「『何も起きていない場所の魅力を発掘する、地域プレイヤー』になりたい」そう話す早川芽生さんは、もともとは地域やまちづくりに関心があったわけではなかったんだとか。
大学生活の中でまちづくりに興味を持ったきっかけとは?そして、2020年度入学生が、ウィズコロナの状況下で行っている活動とは?ぜひご一読ください!
インタビュアー:高崎千実(文科一類2年, 後期教養学部相関社会科学コースに進学予定)
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早川芽生さんプロフィール
愛知県の県立高校出身。2020年に理科一類に合格し、工学部社会基盤学科Bコース( https://ut-base.info/faculties/29 )に進学予定。東大ドリームネットやbiscUiTなどのサークルで活動するかたわら、福井県鯖江市や岩手県大船渡市、長野県塩尻市などをめぐる。2年生のSセメスターには塩尻と東京を行き来し、夏休みには塩尻のシェアハウスに滞在しながら「まちづくりとは何か?」をテーマに様々な活動を行う。
参考:早川芽生さんのnote記事
https://note.com/_mei_mei
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1. 充実!でも、やりたいことが見つからなかった高校時代
ーまず最初に、めいちゃんの高校時代について聞きたいです。めいちゃんが高校時代に一番力を入れていたことは何だった?
基本的には部活に明け暮れてたかな。競技かるた部に入っていて、平日は夜の7時くらいまで部活やって、土日もほぼ1日外部の練習に行ってた。これが正しい言い方なのかはわからないけど、「THE スポ根」みたいな感じだったかも(笑)
ーかなり部活が大変だったと思うんだけど、その中で東大を目指すようになったのか教えてください!
私は岐阜と愛知の境目の田舎から名古屋の高校に通っていたんだけど、その時に本当にいろんな人にであって、毎日がすごく刺激的だなって思ってた。東京だったら、もっと全国から面白い変な人たちがたくさん集まってくるんだろうな、と思って東大を目指してたかな。
こういうふうに人には説明してるんだけど、実際は、「いけそうだし、いっちょ目指してみますか」ってところはあったかもしれない(笑)
ー高校時代に自分がやりたいことって決まってた?
結論から言うと、やりたいことが決まってたわけではなかった。だからこそ進振りに惹かれたんだと思うな。もともと「建築に興味があります!」とは言ってたんだけど、それも作り上げたものだなと思っていて。もちろん建築は好きだし興味はあるけど、それも中学校の進路を考える授業とかでとりあえず仮置きしたものだったかな。
2. コロナ禍での入学、「周りと比べてしまう」辛さ
ーじゃあ、実際に東大に入ってみてどう感じた?
入学当初は、とにかくサークル活動が楽しみだったかな。「東大むら塾」( https://ut-base.info/circles/31 )っていうサークルがあるんだけど、それについての話を先輩から聞いていて、「何これ、超面白そう!」って思ってた。
これは最近気づいたことなんだけど、私はかなり「体験」に重きを置いているなと思っていて。実際に体を動かすのがすごく好きなの。むら塾の活動は、千葉県の富津市に拠点を置いて、そこで農業をしながら富津市の未来を考えるという内容なんだよね。実際に農業したり、村の人と話をしたり、イベントをしたり、頭で考えるだけじゃなくて、実際に体も動かす、というところに魅力を感じたかな。
ー「実際に体を動かして学びたい」と思ってた中でコロナ禍に入って、それが叶わなくなってしまったと思うんだけど、その時はどう感じていた?
最初はオリ合宿(※注:東大の新入生がクラスごとに分かれて上級生からオリエンテーションを受ける合宿のこと)もないし入学式もないし、というところがショックだった。しょうがないからできることをやろうと思って、とにかくひたすら頑張っていたかな。
でも、オンラインだと頭を使う作業の比重が高くて、それがすごくしんどかった。あとは、周りに頭を使うのがすごく得意な人がいて、自分もあんな風になりたいと思うんだけど、そうなれない。そういう場面に直面して辛いと感じたことはあったかな。
当時は、自分の評価軸が「頭の良さ」しかなかったんだよね。その中で自分の立ち位置を評価するようになっていたから、自己嫌悪みたいな状況になっちゃったかも。
3. 人との関わりから得た充実感
ー夏休みは少し大学の規制も落ち着いてきたと思うんだけど、夏休みはどんなことしてた?
夏休みは、群馬県の万座温泉ってところで住み込みのバイトしてた。9月に3週間くらいしてたかな。バイトなんだけど、空き時間には温泉に入ってもよくて(笑)すごくいい経験になったなあ。
夏休みに入る前に、先輩に「大学1年生の夏休みは1回しかないし、今しかできないことをしておいた方がいいよ」って言われて。それを受けて色々探してたんだけど、面白そうなものにはすぐに飛びついちゃう性格だから、「いいじゃん、面白そう、やってみよう!」って感じで始めた。
東京では人と会うという活動はしにくかったから、人と会って仕事ができるという環境は当時としてもすごくよかったなと思う。
ー確か、めいちゃんはこの頃にサークルでイベントの企画とかもしてたと思うんだけど、それも充実度に繋がってたりするのかな?
そうだね、私はもともと建築に興味があったから、「東大ドリームネット」( https://ut-base.info/circles/42 )っていうサークルで、「建築企画」っていうイベント企画を夏休みくらいから構想してて。
それは「建築に少し興味がある学生に向けて、建築の面白さを伝えよう」というコンセプトだった。建築企画を考えている時くらいから、「建築がどのように使われるか」みたいな、「建築が作られた後」にも興味を持つようになったんだよね。
ーめいちゃんの今の興味は「まちづくり」に向いてると思うんだけど、それもこの建築企画から始まったのかな?
そうそう。「柔軟な建築が受け入れられるまちって柔軟だよね」とか、「それっとどういうまちなんだろう」っていう、ソフト面に興味が寄って行った感じがする。建築企画が1つの転機だったのかもしれない。
4. 「充実してる風」の冬休み
ー1年生の冬休みはどんなことしてたの?
この時期はデザインや建築の勉強と読書とバイトで時間が過ぎていった。無駄な時間だったとは思ってないだけど、パソコンに向かって休憩して...を繰り返して、基本的に家にいたんだよね。全然毎日に体験がなくて、一人で勉強しているから、勉強している実感がないというか。もちろん、そこで学んだ知識は今にも生きているんだけど、心に響くような感動はなかった。だから、この冬休みは「充実してる風」な日々だったなと思ってるんだよね。
ーなるほど、人との関わりとか、体験・経験がなかったから「充実している」とは言えなかったと。
そうだね。その時「今はインプットの時期!」って割り切っていたかな。
5.「まちづくり」って、何だろう?
ー「建築」から「まちづくり」に興味がシフトした時は、めいちゃんの中でどんな変化があったの?
元々の軸は建築にあったんだよね。建築企画をしていたときに、「建築家さん達の中には、自分の建築がどのような街を作るかを考えている人が多いんだな」って気づいたことがきっかけで。そこで「まちづくり」という言葉が出てきて。
それと同じくらいの時期に、サークルの先輩に声をかけられて大船渡(岩手県大船渡市)にいくことになったの。そこで大船渡のキーパーソンみたいな人に話を聞いたり、いろんな場所を巡ったり。そのときに、「地域に飛び込んでいく」ってこういうことなんだ、って実感したんだよね。あと、その先輩に「めいちゃんきっとこういうこと得意だから、どんどんやっていったらいいよ!」って言われたのも結構覚えてる。
ー大船渡に行ったあと、めいちゃん鯖江(福井県鯖江市)にきてたみたいだけど(※注:筆者は福井県出身)鯖江に来ようと思ったきっかけは何だったの?
ちょうど東大の卒業生との懇親会があって。そのときに「面白いまちに興味があります」ということを発信していたら、鯖江に住んでいる面白い東大卒業生とつなげてもらったの。
それで、金沢に行っていたときに、その人から「鯖江来なよ!」って言われて。 「今金沢にいるんですけど、明日行ってもいいですか?」って言って、そのまま鯖江に行った(笑)
ー鯖江で一番印象に残った経験ってどんなことがあった?
それは間違いなく、その卒業生に「めいちゃん、まちづくりってなんだろうね」って問いかけられ続けたことですね。
「まちづくり」って言葉はすごく便利でよく使ってしまうんだけど、まちに関わる全てを包含してるんだよね。「じゃあ、あなたは『まちづくり』の中の何に興味があるの?」ってその人に聞かれながら、鯖江を連れ回してもらった。
鯖江はメガネのまちとして有名なんだけど、伝統工芸も盛んで。それで職人さんを訪問したんだけど、職人さんは自分が「まちづくり」をしているとは思ってない。地元や自分が引っ越してきたまちが好きで、そこに昔から伝わってきている商品を他の人に伝えたいだけ。
「外から見ると『まちづくり』としてキラキラして見える。でも実際は本当に泥臭いことばかりで、『まちづくり』をしていると思っているわけではない。ただ鯖江が好きで、そのために何かしたいと思っているだけ。」
って言われて、そこでハッとした。 私はその時まだ答えられなかった。「『まちづくり』とは何か」という問いに。
ー鯖江から東京に戻るまでに、その答えは見つかった?
鯖江から東京に戻る最後の日に、「『まちづくり』って、まちの一員になっていくことなんだと思います」って言ったのは覚えてる。
そのとき、私は鯖江でいろいろなところを見てきたけど、「鯖江でまちづくりをした」とは思えなくて。それはなんでかっていうと、その時はまだ「お客さん」だった。まだ鯖江の一員ではなかったんだよね。
6. 塩尻との出会い
ーめいちゃんは2S(2年夏学期)に塩尻にちょくちょく行ってたり、夏休みはずっと塩尻にいたりしてたけど、塩尻と出会ったきっかけはなんだったの?
2Sって、基本はオンライン授業だったから、「私、東京にいなくてもいいな」って思うようになったんだよね。地域に飛び込みながら2Sを過ごすのもありだなって。そこで、自分でも面白いまち・面白い場所を探したいと思っていろいろ調べていた。
最初はどう調べていいのかもわからなかったんだけど、段々試行錯誤しているうちに「移住支援マッチングサイト」みたいなところにたどり着いて。そこで塩尻にあるシェアハウス(宿場noie坂勘 https://noie-sakakan.jp/ )を見つけた。そこに2Sと夏休みはずっと関わり続けていたかな。
そこでシェアハウスのオーナーにメッセージ送ってzoomで話したんだけど、「あ、この人は会いに行かないとだめだ」って思ったんだよね。それで3月末に初めて会いに行った。
ーめいちゃんはそこから塩尻と東京の二拠点生活が始まったと思うんだけど、二拠点生活に至った理由を教えて欲しい!
初めて塩尻に行った時は2泊3日したんだけど、本当に濃い3日間で、帰ったときに知恵熱を出すくらいだったの(笑)シェアハウスのオーナーは地域活性のことを考えているんだけど、周りには自分の自己実現とか、周りの人をどうやったらハッピーにさせられるかとかを本当に真剣に考えている人たちがぎゅっと集まっている場所だった。
東京に戻るときに「次いつくるの?」って聞かれて。「1ヶ月後きます」って衝動的に言っちゃって、本当に1ヶ月後に行くっていう。 二拠点生活は、東京で対面授業がないときに塩尻に行く、って感じで進めていたかな。シェアメイト(シェアハウスに一緒に住んでいる人)のがお店を出すときに一緒についていったりとか、夜な夜な自分たちの今後について語り明かしていたりとかしてた。
今から思うと、この二拠点の時期は「関係づくり」の時期だったなと思っていて。夏休みに2ヶ月間じっくり長野にいるときに「初めまして」からじゃなくて、仲良くなってから滞在できたから、最初からトップギアで活動できたかな。
7. 「体験のわらしべ長者」、塩尻で得たもの
ー夏休みに塩尻に滞在してた時は何をしてたの?
まず、塩尻の起業家さんとかが集まっているコミュニティスペース(シビックイノベーション拠点 スナバ https://www.sunaba.org/ )でインターンをして、その運営に関わっていた。
あとは、シェアハウスで居候していたから、そこでお手伝いをしていました。
その合間を縫って「体験のわらしべ長者」をしていたなと思っています。イベントにきてくれたお客さんとSNSで繋がって、その人がやっている事業を見せてもらったり、またその人に紹介してもらったイベントにいったり、ということを繰り返していた。
ー塩尻に滞在する中で、一番心に残っていることとかあったら教えて欲しい!
一番大きな気づきとしては「コミュニティ作り」「まちづくり」「地域活性化」とかいうキラキラした言葉っていうのは、実際は全然キラキラしていないと気づいたこと。毎日泥臭いことをひたすらやっていると気づいたのがこの2ヶ月間だったな。
まちづくりをしたいと思っている人も、お店の周りを巡ってチラシを配り続けている、新しいお店の掃除とゴミ拾いをひたすらしている。シェアハウスの運営も「コミュニティ形成」といえばすごくキラキラしているけど、実際は毎日なくなるボディソープとシャンプーとコンディショナーを詰め替えたり、シェアメイトの不満を聞いて新しいルールを考えたり。そういう泥臭い99%の積み重ねが、外から見たら「キラキラしている」ように見えるのかなって。
8. 何も起きていない場所の魅力を発掘する、地域プレイヤー
ーめいちゃんは、これからの大学生活でどんなことをしていきたいと思ってる?
私の地元が、いわゆる「何もない」エリアなんだよね。みんな高校や大学に上がったときに「地元に何もないマウント」を取る、あの会話ってすごく不毛だなと思っていて。みんなが自分の地元を自慢できるような環境になったらいいのになと思ってる。
だから、何もない場所に何かを起こしたい。別にすごい盛り上がりがあって欲しいっていうわけではないんだけど、そこに住んでいる人たち皆が「このまち好きだな」って思えるようになったらいいなと思ってる。
今は地域のプレイヤーが圧倒的に少ないから、私は何もない地域で何かを起こすプレイヤーになりたいと思っています。
そのために今はいろんな地域を見るっていうのがすごく大事だなと思っていて。いろんな地域を見るのと同時に、その地域に関わっている人とのコネクションを持っておくのも自分の成長につながるだろうなと思ってる。
年内の活動としては、私の塩尻での体験を本にしたいと思っていて、そのための資金はクラウドファンディングで集めようと思ってる。リターンとして「イベントの運営します」とかを用意して、そこで繋がった人からもどんどん面白い地域を紹介してもらえたらいいなと考えていて。そういうふうに、自分が次のステップに進むきっかけにしたい。
9. 高校生へのメッセージ
ー最後に、高校生に向けたメッセージをお願いします!
「やりたいことがなくて大丈夫」ではなくて、「やりたいことなくても、何か気になり出して動き始めたら大丈夫」っていうメッセージを送りたいなと思っています。
「なんか気になるな」っていう自分のちょっとした感情の変化に敏感になって、それをちゃんと自分の中で持っておいて欲しいなと思っていて。それに従ってアクションを起こしていけば、絶対にそれ以降いろんな活動を繋いでくれる人が出てくる。「なんかこれ好きかも」を繰り返していけば、絶対に自分の「やりたいこと」に繋がっていくんじゃないかな。
と、私は思っているけれど、これは私が「体験」に重きを置いているからだと思います。そう言う意味で、一番は、自分がどういうやり方で生きていくのが自分に合っているのかを知っておくことかもしれません。もし、「行動を起こしたいけれど怖い…」って思っている人がいるならば「失敗なんてなくて、それはいいデータが取れる貴重な経験だから行動しちゃえ!」って言いたいし、「自分はちゃんと考えて、落とし込んでからじゃないと動き出せないタイプ」と思う人がいるならば、その「自分の中でじっくり考える」スキルみたいなものを伸ばしていけばいい。 どんなやり方も正解だと思うので、自分のやり方を自分で認めてあげることで、前に進んでいってほしいと思います。