新入生の皆さん、合格、本当におめでとうございます!突然ですが、皆さんは大学で受ける授業の選び方、つまり「履修」の組み方について考えたことがありますか?
この履修の入り口シリーズは、合格したばかりで東大の授業のしくみについて何も知らないという方、そして実は履修について良く分からないままここまで来てしまったという新入生に向けて執筆しました。
東大の履修制度は高校の時とは大違い。様々な要素が絡み合い、とても複雑で分かりにくいものになっています...しかし実は、学生が学問的な基本事項を押さえながらも幅広く学べるよう、よく考えられて体系が構成されています。履修の入り口シリーズでは、履修制度の全体像をつかみ、各科目を履修する意味を理解できるように解説をしていきます。そして皆さんが(他人の言いなりではなく)自分にとって最適な履修を組み、授業を受けられるようになることが目標です!
第1章では授業の開講時期から進学選択(進振り)まで、東大の各種制度を解説してから、履修に関する具体的な手続きや注意点についてお話しします。高校までのシステムと適宜対比させながら説明するので、イメージを膨らませつつ読んでみてくださいね!
第1節 開講時期と「コマ」
(1)学期
高校では1・2学期、前・後期など「学期」があったと思います。東大も同様です。もちろん、夏休み・冬休み(年末年始)・春休みもありますよ!東大の「学期」と長期休暇がどうなっているか、概観してみましょう。次の表をご覧ください。
さっそく不思議な単語がたくさん出てきました。
このような用語は、登場するごとに《🔑キーワード》というコーナーで順次解説していきますので、ご安心ください。
《🔑キーワード》
セメスター:おおよそ4か月をひとまとまりとする、東大における学期区分のこと。春〜夏のものは「Sセメスター」、秋〜冬のものは「Aセメスター」と呼ばれ、それぞれ「Sセメ」「Aセメ」と略される。
また、このS, Aの前に数字をつけて、学年を示すこともある。
例) 「1Sセメスター」= 1年生のSセメスターのこと。「1S」とも略される。
「2Aセメスター」= 2年生のAセメスターのこと。「2A」とも略される。
ターム:おおよそ2か月をひとまとまりとする学期区分。1つのセメスターは、前後半の2つのタームに分けられている。前後半どちらかは、SまたはAの後に数字をつけて表す。
例) 「S1ターム」 = Sセメスターの前半に配置されるタームのこと。「S1」とも呼ばれる。
「A2ターム」 = Aセメスターの後半に配置されるタームのこと。「A2」とも呼ばれる。
なお、1-2月のWタームは多くの人にとって春休みだが、農学部生をはじめとする一部の学生は授業がある。
(2)授業時間
東大の授業は、原則1コマ105分でした。
ただし、2020年度から、オンライン化に伴い、1コマ90分となっています。
2022年度も同様に、原則として1コマ90分となります。例外的に105分で実施するものもあるので、シラバスをよく確認しましょう!
(参考)2022年度Sセメスター(S1・S2 ターム)の授業について
授業が行なわれるコマの時間は、次のように定められています。
時限 |
授業時間(90分) |
授業時間(105分) |
1限 |
08:30 - 10:00 |
08:30 - 10:15 |
2限 |
10:25 - 11:55 |
10:25 - 12:10 |
3限 |
13:15 - 14:45 |
13:00 - 14:45 |
4限 |
15:05 - 16:40 |
14:55 - 16:40 |
5限 |
17:05 - 18:35 |
16:50 - 18:35 |
6限 |
19:00 - 20:30 |
18:45 - 20:30 |
《🔑キーワード》
コマ:1回の授業、授業の数の単位。「1コマ」。
第2節 東大の4年間
(1)進学選択(進振り)
東大の4年間は前半2年間の「前期課程」と後半2年間の「後期課程」に分かれています。前期課程から、後期課程に進むとき、どの学部・学科への進学を希望するのか決めなければなりません。
しかし各学科には定員があるため、進学希望者が定員を超える場合、前期課程の成績により選抜する必要が生じます。学生が志望学科を選択し、学科が受け入れる学生を選抜する、この過程が「進学選択」です。「進振り」とも呼ばれます。
進学選択は、2S(2年生Sセメスター)終了時の成績に基づいて行われます。
このあたりの仕組みはかなり複雑なので、ここで一旦切り上げて、後ほど触れることにしましょう。
(2)本記事との関係
この記事では、以下でさまざまな制度や科目区分を説明していきます。
これらは、全て「前期課程」について説明しているものです。
もちろん、後期課程にも共通するルールはありますが、それらの説明はまた別の記事に譲ることにします。
《🔑キーワード》
前期課程:東大で過ごすうち、前半2年間の課程。1,2年生全員が教養学部に所属して、教養教育を受ける。
後期課程:東大で過ごすうち、後半2年間の課程。各学科に分かれ、専門教育を受ける。
進学:前期課程で必要な単位を揃えて、後期課程に進むこと。
進学選択:各自が進みたい後期課程の学部・学科を決め、2Sまでの成績に応じた志望先へ進学を決定すること。
内定:進学選択の結果、翌年度から各学部学科に所属する権利を獲得すること。2A末時点で、前期課程を修了する条件を全て満たせば、自動的に翌年から内定を得ている進学先に進学できる。
第3節 授業と単位
(1)高校の授業と大学の授業の違い
まずは高校と大学の違いを確認しましょう!(2)以降では、その違いを1つ1つ詳しく見ていきます。
<1科目の、授業の長さ・回数が違う>
高校:1つの科目の授業は1年間が区切り
大学:1つの科目の授業は1つのターム(2か月)や1つのセメスター(4か月)が区切り
…大学の授業は高校よりも短い期間で完結します。
高校:科目ごとにコマ数が違う
大学:科目ごとにコマ数は共通
…例えば、高校では「数学が週に6コマあるのに対して政治経済は週1コマ」という感じですが、大学では、数学も政経も(セメスター制で後に述べる単位数が同じなら)週1コマ・計13回で共通です。
<時間割の組み方が違う>
高校:時間割が既に決まっていて、選択科目が選べるくらい
大学:既に決まっている部分もあるが、それ以外は自由にカスタマイズ可能
…大学では一人ひとり、時間割が異なります。だから「履修登録」を通じて時間割を大学に申告する必要があります。
<定期テスト・成績評価が違う>
高校:学年全員に共通する問題で、一斉に期末試験
大学:先生ごとに独自の期末試験、レポート、課題提出など
…同じ名前の科目が複数開講されている場合は、先生ごとにバラバラの成績評価になります。
高校:1~5や1~10の内申点で評価。基本的に不合格にはならない。
大学:0~100点で評価。50点未満は容赦なく不合格になる。
…高校までは赤点でも何とかなったかもしれませんが、大学では50点未満は容赦なくアウト(=不合格=単位が貰えない!)になります。
それでは、(2)からは大学の授業の特徴を詳しく見ていきましょう。
(2)曜限の固定と授業回数
各科目は、授業が行なわれる曜日・時限が決められています。
これを略して、「曜限」と呼びます。
例) 金曜日の2限に行われる授業の曜限は「金2」
大学の授業は1学期の間に完結し、開講される曜限は固定なので、1セメスターの間、週1コマ行われる授業の回数は「13回」、1タームでは「7回」です。
授業時間が90分(105分)と長い分、授業回数は少なくなっていますね。
(3)履修登録
大学の時間割はカスタマイズ可能です。カスタマイズは履修登録、言い換えれば、自分が参加したい授業をシステムに登録する作業によって行います。
履修登録は、学務システムのUTAS上で行なわなければなりません。慣れるまでは紛らわしいですが、UTASの「お気に入り登録」機能や、もう一方の学務システムであるITC-LMSでの「受講登録」では、履修登録とみなされないので、注意が必要です。あくまでUTASの「履修登録」メニューから登録する必要があります。
なお、以下の条件にあてはまる科目は、履修登録できないので要注意です!
①コマが重複する科目
…人間は分裂できないので、開講曜限が被っている2以上の授業を履修することはできません。なお、同一曜限で同時に開講される2以上の授業に出席することを、ハリーポッターからとって「ハーマイオニー受講」と呼びます。
②過去に単位を取得した科目と同名の科目
…一度、学期末の成績評価で50点以上をとってしまうと、その科目は二度と履修できません。重複する内容の授業を複数受けても新しい学びは得られないからです。一部例外がありますが、それはまた別の機会に。
③履修対象学生になっていない科目
…ほとんどの科目には、シラバスの「対象」欄に「1年 文科 2年 文科」などと書かれています。これは、「1・2年生の文科一類・文科二類・文科三類に所属している人だけこの授業を履修できる」という意味です。理系の方は履修できません。自分が受けたい授業で対象になっているか、シラバスを見て確認しましょう。
《🔑キーワード》
履修:UTASの「履修登録」により登録し、授業に参加する資格を持って授業を受けること。
履修登録:学期のはじめに、どの授業を履修するか、教務課に申告すること。UTASを通して指定された期間内に行なわなければならない。
UTAS:教務課への申請、お知らせの受領、履修登録、成績の確認など、いわば「オンライン教務課」。University of Tokyo Academicaffair Systemの略。
ITC-LMS:教材の受領、授業に関する連絡の受領、課題提出など、履修する授業に関して教員と直接やり取りをするためのサイト。履修登録前には、さまざまな授業を検討するため、ITC-LMS上でさまざまな授業を受講登録することが可能となるが、これは履修登録とは異なる。
UTASとITC-LMSの違いをより詳しく知りたい方は学務システムの解説記事を読んでみてください!
(4)単位と成績評価
高校の時は各学期に定期試験を行ったと思います。
他方、大学では(中間試験などを実施することもありますが)、学期(ターム・セメスター)末に試験を実施したり、レポート課題を提出したりします。
履修登録した科目の成績は、学期末のテストや授業中に出た課題、平常点(出席点や授業中の発言、小テストなど)などから100点満点で採点されます。その結果、その科目で最終的に50点以上の点数であれば、「単位」が与えられます。逆に、49点以下なら単位は与えられず、「落単」と呼ばれています。
「単位」とは、その授業を必要最低限のレベル以上で理解していることを示す「ポイント」です。進学選択(進振り)に参加したり前期課程を修了したりするためには、一定数の単位(ポイント)を集める必要があります。
ところで、高校では内申点という形で最終的な成績は1~5段階、または1~10段階で評価された、という人が多いでしょう。東大でもそのような5段階表示(評語)があります。その5段階は「優上」「優」「良」「可」「不可」です。それぞれ、「0点~49点が不可」という仕組みになっています。50点以上なら単位が与えられるので、「不可」の場合は落単ですね。
点数と5段階表示との関係は、下掲の表をご覧下さい。
単位の有無
|
評価
|
点数
|
〇
|
優上
|
90-100点
|
優
|
80-89点
|
良
|
65-79点
|
可
|
50-64点
|
×
|
不可
|
0-49点
|
《🔑キーワード》
単位:授業内容を理解したことを示す指標。進振り・卒業・後期課程への進学など、在学生全員が可能なものは、この単位の有無により可否が判定される。
成績評価:授業をどの程度理解したかを示す指標。点数に応じて、「優上」「優」「良」「可」「不可」で判定される。進振りなど、在学生の中での選抜は、この成績に基づいて行なわれる。
(5)成績評価の方法
高校では、原則として全科目で統一的に試験を実施し、評価が下されていたところが多いかと思います。
しかし、大学の評価方法は少しバリエーションが増えます。代表的なものは、以下の方法です。
①試験
②レポート
③平常点(出席や授業中の議論への参加など)
さらに、①試験は、①-A 定期試験と、①-B 繰上試験に分けられます。
①-A 定期試験
学期末に試験期間が指定され、その期間内で教務課が指定した時間に行われます。
高校と違い、試験期間は1セメスター(ターム)に1回のみ設定されるので、一斉に全科目で行われる中間試験のようなものはありません。
①-B 繰り上げ試験
一部科目(総合科目L系列など)で試験を行う場合には、試験期間ではなく、通常授業の最終回に実施することになっています。これを繰り上げ試験と言います。
②レポート
指定されたテーマについて、自身で授業内容を整理したり、文献を調べたりして、一定量の文章を執筆します。
③平常点
出席、発言、態度、小テストなど、授業期間内のさまざまな要素が考慮されます。
(6)単位数
先程、その科目で50点以上を獲得する(=合格)と「単位」(ポイントのようなもの)が貰えると書きました。それでは、1科目の合格につき、どれくらいの単位数(ポイント)を獲得できるのでしょう?
単位数は、①科目の種類・②授業期間の長さ・③週何コマあるかによって決まってきます。
まず皆さんに覚えてほしいのは、「①講義・演習で、②セメスター制で、③週1コマの授業は2単位」ということです。これを基準に考えます。
①科目の種類は、「講義・演習」と「実験・実習」の2種類があります。
その科目が「実験・実習」の場合には、上の基準の単位数を0.5倍にしてください。
例えば、「①実験・実習で、②セメスター制で、③週1コマの授業は、2* 0.5= 1単位」です。
※「実験・実習」に分類される科目には、科目名に必ず「実験」や「実習」の文字が入っています。逆に、その文字が入っていなければ「講義・演習」に分類されます。
②授業期間の長さは、セメスター制とターム制があります。
セメスター制なら基準の単位数×1倍、ターム制なら基準の単位数×0.5倍です。
例えば、「①実験・実習で、②ターム制で、③週1コマの授業は、2 * 0.5 * 0.5 = 0.5単位」です。
③その科目が週nコマの授業であれば、基準の単位数にnを掛けます。
例えば、「①実験・実習で、②ターム制で、③週2コマの授業は、2 * 0.5 * 0.5 * 2 = 1単位」です。
授業によって、与えられる単位の量(単位数)が決まっています。
この単位数は、授業期間や週当たりのコマ数、授業の性質に応じて、以下のように決められています。
授業種別(授業期間)
|
週コマ数
|
与えられる単位数
|
講義・演習
(セメスター)
|
1
|
2
|
実験・実習
(セメスター)
|
1
|
1
|
講義・演習(ターム)
|
1
|
1
|
実験・実習(ターム)
|
1
|
0.5
|
講義・演習
(セメスター)
|
2
|
4
|
実験・実習
(セメスター)
|
2
|
2
|
講義・演習(ターム)
|
2
|
2
|
実験・実習(ターム)
|
2
|
1
|
…とても分かりにくい表ですね。
ご安心ください。次のように考えれば簡単です。
ほとんどの授業は、週に1コマ、1セメスターにわたって行なわれる、普通の講義で、2単位が与えられます。
このような講義では、内容を理解するため、予習・復習を行うことが前提とされています。
(実際、復習を怠ると、試験前に困ります。)
では、実験や実習など、授業中に行う何かが重要で、(少なくとも建前上)比較的予復習の負担が軽い(とされている)ものはどうでしょうか。
予復習を含めた全体としての学習時間が少なくなる分、同じだけの単位を与えるわけにはいきません。
そこで、このような科目は、通常の講義と同期間・同回数の授業で、半分の1単位が与えられます。
あとは、授業期間が半分なら上の単位数を半分に、週に2コマなら単位数を2倍にすれば良いだけです。
(7)キャップ制度
授業の1コマあたりの時間が長いのは、上で見た通りです。
では、高校と同じように毎日1-5限まで授業を受けたらどうなるでしょうか。
…そうです、あまりのハードさに全てが中途半端になり、何も頭に残らないまま学期が終わる可能性すらあります。
これを防ぐため、1セメスターあたりに履修登録できる単位数に上限が設けられています。
これを「キャップ制」といいます。東大の前期教養では、30単位に設定されています。例外もありますが、だいたい週15コマ程度になりますね。
《🔑キーワード》
キャップ制:一定の期間内に履修できる授業の量に上限を設ける制度。東大の前期教養では1セメスターあたり30単位。成績によっては例外措置を受けることができる。
潜り:キャップ制により履修登録できない、あるいは単に成績評価は受けたくないけれどどうしても聴きたい授業に、履修登録がないにも関わらず参加すること。
長くなってしまいました。今回はここで切り上げましょう。
次回の記事「履修の入り口 第2章 〜授業区分〜」は、
①授業はどのように区分されているのか
②それぞれの授業の必須度はどのようになっているのか
の2点を解説します。