科二・三類)...熱と仕事の間にある関係や、熱の移動形態などを与える熱力学の法則を扱います。エントロピーや内部エネルギーなどの概念を導入したのち、化学熱力学ではある状況における特定の反応がどのように進行するか、どのように平衡状態に達するか、などを考察します。一方、熱力学ではもっと詳しい状況別に考察を行い、様々な関係式や法則を身につけます。

構造化学・物性化学...この2科目は密接に関わり合っており、多くの場合どちらの科目も原子をミクロな視点で捉え、特に電子の存在様式を理解することからスタートします。構造化学に比べ、物性化学は比較的マクロな視点(沸点や結晶構造など)からの考察に富みます。しかし、その棲み分けは曖昧な印象です。

生命科学
生命科学Ⅰ・生命科学Ⅱ(理科二・三類)・生命科学(理科一類)...多くの場合、生体を構成する要素である細胞の構造から始まり、動植物の生体内で働いている種々のシステムを扱います。科類を問わず、内容はかなり手広いです。

基礎実験
基礎物理学実験・基礎化学実験・基礎生命科学実験...実際に様々な実験を行う(近年はzoomによるオンライン授業と対面授業が隔週で行われています)ことで、その手続きや様式を身につけます。準備・後片付けのみならず、実験を行う上で身につけるべき倫理観なども教わります。

「基礎実験」と「物質科学」に関しては、履修しなければいけない単位数は全ての科類で共通です。ただし、理科二類・三類は、「基礎実験」で物理・化学に加え生命科学の実験も行います。さらに、理科一類は「物質科学」の一部として「熱力学」を履修しますが、理科二類・三類は「化学熱力学」を履修します。入試の際に選択した科目(物理・化学や生物・地学等)の違いが授業理解に大きな差を生じうる科目(力学・電磁気学)においては二種類のコースが用意されており、Aコースは入試の際に物理を選択した生徒が、Bコースは入試の際に物理を選択しなかった生徒のうち、希望する生徒が割り当てられます。

「数理科学」に関しては、理科二類・三類の方が、理科一類に比べて履修すべき単位数が少ないです。理科一類は「数理科学基礎演習」や「数理基礎理論演習」を必ず履修しなければいけないのですが、理科二類・三類は任意履修となっています。

「生命科学」に関しては、理科二類・三類は理科一類に比べて多くの授業を履修しなければなりません。結果的に、必修科目の数は理科二類・三類の方が理科一類よりも多くなっています。

《Coffee Break》東大理系は授業だらけ?

「大学は人生の夏休み」といわれるだけあって、「大学に入ったら遊びまくろう!」と思っている方も少なからずいるかもしれません。しかし、東大(特に理科生)の場合はそうはいかないかも?実際に、入学後に想像以上の授業の多さに苦労している理科生が散見されます。

なぜそのような事態が発生するのでしょうか?理由は主に2つあります。

理由その1:理科生は取得しなければいけない単位の総数・授業数が多い
前期課程で取得しなければいけない単位数は、文科生が56単位であるのに対し、理科生は63単位あります。また、文科生は1コマ2単位の授業が多いのですが、理科生は1コマ1単位の授業(基礎実験など)がいくつかあります。そのため、理科生は取得すべき単位数・授業数ともに文科生よりも多くなっているのです。

理由その2:理科生は試験が多い
理科生の必修科目には、「ターム科目」と呼ばれる科目がいくつかあります。これは、1セメスター(学期)の半分の期間だけ開講される科目です。
S1タームに開講されるターム科目と、S2タームに開講されるターム科目を履修する場合、6月頭と7月中旬の2回試験を受けることになります。そのため、ターム科目を多く履修する理科生は、文科生よりも受けなければいけない試験の数と頻度が多いのです。(文科生はほとんどの科目が期末テストのみなのに対し、理科生はそれに加えて中間テストもある、のようなイメージです。)

こんな人におすすめ

理科一類
・「農学部/薬学部/医学部に絶対進む」というわけでは無い理系の人全般
理科一類は、進学選択の際に理科二類ほど高得点を要求されないことが多いです。そのため、進学選択の自由度が比較的高いと言えます。
・数学と物理が得意な学生
理科一類の授業は、基礎的な物理をガッツリやるというイメージです。そのため、数学や物理が得意だと成績面でかなり有利になります。

理科二類
・生物・物理選択の学生
化学重視と思いきや、物理・生物よりの科目が多いので、入試で生物と物理を選択した学生が一番有利だと言われています。

理科三類
・医学部医学科への進学を希望している学生
医学部に進学したい場合は、迷わず理科三類を選ぶべきです。他の科類から医学部に進学することも制度上不可能ではないのですが、基本平均点90点以上を取得する(つまり、ほとんどの科目で「優上」を取得する)ことが前提になります。そのため、「理三以外から医学部に進学するよりも、理三に入り直した方が楽」とまで言われます。

学生の違い

科類によって、ざっくりではありますが在籍している学生に特色があります。ここではその一部を紹介したいと思います。(あくまで筆者の肌感によるものなので、「理科X類だから〇〇という性格だ!」と一意に決めることはできません。ご注意ください。)

理科一類
・勉強が好きで、試験を意識しているわけではないのに高得点を叩き出してしまう人が多いです。
・プログラミングを学んでいる人や、物理オリンピック・化学オリンピックに出場したことのある人が一定数います。
・東大の中でも女子が少ないです。東大では語学ごとにクラスわけがなされますが、言語によってはクラスに女子が1人もいないこともあります。

理科二類
・理科二類の場合は、農学部以外の学部に進学するのにかなり高得点が必要になります。そのため、好成績を収めるために学業に力を入れている学生が多いです。
・進学先が多様です。農学、薬学をはじめとして理学、工学の学科に進む人も多いです。(また、一部には経済学部などに文転する人や、医進する人もいます)
・理科類の中では女子の比率が高いです。

理科三類
・理科三類の学生は、ほとんどが医学部への進学を担保されているので、前期課程を完全なるモラトリアムとして活用することができます。そのため、授業よりも課外活動などに注力する学生も多いです。(その代わり、医学部進学後は他の大学が6年間かけて行うカリキュラムを4年間で終える必要があるので、かなりハードな日々が待ち受けています。)
・難関な入試を突破しているだけあり、頭の回転が速く、率直に「頭が良い」と感じる学生が多いです。

注意事項

東大入学後には「今の科類じゃなくて別のところにしておけばよかった!」という声を時々聞きます。ここでは、筆者が実際に大学の知り合いから聞いた声を掲載し、科類選びの際の注意点をお伝えしようと思います。

ケース1「一番合格しやすいと思って理科二類を選んだが、進振りの際の点数が足りなかったために行きたかった工学部に進学できなかった」
→工学部は、学科によっては理科二類から進学するのに80点以上の高得点が必要になる場合もあります。(航空宇宙工学科は90点前後必要になることも...?)そのため、工学部志望が固まっている場合は理科一類を選択するのが無難でしょう。

ケース2「医学部医学科に行きたいが、理三は入試の点数が足りなそうだったので理二に進学した。でも、予想以上に医学部進学に必要な点数が高く、医学部にいける見通しが立たない...」
→理科三類以外から医学部医学科への進学枠は少なく、競争がとても激しくなります。90点以上の好成績が必要になるため、「理三に入り直すよりも難しい」と言われることもしばしば...医学部医学科志望がほぼ確定しているのであれば、迷わず理科三類を受験することをお勧めします。

ケース3「薬学部は理科二類からの枠が大きいため、有利だと思い理科二類に進学した。しかし、理科二類は薬学部への進学を希望する人が特に多く、底点が理科一類から希望した場合よりも高くなってしまった...」
→農学部以外にも、理科二類からの枠が比較的大きい学科は存在します。しかし、そのような学科は理科二類の学生にかなり人気の場合がほとんどで、理科一類から進学を希望する場合よりも競争率が高くなってしまう可能性が高いです。

以上が理科類の紹介です。最後の記事では、「進学選択」について詳細に解説します!いきたい学部が決まっている人もそうでない人も、読んでみると意外な裏事情がわかるかも...?

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