東大の大きな特徴である、進学選択(通称「進振り」)。
※進振りに関してはこちらの【科類紹介記事】をご参照ください!
——進振りを終えた東大生たちは何を基準に学部・学科を決めたのか?どんな手段で情報を集めたのか?自分の興味・関心にどう向き合ったのか?
悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は理科三類 から 医学部医学科 に進学した学生の体験談です。
ぜひご覧ください!
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:T.T. さん
◯出身科類:理科三類
◯進学先:医学部医学科(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
Q. なぜ理科三類を選んだのでしょうか?また、高校時代にはどのようなことに関心がありましたか?
高校の時は、物理の勉強が大好きでした。本当に単純な数式で世の中の現象が説明できることにロマンを感じていました。しかし、物理の面白さに魅了されていくと同時に、物理をライフワークとしてずっとやって行きたいわけではないということにも気づきました。それよりは、もっと直接的に社会課題にアプローチする何かがやりたいなと考えていました。そこで、関心があったのは「格差」でした。幼い頃にアメリカに住んでいて、街中でホームレスの方を見た時から抱いていた社会に対する感情が、「生まれという、どうしようもない外的要因で享受できるものが変わることに対する違和感」として言語化されたような状態でした。
それにどう取り組むのか、ということを考えたときに、まずは誰もが自分の命を守れる状態に持っていきたいという思いから医療に興味を持ったり、UNICEFの活動に興味があったことから教育に興味を持ったりしました。
Q. なぜ東大だったのでしょうか?
1番の決め手になったのは、高校生の時に、Stanford e-Japanという課外活動に参加したことです。そこでは日本各地にいる高校生と価値観を正面からぶつけ合うという経験をし、そういうのが初めてだった僕にとってあまりにも刺激的な場所でした。ショックを受けると同時に、「こんなにも意見をぶつけ合える場所があるのか」と驚いたことを覚えています。そして、「東大に行ったらこういう人たちにたくさん出会えるのではないか!?行ってみたい!」と考えるようになりました。
Q. 入学時から現在を振り返って、どのくらい興味や関心が変わりましたか?
1Sの時は空白という感じで、あまり何も考えていませんでした。しかし、1AでUT-Basecampという自主ゼミに参加して、そこの参加者はそれぞれが自分の興味分野を持っているということに気付きました。
そこから「自分が関心があることは何だろう?」と考え始めて、街や交通が好きだから都市工学の道に進もうとか、好きな物理を専門とする教師になろうかなとか、あとはずっと興味を持っている医療という三者の選択肢の間で揺れていました。1A〜2年生の初夏まではずっと悩んでいて、1日単位で行きたいと思う学部・学科が変わることもありました。
3. ターニングポイント
Q. その三者の間で揺れていたということですが、何かターニングポイントとなる出来事はありましたか?
2年の初夏に、印象的な出来事が重なりました。
5月のある日、夜中にTwitterを見ている時に、知らないアカウントの東大生が、「東大に入って、周りが賢すぎて、学校に行けなくなって、精神的にしんどい。」という心情を吐露している投稿を目にしました。それを見て僕は、「その人に転機が訪れなかったら、このまま自殺してしまうんじゃないか」「僕ができることはないだろうか?」と夜遅くまで考えました。しかし、その時僕は何もできませんでした。
その次の日に、興味を持っていた都市工学系の学部(工学部都市工学科・社会基盤学科・建築学科)の合同ガイダンスがありました。
その合同ガイダンスに足を運んだわけですが、その話を聞く中で、突然「都市工学と、教員と、医療に興味があった僕の軸になっているものは『個人』だ」とビビッと気付いた瞬間がありました。
ガイダンスの中で街や建築のモデルが出てきましたが、それを見て話を聞く中で、都市工学では、その人たちと同じ視点ではなく一歩引いた高い視点から人々を見ている、その街の「駒」として人々を見ているような印象を受けました。
しかし、「僕はもっと『感情や物理的な身体を持った自分』という存在を通して1対1で相手と向き合って、それを通じて人にアプローチするやり方をしたいんだ」と思ったんです。
それを踏まえると、迷っていた三者の選択肢の共通項が見えました。
街づくりが面白そうだと思ったのは、街の中で「個人」がどういうふうに過ごして、どういうふうに街を通してその人が幸せや心の癒しを得られるのか、というところに興味があったからでした。
教師になりたいと思ったのは、画一化された教育システムの中で単一的な価値で図られ、精神の調子を崩してしまったり、自分に価値を見出せなくなってしまったりした「個人」を見てきて、それに対してすごく疑問を持っていたから、教員というプレイヤーとしてそれに取り組みたいと思っていたんだと気付きました。
そして、前日のTwitterで見た投稿と、その「個人」へのアプローチに対する関心が繋がって、学部生の間はとことん人というものに向き合いたいという思いから、精神的な部分への医学という選択肢に最も強く惹かれました。
「周りが何をしていても、自分はこれがしたいんだ」と思えるものに出会えたのは、その2日間の決定的な出来事を通じてでした。それ以降は、ほとんど迷わなかったです。
Q. カウンセリングなどといった心理の道ではなく、医学に強く惹かれたのはなぜだったのでしょうか。
自分でも説明が難しい部分はありますが、科学的な専門知識をベースにして相手に対して最後まで自分でアプローチしたいという思いがあったからだと思います。
Q. 他に、授業や課外活動でターニングポイントとなった出来事はありますか?
僕は1A〜2Sにかけて、TEDxUTokyoの実行委員会で人事に関わる活動をしていたのですが、そこで初めて「メンブレ(※)」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。高校生まではそんなことを考えたことがなかったし、自分自身もあまりメンタルの調子を崩すタイプではないので、「人の心ってこんなに壊れやすいんだ」「1個の出来事で、人はこんなに簡単に崩れてしまうんだ」「そうなってしまったら、もう動けなくなるほどの苦しみなんだ」ということに衝撃を受けました。
高校までは医学といっても癌などに興味がありましたが、これをきっかけに、精神面にアプローチする医学に興味を持つようになっていました。
5月の2日間で進路が固まったと言いましたが、この経験は潜在的に自分の「個人の心」への関心に繋がっていたのだと思います。
※メンブレとは、「メンタルブレイク」の略で、衝撃的な出来事で精神的に参ってしまったり大いに落ち込んだりする状況を表現する言い方。
5. 悩み・葛藤・苦悩
Q. 進学先を決定するまでの過程で、悩んだり迷ったりしたことはありましたか?
1年生の12月頃にすごく考えていたのは、「自分が医学を捨てきれないのは理Ⅲに縛られているからじゃないか?」ということでした。
高校時代は勉強にかなりの時間やエネルギーを費やしたこともあって、「頑張ったから医学部に行かないのはもったいない」と自分が思っているのではないか?医学部にいくという選択は自分にとって逃げの選択なのではないか?ということを自問したり、「もし医学以外の道を選んだとしたら、せっかく人の命にアプローチできる機会があるのにそれを使わなかったことを後悔するんじゃないか?」と考えたりしました。
これは2年生の3月頃からいつしか考えなくなりました。その代わり、今度は自分の感情面でやりたいことを優先すべきか、論理面でやりたいことを優先すべきか、ということで悩み始めました。
具体的にどういうことかというと、僕は自分が教員になる姿をすごくイメージできました。楽しそうだと思ったし、自分が解決したい問題も明確に見えていて「やりたい」と強く思っていました。
しかし、医学の道に進むことについては、臨床なのか研究なのか、あるいは行政なのかということも決めていないし、医学部に行ってそもそも自分は何をするのかの解像度が高くない状態でした。「やりたい」と感情が動いたというよりは、多くの人の生命に関わることができるため「やりがいがあるだろうな」と論理的に考えていたように思います。
Q. 今はその悩みについてどのように考えられていますか?
前述したような5月の出来事で、その「やりがいがあるだろうな」が「やりたい!」に変わりました。
でも、「一生医療で食べていくぞ」というよりは、とりあえず学部を卒業する24歳までという期間を医学を通して人と向き合うことに使いたい、そして今後何をするにしてもその6年間は絶対に無駄にはならない大切なものになるだろうな、と思いました。
また、進振りで悩んでいたときに相談した友人が「自分は学部では医学をやるけど卒業後は大好きな海の研究をしたい」と言っていて、「学部生では学部生時代の自分がやりたいことをやるのでいいんじゃないの」と言ってくれました。
それを聞いて、将来のキャリアから逆算して学部を決めるより、いまやりたいことをとりあえず学部でやる、という考え方に変わったと思います。
僕はかなり先々を考えて悩んでしまうタイプですが、この頃からそうではなくなってきているような気がします。今やりたいことをやろう!という気持ちで動いています。
6. 現在の学部・学科での生活/満足感
Q. 実際に医学部に進学してみて、授業や雰囲気についてどのように感じられていますか。
2Aでの勉強はミクロな部分が多いですが、人の生命に関係していることが感じられ、聞いていて楽しいし「自分もこういうことができるようになるのか!」という高揚感があります。
教授陣にはやはり医学界のトップランナーが集まっているので、例えば「10年前に私が見つけたこれこれによって、それまではどうしようもなかった病気が治る病気になりました」なんていう話を聞くと、「一人の手で何百万人という人々の生命を救えるんだ」ということが実感できて感動します。
進学まではメンタルに興味がありましたが、実際に進学して授業を受けたり勉強したりして、一気に視野が広がりました。今では基礎研究も面白そうだな、と思っています。
7. アドバイス・メッセージ
Q. 迷った学部学科について、情報収集はどのような媒体・手段で行われましたか。
UT-BASEの記事はたくさん見ていました!
その他、都市工学と医学部については、実際に進学した先輩の話を聞くことで解像度がすごく上がりました。
Q. 今後進振りを迎える方々に、何かメッセージはありますか?
僕の進振りは結果的には理3→医学部という王道の道ではありますが、それでも悩み続けたことがよかったと思っています。無理に早く決めようとはしませんでした。
そうすることで、無意識のうちに日常生活の中で心に残っていた色々なことが繋がっていくのではないでしょうか。自分の場合は、そうしてずっと考えていたからこそ、5月の決定的な瞬間が来ました。
悩み続けたことで「逃げの選択」としてではなく「攻めの選択」として医学部進学を決断できたことも良かったです。
また、とにかく自分が迷っているということを色々な人に話して、その人たちの話を聞くのが良いと思います。人によって考え方が全く違うので、自分の中での判断基準が増えました。
数をたくさん聞いても、自分の判断軸とはズレるものは無理に採用しなくても大丈夫ですが、意外な人から意外なことを言われるかもしれないので、人を選ばずにたくさんの意見を聞いてみるといいかもしれません!
UT-BASEメンバーより
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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