【進振り体験記】#5 国際政治と決断のとき―迷いに迷った2ヶ月間

東大の大きな特徴である、進学選択(通称「進振り」)。
※進振りに関してはこちらの【科類紹介記事】をご参照ください!

——進振りを終えた東大生たちは何を基準に学部・学科を決めたのか?どんな手段で情報を集めたのか?自分の興味・関心にどう向き合ったのか?

悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!

今回は 文科一類 から 教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース に進学した学生の体験談です。

ぜひご覧ください!

1. 基本情報

今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。

◯名前:外園 駿 さん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:教養学部 教養学科 総合社会科学分科 国際関係論コース(詳細:こちら

2. 法3と国関で悩む、全ての東大生へ

 法学部第3類(政治コース:以下「法3」)と、教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース(長い!:以下「国関」)。政治学や国際関係論を学んでみたいと思っている多くの東大生にとって、よくある進振りの悩み方なのではないでしょうか。その例に漏れず、僕もその一人でした。

 1年以上もの間、法3に進学すると信じて疑わなかった僕は、ある時を境にその選択に疑問を持ち始め、徹底的に悩み尽くした結果、国関に進学することを決めました。この二択で悩んだ人の中で、自分は最も真剣に考え尽くした一人なのではないかと自負しています。

 そんな僕の経験が、法3と国関で悩む後輩たちの参考に少しでもなればと思い、この記事を書きました。当然ながら、どちらかが優れていると主張するための記事ではありません。双方の選択肢に長所と短所の両方が存在し、そこに優劣はありません。自分の選択を赤裸々に綴ったこの記事を読んだ皆さんが、双方の選択肢について少しでも理解の解像度を上げ、進振りの参考にして下さったらこんなに嬉しいことはありません。法3と国関で悩む、全ての東大生へ届きますように。

(大変長いので、時間の無い方は6・7・9を読んで頂ければ良いかなと思います!)

3. 大学入学まで

 高校時代の僕は、世界史を学ぶのが凄く好きでした。大体どの科目にもそれなりに興味を持っていた僕ですが、世界史についてはその質が違いました。今思い返せば、「人と人とのつながりの中で紡がれていく」歴史の、「ワールドワイドなスケールのダイナミズム」に惹かれていたんだと思います。

 小さい頃から人と関わることが好きだった僕は、「人と人とのつながりの中で何かを創り上げる」ことの楽しさから、高校時代に生徒会活動を一生懸命やっていました。おそらく世界史にも、同じような魅力を感じていたんだと思います。そして、良くも悪くもスケールの大きなものに惹かれるところがある僕は、それが世界大に展開される世界史に魅了されていきました。

 そんな中、先輩に「模擬国連」に誘われました。「模擬国連」とはざっくり言うと、参加者が割り当てられた各国の大使を模擬して架空の国連会議に参加し、交渉をして決議案の可決を目指す、という活動なのですが、漠然と政治や世界史が好きだった僕はこの活動が楽しくて、どんどんハマっていきました。その中で、大学では政治学や国際関係論を学びたいかもな、と漠然と考えるようになり、文科一類に入学しました。

 ただこの時には、興味分野が固まっていたわけでは全くないし、政治学や国際関係論の学問的な知識も当然ほぼ持っていませんでした。逆に、幅広く学んでじっくりと興味分野を定める時間が欲しいと思い、進振りがある東大に入学しました。

一方、ある尊敬する方に、

「大学に入る時点で興味分野なんて決まってないのが普通だよ。でも、現時点で敢えて言うならこれかな、と思う分野を一つ『仮決め』して、それを突き詰めてみなさい。そうしたら見えてくるものがある。それが本当に好きだったらそれで良いし、違うなと思っても、突き詰めてみた経験が次に他の分野を学ぶ時の糧になるから。」

と言われ、納得した僕は、その通りに「国際関係論」に仮決めをして学生生活をスタートさせました。結果的に僕の場合それがハマったわけですが、この「仮決め」という発想は、前期課程を過ごす上で凄く大事なんじゃないかなと思っています。

4. 高山ゼミとの出逢い、そして「国際政治学」のフィールドへ

 大学1年では、「高山ゼミ」という前期教養ゼミに入りました。「国際政治・経済・社会とメディア」というテーマで30年続いた歴史あるゼミで、2021年度をもって主宰の高山博教授が退官されたのに伴って終了しました。現在は「馬路ゼミ」に生まれ変わって再スタートしていますが(超オススメです!詳しくはこちら)、このゼミで僕は大切な仲間とコミュニティーを得ます。知的好奇心に溢れ、関心分野も近い彼ら彼女らとの出逢いは僕の人生を変えたとも言えるものでした。特に、その中で法学部推薦の友人に出逢い、「法学」という学問のイメージが一変します。

 大学に入る前の僕は、法学を「既存の法律を暗記して適用するだけの学問」と酷く誤解し、自分は絶対に興味を持たないだろうと考えていました。しかし、その友人と話したり、前期課程で「法Ⅰ」「法Ⅱ」の授業を受けたりする中で、成文として書かれているものだけが法なのではなく、その解釈は多様なのだということ、そして、法解釈だけでなく、法をいかに社会により適合したものにしていくかという「立法論」という領域があるのだということを知り、法学の奥深さに少し触れ、意外と面白いかもしれないと思うようになります。

 入学前も東大の学部については少しだけ知っていて、実は自分は国関に進学するのかなと思って入学したのですが、この頃(1年の6月ごろ)には既に、法学もある程度ちゃんとやりつつ政治学を体系的に学べる法3に行こうという考えが確固たるものになっていました。それは一年以上揺らがないことになります。

 一方で、仮決めした「国際関係論」を曲がりなりにも突き詰め始めた僕は、どんどんそこに引き込まれていくことになります。1Sでは石田淳先生の国際関係論を受講しましたが、「共通の不利益である戦争がなぜ生じてしまうのか」という問題意識から外交・安全保障をゲーム理論的に分析する授業は僕の知的好奇心を大いに刺激し、国際政治学のディシプリンと問題意識に魅了されていきました。1Aでは、同じく石田淳先生の社会科学ゼミナール「国際政治学の思考様式」を受講し、国際政治学の古典と呼ばれるE・H・カー『危機の二十年』・モーゲンソー『国際政治(上・中・下)』を輪読しました。教科書も執筆されている国際政治学の大御所の先生のゼミを7人で受けられるこの授業が本当に楽しく、この頃に自分は国際政治学を専門にするんだという意志が固まっていきました。

5. 藤原帰一先生に憧れて

 僕が大学1年を過ごした2021年は、法学部で23年に渡って国際政治を担当された藤原帰一先生が教鞭を執られる最後の年でもありました。メディア等にもよく出ておられる超有名な先生なので退官される前に授業を受けてみたく、たまたま時間割が空いていたので聴講するか、という軽い気持ちで2年生向けの法学部の国際政治の授業を聴講したのですが、それを通して僕は、藤原先生の問題意識や国際政治へのアプローチに心から魅了され、憧れるようになりました。藤原先生はとことんリアリスティックに国際政治の冷たい現実に向き合いながらも、平和への希求を決して忘れず、戦争を回避する可能性を探り続ける人でした。藤原先生が、最後の授業を

不必要な戦争は避けることができるという確信を持って、外交の役割に注目していかなければならない

という言葉で締められるのを聴いた時、自分はこのような国際政治を専門にして学びたいし、将来は実務で実現したいという、確固たる決意が芽生えました。

 藤原先生がまだいらっしゃれば法3に進学していたと思うので、縁は不思議なものだなと思います。

6. 「法学部第3類」に疑問を抱いた2年の6月

 法3に進学すると信じて疑わなかった僕は、2年生になると他の法学部生と同様に持ち出し科目(憲法・民法第1部・刑法第1部・法社会学)を受講し始めました。

 その中で、ほんの少しずつ違和感が芽生えていくことになります。まず、専門科目としてきちんと法学(特に実定法)を学び始めると、「やはり自分の性にはあまり合わないな、政治学が中心とは言え、これを中心に学んでいくのは辛いかもしれないな」と感じ始めました。加えて、法学部の授業は大人数授業(最も多いものは400人規模)が中心であり、先生や学生と意見を交わしながら学ぶのが好きな僕には、900番講堂のそのような授業の雰囲気を少し閉塞的に感じ始めました。

 そんな6月のある日、憲法の授業を受けていて(授業自体はとても分かりやすくかつ興味深いものでした!)、「このままここに進学して良いのだろうか」とふと強烈に感じる瞬間がありました。そこから、法3と国関で迷いまくる2ヶ月が幕を開けることになりました。

 まずは自分用のGoogleドキュメントを作り、そこに法3と国関の両方の長所・短所と自分が惹かれる点を列挙して比較していきました。そして政治学・国際関係論の分野で自分が習った教授たちにアポを取って相談していきました。この際、法3と国関の両方の立場の教授に話を聞くことを意識しました。加えて、専門にしたいと思っていた国際政治の両コースの担当の先生(法学部の遠藤乾先生・国関の湯川拓先生)にアポを取ってお話しし、自分の学びたい方向性にマッチするかを確認しました。

 また、もちろんUT-BASEの記事は参考にした上で、実際に法3と国関に進学された先輩に相談し、学べる内容についての生の声や、学科の雰囲気についてのぶっちゃけ話を聞きました。やはり、(この記事を含む)文面を通して伝わる情報には限界があるので、生の声を聞くというこの作業はとても大事だと思います。

 そうこうしてるうちに、Googleドキュメントは26ページになっていました。おそらく自分の中で考えられる全ての論点は出し尽くしたと思いますが、それでも一向に決まりません(笑)。どの観点が重要に映るかで、日によって考えが変わり続けるような状態でした。

7. 僕はなぜ最終的に国関を選んだか

 法3と国関の比較には、いくつか大きな軸が存在すると思います。

 一つ目は、学べる内容です。まず、政治学を体系的に学べるという点では、法3が圧倒的に優れています。この授業を取っていったら政治学という分野が網羅的に理解できるというのが明確ですし、教授陣が日本最高峰であることは間違いありません。それに対して国関は、良くも悪くも「教養」だという部分は確かにあり、2Aの国際政治、3Sの国際法、3Aの国際経済という必修の柱はありますが、注意しておかないと一つもディシプリンが身につかず中途半端に終わってしまう、というリスクが存在します。例えば、「国際」に限らない「政治学」の内容は自分で補わないといけないと思います。一方、「国際関係」に関わる授業が幅広く展開されている国関の学習内容はとにかく楽しく、また英語論文を読んでいく授業も多いため、英語力(特に読む力)が伸びるという魅力があります。

 二つ目は、授業スタイルとコミュニティーの強さです。上で書いたように法学部は大人数授業が基本+セメスターに一つゼミを取れる、という形なので、ゼミを除いてインタラクティブな授業はほぼ皆無であり、それゆえコミュニティーの広がりも限られてきます。一方で国関はそもそも学生の数が30人前後しかいないので、必然的にコミュニティーは強くなりますし、少人数授業が基本でディスカッションも多いので、責任が重くて大変な一方でかなり主体的に密度濃く学ぶことができます

 三つ目は、卒論の有無です。法3はリサーチペーパー(2単位)がありますが、最大で12000字であり、ゼミの中で書き上げるものであるため、「卒論」という規模のものを書く機会はありません。一方、国関は卒論が卒業要件の10単位分を占め、指導教員と密にコミュニケーションを取りながら、学部生活の集大成として4年生の一年間掛けて書き上げていくことになります。

 これらに加えて、立地という問題はありますね。やはりほとんどの3・4年生が本郷に行ってしまいますし、格好良い本郷キャンパスで学生生活を送りたいという憧れは、馬鹿にならないと思います(笑)。

 これらを比較した上で、僕にとって最終的に決め手になったのは、まず、自分にとっては「学ぶ内容」より「学び方」の方が大事なんじゃないかという点でした。法学部で政治学を体系的に学べるのはとても捨てがたかったのですが、いくらしっかり学んでも、何年、何十年という単位で見た時に忘れるものは忘れるな、と思ったんです。それに対して、ディスカッションで自分の意見をまとめて述べる技術であったり、まとまった英語の文章を読みこなす技術であったりは、一生モノになるんじゃないかと。また、最初に述べたように僕にとっては「人と人とのつながり」がとても大切なので、近い問題意識を持って切磋琢磨しながら密に学び合える仲間に出逢いたいという思いがありました。加えて、興味分野ど真ん中の石田淳先生の下で卒論を書きたかったというのもあります。

 ただ、色々と理由を並べ立てましたが、最後は直感でした。8月中旬の希望提出の期限ギリギリに決めたのですが、実家に帰ってリフレッシュして改めて考え直してみた時に、法3に進学した自分と国関に進学した自分を想像すると、国関に進学した自分の方が目を輝かせて充実した表情を浮かべているような気がしたんです。考え尽くしたのであれば、最後は自分の直感を信じてあげれば良いんじゃないかなと思います。

8. 国関での生活が始まって

 先輩方が皆言うことなので覚悟はしていましたが、それでも国関の生活は想像より遥かにハードでした。国際政治の必修が重い2Aが一番大変だとよく言われるのですが、特に後期課程の生活にも慣れていない2Aの前半はついていくのに精一杯で、本当にしんどかったです。

 それでも、国関での学びは本当に充実していて、楽しいです。国際政治学を学びたい自分にとって、「国際関係論(※一般的に、国際政治を主軸としつつ国際法や国際経済の観点を盛り込んだ学際的な学問と理解されることが多いです)」は興味分野のど真ん中ですし、どの授業も面白いものばかりです。何より、必修のゼミで毎週英語論文を読んで少人数で議論をするのは、本当に力がつきます。国関での生活が始まって2ヶ月強ですが、英語論文を読むスピードが圧倒的に上がったのを実感しています。

 また、切磋琢磨して学び合える仲間に出逢えたり、毎週先生のオフィスアワーに行って密に指導を受けたりと、欲しかった学習環境が手に入っている実感があります。自分の選択は間違っていなかったなと思います。

9. アドバイスとメッセージ―僭越ながら

 ここまで長々と書いてきましたが、学ぶ内容としては判断基準は意外とシンプルなんだと個人的には思います。政治学を学びたい人は、国際政治をやりたいなら国関、それ以外の政治学をやりたいなら法3、です。一方でやりたい学問が明確に固まっていない人には、英語論文を読んだり授業内で議論したりして「学び方」を鍛えられる国関をオススメします。

 そのほか、僕が上で書いてきたことが少しでも参考になれば、こんなに嬉しいことはありません。何度でも強調しますが、どちらの学科が優れている、ということは全くありません。あくまで、両学科の性質をしっかり把握した上で、「どちらが自分に合っているか」で判断するのが大事なんだと思います。

 そして、とことん悩むことはもちろん大事ですが、最後は自分の直感を信じましょう。決めてしまった後は、「どちらの道が正解だったか」ではなく、「自分の選んだ道を正解にする」というマインドセットで頑張ることが大事じゃないかなと思います。そうすると自ずと、後から良かったと思える選択になるのではないでしょうか。皆さんの進振りが成功することを、心から願っています。

# UT-BASEメンバーより

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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