民俗学の不思議な魅力〜塚原伸治先生(教養学部文化人類学コース)〜

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初めに

 
今回訪問したのは、教養学部文化人類学コース/大学院総合文化研究科 塚原伸治先生です。
先生の情報はこちらから!!
 
メンバー:私は石川県に生まれ、昔から続くお祭りに小さな頃から参加してきました。また、歴史が好きで昔から続く営みに興味を持っていました。そんな時大学で「歴史と文化」の授業を受け、民俗学という学問に出会います。私の中で「民俗学」はとても興味があるけれど実際にどんなものかと聞かれると説明も難しいという学問でした。
そこで今回は「歴史と文化」の授業をされ、民俗学の研究をしていらっしゃる塚原先生の研究室に訪問し、民俗学についてお話を伺います。
特に、
・先生と民俗学との関わり
・日常と民俗学との関わり
の2点に着目し、魅力的ではあるものの、抽象的でなかなか掴みどころが難しい民俗学について、迫っていきたいと思います。
 

民俗学との出会い

メンバー: 先生が民俗学に興味を持たれたのはいつ頃ですか?
 
先生: 民俗学を専門にしたのは大学入学の時なのですが、小さな頃からお祭りには興味がありました。千葉県の佐原の祭りに小さな時から参加していて、お祭りの囃子の演奏もしていました。でも、ただ単に好きだっていうんじゃなくて、不思議に感じるような面があったんです。「あれって何なんだろう」という気持ちですね。
 
メンバー: そうなんですね!私もお祭りに参加した時に不思議な魅力を感じたことがあります。先生はお祭りのどういった点に惹かれたのでしょうか。
 
先生: 佐原の祭りではかなり大きな山車が出るんですよ。それを夏の暑い中動かすんです。しかも大変な労力をかけて。大人はそれを普通のことだと疑問にも思ってないようだったのですが、僕は「なぜこれをやってるんだ?」という気持ちでいっぱいでした。
 
メンバー: なるほど。確かに私も地元の祭りを見て同じような感覚を抱いたことがあります。このような小さな頃の体験が一つのきっかけとなり、民俗学の道に進まれたのですね。
 

民俗学ってどんな学問?

メンバー: 民俗学についてはっきりイメージするのが難しいのですが、民俗学とはどのような学問なのでしょうか。昔から続く伝統について学ぶような学問なのでしょうか。
 
先生: 初めは僕も民俗学は伝統文化などを研究するものだと思っていました。ただ、実際は必ずしもそうでは無かったです。伝統的なものも扱いますが、どちらかというとある人たちが自分たちなりに育んできたものや、自分たちなりに作り出してきたものについての関心なんだということに気づきました。
 
伝統って言うと「今生きている人」が浮いてしまうというか、昔の時代だけにフォーカスしているような気がするんです。でも民俗学は、昔だけじゃなくて「今生きている人」に注目するものだと思います。
 
メンバー: なるほど。民俗学は伝統にフォーカスしているイメージがあったので、認識を改めようと思いました。民俗学は歴史学に似ている印象があるのですが、今仰って頂いたようなところが違いになるのでしょうか。
 
先生: いや、民俗学も歴史学も、そこまで厳然たる違いというのは無いと思うんですよ。東大では進振りとかもあるから、どうしても学問同士に厳然たる差があるように感じますけど、学問の間はいろんな形で繋がっているんです。
 
私自身も歴史学部会に所属していますし、民俗学が歴史学に影響を与えたり、逆に歴史学が民俗学に影響を与えたりすることも多くあります。民俗学はこういうのですと言いながら、とはいえ他の分野と大きく重なっているということを伝えたいです。しかもその方が一緒に研究できる人が増えますからね。
 
メンバー: 民俗学は他の学問とも深く繋がっているのですね。他にどんな民俗学の特徴がありますか。
 
先生: もう一つ民俗学に特徴的だと思うのは、大学に勤める職業的研究者が多くないことかなと思います。博物館の学芸員とか、自治体の職員とか、民間企業に勤めながら学会に出てくる人とか、大学に所属せず民俗学に関わっている人が多いんです。
 
それぞれの立場から物を考えたり研究している人がたくさんいるって、すごい魅力的ですよね。勿論大変さもありますけど、そこがとても面白いと思います。既にいろんな人がいるから新しい人が入るハードルが低いというのもあります。学会の研究会とかでも学部生が普通に来てくれますしね。
 
メンバー: 民俗学の魅力が沢山伝わってきました。
 
先生: 他にも、民俗学のあまり偉そうじゃないところがいいですね。民俗学は鳥の目で見るというよりは地面から、人間に近いところから見ている感じが魅力だと思っています。
 

現在の活動

メンバー: 続いて先生が現在尽力されている活動についてお聞きしていきたいです。今はどういった研究をされているのでしょうか。
 
先生: 今は商店街で生きてきた人たちの歴史を書きたいなと思っています。授業でも扱いましたが、福岡県の柳川に小さな商店街があって、そこに2006年くらいからずっと通っています。僕が書きたいのは、商店街の歴史というより、商店街で生きてきた人たちの歴史なんですよね。
 
地方都市の商店街って、大型ショッピングモールができて商店街がダメになったとか新自由主義的な経済政策によってダメになったみたいな物語が支配的で、型にはまった物語として語られることが多いと思います。だけどそれはその商店街で喜怒哀楽をもって具体的に生きてきた人の姿を後ろに追いやってしまっている気がするんです。
 
確かに地方都市の商店街は大変なところが多いし、柳川の商店街もかつてみたいに賑わっているとは必ずしも言えません。だけどその大変さも含めながら、その人たちの目線から書くというのが僕が今していることです。
 
メンバー: 先ほど仰っていた、「民俗学は人間に近いところから見る」という言葉を思い出しました。他にも民俗学の分野で考えたいことなどはありますか。
 
先生: もう一つ民俗学において考えるべき素材だと思っているのが地方都市についてです。
 
都市民俗学というのが1980年代から90年代初頭くらいに流行って、都市が色んな分野でフォーカスされていました。その時に都市民俗学に期待されていたものは大きくて、それまでの土地に根差した伝統文化を扱うような民俗学ではなく、私たちが生きる同時代の現象をちゃんと考えられるようになるという期待がありました。
 
その時期に注目を浴びたものの一つに都市伝説urban legendがあります。実はあれは民俗学が流行らせた言葉の一つなんですよ。口裂け女とかも特定の場所に根差した物語ではないように、そういう普遍的なものについてももっと民俗学が扱っていこうという風潮になっていきました。
 
伝統的な民俗学の研究対象は地域的な特徴をもつ事象が多くてどこでも見られるようなものは少なかったので、その流れは凄く良かったと思います。
 
メンバー: 民俗学にはそんな流れがあったんですね。その流れに関して先生はどう感じられましたか。
 
先生: 一つだけ心残りなことがありました。それは都市というのが「〇〇では無くて△△」というような形で定義されてきたために、必然的に二項対立を形成してしまっていたという点です。農村じゃなくて都市とか、伝統じゃなくて流行とか、過去じゃなくて現在とか。だから具体的な農村とか都市とかの話よりも、今私たちが生きるこの社会をどう民俗学が捉えられるのかという問いの形になってしまったんですよね。
 
僕が少しその流れに置いて行かれちゃうなという感じがするのは、「都市」と言っても色々だろうということなんですね。地方でありかつ農村ではない、僕が生まれ育ったような街はどの分類になるんだろうという疑問も出てきます。
 
だから僕はもっと地方という言葉にこだわっていきたいです。昔ながらの農村生活だと言われるとそれは違うけど、かといって東京のような都会と一緒だというのも違うと思うんです。地方はその間のような感じもあって、これをしっかり考えていきたいです。土地に根ざしたものは、やはり大切にしたいですね。
 

民俗学と日常

メンバー: 学外活動と研究との繋がりはありますか。
 
先生: 民俗学者は、その気になれば 24 時間 365 日民俗学者でいることができるんですよ。つまり日常の中でも何か疑問を持っている限りは常に研究と繋がっていられるということです。
 
僕は商売の研究、特に商店街で自営業をされている方の研究をしてきたのですが、お店で物を買ってレジでピッてされるのも立ち止まって考えてみると不思議なことですよね。僕たちは何かを買うときに相手の事を何も知らない、名前も知らないわけです。
 
その関係をこれまで民俗学は歴史的な検証など様々な方法で説明してきました。知らない人と売買することが中心になったのも、そんなに古い起源があるわけではないのです。昔行われていたような近所づきあいや親の知り合いの中での売買と、今行われているような相手を知らなくても成立する売買の違いを考えることはよくあります。自分でもめんどくさいやつだなとは思いますけど(笑)
 
メンバー: ありがとうございます。民俗学は本当に身近にあるんですね。私たちも少し意識すれば普段から民俗学と繋がれるということでしょうか。
 
先生: そうですね。皆さんには特に、八百屋でも酒屋でも肉屋でもいいから、そういったお店に是非行ってほしいなと思いますね。東京にもいっぱいあるはずです。専門家から教わりながらものを買うって、他では得難い経験なんですよ。
 
なんとなく地方の商店街って言うとイメージ化されて語られちゃうけど、それぞれの店にそれぞれの専門家がいるっていうことは、よく考えるとすごいことだと思います。スーパーやコンビニの店員さんは、言ってしまえば置き換えることもできてしまうと思うんですけど、商店街で自営のお店だとそうはいかない。親も祖父母もその商品を売り続けてきた人だったりするのだから。
 
やっぱり、僕がフィールドワークで学んだのはそれですね。その人たちが持ってる知識とか技術って素朴に凄いなって思います。
 
2023年の現在、物を売ったり買ったりする行為がどんどん人間関係から離れていっているし、そこには止められない部分もあります。だけど全部がそうなっていっているわけでもない。絶対こうしなさい、と言うわけではないですが、ぜひそういった商店街のお店に行って、その専門家から教わりながらものを買うという経験をしてみてほしいです。
 

今後の展望

メンバー: それでは最後に、先生がこれからやりたいことを教えて下さい。
 
先生: やりたいことはいっぱいあるのですが、まずは商店街の本を出して、次はお祭りについてまとめたものを書きたいですね。
 
お祭りって総合芸術みたいなものだと僕は思ってるんです。人の動きもある種のパフォーマンスだし、お祭りを物とか身体に関する美的なパフォーマンスとして捉えて本を書いてみたいですね。どうして「美的な表現」にこだわるのかというと、高校生の時に感じたお祭りに対する疑問が関係しています。最初にお話しした通り、お祭りって場合によっては苦しいこともあるはずなのに、それでもお金や人生を賭けていってしまうんですよね。その仕組みを考える時に、祭りがどういう社会的な機能を果たしているのかという説明だけじゃなくて、心の中から湧き上がってくる欲望みたいなものとの関わりの中で考えてみたいと思っています。
 
メンバー: 昔感じた疑問が今の大学での研究にも結びついているのですね。他にもやってみたいことはありますか。
 
先生: 祭りの研究の次は民俗学それ自体について考えてみたいです。民俗学の不思議な魅力を言語化してみたいという感じですね。それを考えるために、海外の民俗学を勉強したり日本の民俗学の歴史を考えたり、他の学問分野との違いも考えてみたいと思っています。
 
あとは、数少ない大学で研究する民俗学者の責任として、民俗学を大学で教えるということについても考えてみたいです。民俗学は大学の外で育ってきた「野」の学問だから、逆に大学で果たすべき役割、民俗学教育の事も考えてみたいと思っています。
 
やりたいことが沢山でいつも青写真を描いちゃいますね(笑)。しかもその時に自分一人で考えるんじゃなくて、それを例えば文化人類学者の友達とコラボするなどしながら考えています。そういう事をやるのが好きです。
 
メンバー: 塚原先生ありがとうございました!民俗学が本当に身近なものであることがよく伝わってきました。改めて今日は素敵なお話ありがとうございました!
 

最後まで記事を読んでくださりありがとうございました!
最後に1点、この記事を作成したUT-BASEからお伝えしたいことがあります。

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