初めに
今回訪問した研究室は、農学部森林生物科学専修/森林環境資源科学専修/農学生命科学研究科 池田紘士先生、加賀谷隆先生です。
先生の情報はこちらとこちらから!!
メンバー(2年|理科一類→教養学部物質基礎科学コース):私は小さい頃から森や川で虫や魚を採集したり観察したりすることが大好きでした。今回の研究室訪問では、自分の幼少期の関心と研究・社会の繋がりを探りたいという想いで森林動物学研究室を選びました。
今回は
・具体的な研究事例
・研究の目的と生態学について
・学生へのメッセージと適性のある人
という流れで詳しく聞いていきます!農学部に興味がある方、森に棲む生物が好きな方、そうでない方もぜひお楽しみください。
具体的な研究事例
メンバー: 最初に、この研究室がどのような研究をしているのか簡単にご説明をお願いします!
池田先生: この研究室では森林動物学という学問を扱っています。森林動物学では、その名の通り森林と森林に関わる環境に生息する昆虫、土壌動物、渓流の動物などを対象に、野外での調査や実験、室内での実験や分析といった手法を用いて、種個体群や進化、種間関係や動物群集、生態系や人間活動との関わりについて研究しています。
メンバー: 具体的な研究の例を教えてください。
池田先生: 例えば私は前に所属していた研究室で、日本に3種いるザリガニのうち国内唯一の在来種であるニホンザリガニの分布が気候条件によって受ける影響を、環境DNA(水の中の排泄物や粘液、剥がれた落ちた鱗・皮膚、死体などを通じて、その場所の水中にわずかに存在するDNAのこと。直接個体を採取せずとも、採取した水の分析をするだけで種類や個体数が特定できる。)を利用して調査し今後の分布変化をシミュレーションするという研究を学生と行なっていました。
加賀谷先生: 私は河川、特に渓流の生物について、その種間関係や相互関係について研究しています。
(他にも研究室のポスドクや大学院生の方々が、ブナと共生関係にあるクワガタの遺伝的な変化をみることでブナでは遺伝的な変化として検出できないような情報を調べるという研究や、トビケラに関する諸研究などの説明をしてくださいました。)
メンバー: 森林が研究のフィールドになっているだけあって、幅広い種類の生物に対して研究をおこなっているんですね。
先生: 生物学の特性上、扱う種類というよりテーマが大事なので、扱う対象については自由度が高いと思います。
メンバー: そうなんですね。それについてもう少し深く教えてください。
研究の目的と生態学について
池田先生: 生物学の目標の1つは、多様な生物の構造や営みに見られる共通点や法則を見つけることなんですね。だから、個々の生物の生態も大切ではあるんですが、それが他の生物にも適用できる普遍的な特徴なのかを知りたいのでテーマを重視しています。
メンバー: なるほど。今までのお話から、種間関係や生態といったことが重要視されているように感じましたが、こういったことをテーマとして研究する学問もあるのでしょうか?
池田先生: 今お話しした観点は、「生態学」という分野の考え方がベースになっていますね。先ほどお話ししたことと被りますが、生態学とは生物間、または生物と環境の相互作用を理解しようという学問です。
加賀谷先生: 生態学は生物学の中でも比較的歴史が浅い分野です。誕生してまだ200年も経っていないのですが近年盛んに研究されている分野で、高校生物の教科書に占める割合も年々増えています。
メンバー: なるほど。学生の研究対象やテーマについては、自分たちで決められるのでしょうか?
池田先生: 基本的にはそうですね。当然森林にはかなりの種類の生物がいて、その中のほとんどが研究対象になり得ます。
メンバー: 自分の興味に従って研究内容を決められるというのは、なんだかとてもワクワクするものがありますね!
池田先生: 研究として成立していないとないといけないので、そう言った部分で多少口は挟みますが、テーマは広く扱っていますね。
メンバー: 先ほど見せて頂いたスライド(新規に所属する学生用の資料)によると、まだ誰も扱っておらず誰かに研究してほしいテーマもあるようですね。
池田先生: そうです(笑)。例えばタネを動物の毛につけて移動させるタイプの植物がいるのですが、人間の衣服や車のタイヤについた際にどの程度の距離を移動するか調べてデータを取り、それをもとにモデルを組むとか・・。
メンバー: 話は戻るのですが、研究対象を自分で決められるということは、つまり昆虫が好きな学生が自分の好きな種類の昆虫について研究する ということも可能なのですね✨
池田先生: もちろん可能です。ただし研究で好きな生物を扱っていても、調べる内容が自分の興味や得意なことと違っているとうまくいかない場合もあります。研究を始めて間もない学生がそれが原因で悩んだりすることが多かったり、時間が経って趣味と研究は別物として割り切るようになったりしています。
メンバー: それはとても意外です。昆虫好きがむしろマイナスに作用することがあるのですね。反対にこの研究室に向いている人の特徴を教えて下さい。
学生へのメッセージと適性のある人について
池田先生: 研究室には多様な学生が在籍していて、外部の学部卒の人も少なくない他、文系学部から理転した人もいます。そもそも森林科学の2専修は、なんと文系から理転した人が約3割を占めているんです!研究室に所属する前に必要な知識が身についていない場合があっても、みんな都度勉強しながら研究を進められている印象なので、研究室所属前、特に前期教養の時点で「こういう技能を身につけていてほしい」という条件は存在しないですね。もちろん少数ですが、昆虫が嫌いな人も一定数いますし、「こういう人じゃないと入れない!」という制限は全くないと言って良いと思います。
加賀谷先生: 強いて言うなら、フィールドワークに適した時期というのが1年の中で限られているので、そういった1週間にうまく予定を合わせられる人がいると心強いですね。
メンバー: 最近の言葉で言うと、いわゆる「フッ軽(注1)」な人ということですね(笑)
池田先生: そうかもしれませんね。
メンバー: 先ほどのお話を聞くと、統計学やコンピュータを使った解析の知識が必要なように感じました。僕が以前訪問した農学部の他の研究室(注2)も似た印象だったのですが、やはり統計学はどの分野でも必要なのでしょうか?
加賀谷先生: テーマによるとしか言えないですね... 研究室の中にもコンピュータでモデルを組んで計算する人と生き物を飼育して実験する人と山に行って生物を採集する人と色々いるので。
池田先生: ただ、統計学は大事なので勉強しておいても損はないと思います。
メンバー: 前期教養に所属しているうちに読んでおくと良い本はありますか?
先生: どうなんだろう...入門書で何か良いのあったりする?(研究室にいる学生に向けて)
研究室の院生: 日本生態学会編『生態学入門』や他にもブルーバックスでいい本があった気がします。(『生態学入門』 /『 進化の教科書』)
加賀谷先生: これくらいの分量であればなんとか読めそうな気がしますね。この分野に興味のある学生の方はぜひ読んでみてください。
メンバー: ありがとうございます!
(おまけ)その後、研究室に所属する学生の研究を紹介して頂きました!
学生: これはトビケラが上流から流れてくる餌を濾し取るために腕を張っている様子です。このカメラを使って撮りました。
メンバー: とても高画質ですね...!農学部には写真が上手な人が多そうです。カメラが好きな人は農学部進学を考えてみても良いかもしれないですね。
池田先生、加賀谷先生、研究室の学生の皆さん、ご協力ありがとうございました。自分の進路に影響するくらい魅力的な研究室で、今回の訪問はとても良い経験になりました!
注1・・・「フットワークが軽い」の略。行動力があり、すぐに反応できること。
注2・・・農学部寺田透先生へのインタビュー記事参照