【東大生の進路を「再考」する②】広井良典教授
「学問分野は相対的なものにすぎない」

進振り、そしてその先の進路決定。自分が現在学んでいること、あるいはこれから学ぼうとしていること。これらは将来にどう繋がっていくのだろうか。

これは、そんな悩みを抱えるあなたのためのインタビューだ。

前回は、文化人類学の知見を生かして起業した異色の経歴の持ち主、大川内直子さんにご自身のキャリアを語ってもらった。

連載第2回となる今回お話を伺ったのは、京都大学教授の広井良典先生だ。

広井先生は、文科一類に入学後、教養学部後期課程に進学し科学史・科学哲学を専攻。修士課程修了後は厚生省へ入省した。
10年の勤務ののちアカデミアに復帰。千葉大学教授を経て、京都大学教授に就任した。

『日本の社会保障』『コミュニティを問いなおす』『ポスト資本主義』など著書も多い。

いつも自分の知的好奇心に素直に向き合い、周りに流されずに学び続けてきた広井先生の姿は、私たちに勇気を与えてくれるだろう。

目次

    哲学への興味

    ー広井先生は、灘高校から東京大学の文科一類に進学されました。なぜ東京大学の文科一類を志望したのですか?

    通っていたのが進学校だったので、東大を受けること自体ではあまり悩みませんでした。

    しかし、そもそも大学に進学することが本当に自分にとって良いことなのか、けっこう悩んだのを覚えています。

    親の期待通りにレールに乗って、深く考えもしないで、高校から大学へとエスカレーターを登っていく。そんな人生でいいのか、と。

    ただ、いろんな人に話を聞く中で、自分が大学に行くべきか、その先どうすべきかについてはその時まだ結論は出せないと思いました。

    だから、「一旦は大学に入ってその先を考えよう」という暫定的な結論だけ出して東大を受験しました。

    文科一類を選んだのは、進振りの選択肢を広く持てると聞いていたからです。

    ー東京大学ではのちに科学史・科学哲学を専攻することになりますが、当時から興味はあったのでしょうか?

    大学でやりたいことは明確には決まっていなかったのですが、進路について悩む中で、次第に哲学的な問いに引き込まれていきました。

    例えば、「そもそも人間が意思決定や価値判断をするときに、何を拠り所にしたらいいのか」、「そもそも自分が生きて世界を認識しているのはどういうことか」といった問題です。

    進路の問いから始まって哲学的な方向に広がっていって、大学でもそういうことを極められるようなことをやりたいとは、漠然と思っていましたね。

    それが進振りで科学史・科学哲学を選んだことにも影響しているので、ある意味で一直線につながっているのかもしれません。

    ー東大入学後は、どんな学生生活を送ったのでしょうか?

    私は先ほど言ったように哲学的な問いに関心があって、それに答えるためにいろいろ本を読み漁っていましたね。

    所属は文科一類・フランス語のクラスだったのですが、そのクラスの雰囲気にはあまり馴染めませんでした。良くも悪くも、周りがみんな出世志向というか、社会に適応していて(笑)

    だから、哲学的な興味を掘り下げられたのはサークルや読書会だったと思います。

    読書会というのは、文科一類・二類の人とかで集まって、社会問題についての本を読んだりするもので、当時は結構多くありました。私の関心よりは実社会に近いテーマが多かったですが、社会に対する疑問を感じているという点では共通点のあるメンバーがいました。

    一番力を入れたやっていたのは、「哲学研究会」という小さなサークルです。私と同じように、自分の進路とか生き方について考えて、迷っているメンバーが多かったですね。

    ー進振りで科学史・科学哲学を選んだ決断について、教えてください。

    影響が大きかったのは、廣松渉という哲学者(当時、東京大学教授)です。多作でいろいろ本を書いている人だったのですが、それが自分の問いに一番手がかりを与えてくれたんですね。

    彼はマルクスとかの経済学的なことも扱う一方で、物理など理系的な関心も強い人で、文理融合的なアプローチにも惹かれました。

    私自身、自分にとって切実な問題に答えるためには、狭い意味での哲学だけでは足りないと思っていました。生命科学や物理学なども必要だと。

    そういう意味でも科学史・科学哲学が自分の関心に一番近いと思い、進学を決めました。

    また、廣松渉だけでなく、村上陽一郎とか大森荘蔵、伊東俊太郎とか、面白い先生がいたことも魅力でしたね。

    ー文科一類から科学史・科学哲学への進学はマイノリティだと思います。不安はなかったのでしょうか?

    (文科一類から進学する人の多い)法学部へのこだわりとかは全然ありませんでした。文科一類にいたので法学の授業も受けたのですが、これはやはり違うなと。

    親も進学先については放任主義だったので、あまりプレッシャーなどもなく、興味のままに選択しました。

    社会への方向転換

    ーその後、2年間は科学史・科学哲学を専攻するものの、大学院では相関社会科学を専攻されました。興味の方向が変わったのでしょうか?

    科学史・科学哲学では認識論という分野をやっていたのですが、3年の終わりのころ、高校以来の問いに自分なりの答えが出せたんです。

    それで、自分の原理的な問いに決着がついたから、あとは社会に出て世の中で生きていくだけだと。

    それからセツルメントという、当時は多かったボランティア系の活動などをしていたのですが、卒業を控えても進路が決まらず、モラトリアムを求めて大学院に進学しました。

    大学院の2年間の間に自分の進路を決めようという、比較的軽い気持ちだったと思います。

    ー修士課程を修了後は、厚生省に入省されました。決め手は何でしたか?

    もともと福祉関係には興味を持っていて、修士課程でもボランティア活動を続けていました。

    ただ、現場でのボランティアは自分にあまり合っていないと思うようになりました。個々の人に寄り添って援助するのは、自分よりも得意な人がいると。

    それと、ミクロな問題を個々に解決するだけでなく、マクロに政策や制度を変えないといけないと思っていました。

    そのために省庁に行こうと思ったのですが、厚生省と通産省でかなり迷いました。多分、人生で一番迷ったのはこの時でしたね。

    なぜ迷ったのかというと、厚生省で扱うような福祉だけでなく、通産省で扱うような経済も大切だと思ったからです。両方があってこそ社会が回るので。

    ただ最終的には、これからの時代はものの豊かさより心の豊かさだろうと思い、厚生省を選びました。

    再びアカデミアへ

    ー厚生省に10年勤務したあと、在野研究を経て千葉大学の助教授に着任されます。なぜ学問の道に戻ることを選んだのですか?

    厚生省では、2年間のアメリカ留学も含め、密度の濃い貴重な経験を積むことができました。

    そんな中で学問の道に戻ったのは、厚生省の仕事だけだと物足りないと思ったからです。知的な満足感が得られなかった。

    というのも、アメリカ留学によって得た国際比較の視点や、学生時代に学んだ科学史・科学哲学の視点によって、政策についても他の人と少し違う考え方ができました。

    それゆえ既存の議論が浅はかなように見えてきて、そんな現状を変えるために、厚生省の仕事をしながら二足のわらじで論文や本を書くようになりました。

    そうしているうちに目をつけてくれる人がいて、千葉大学に呼んでいただきました。その時は迷うことなく、大学に移ることを選びましたね。

    ー最後の質問です。現在の広井先生は、様々な分野を横断して定常型社会などの議論を展開しています。こうしたさまざまな分野の知見は、どのように身につけられたのでしょうか。

    そもそもディシプリンにはあまり拘らないほうがいいと思っています。いろいろな学問分野に、それぞれの良さがあるので。

    科学史・科学哲学的に言うと、学問分野というのは時代の状況に応じて作られる制度のようなもので、相対的なものにすぎない。

    どちらかというと私は、テーマ本位で考えていく方です。

    そして、一つの興味あるテーマを突き詰めていったら、結果的に哲学や社会学、経済学、自然科学などさまざまなディシプリンを横断していた。

    その積み重ねで今の研究内容がある、ということになります。

    結びに

    今回は、京都大学教授の広井良典先生のこれまでのキャリアについてお話しいただいた。

    高校時代から今に至るまで、興味のあるテーマに導かれて探求を続けてきた広井先生。

    そのお話は、周りに流されずに進路を選ぼうとする私たちの背中を押してくれるようなものだったようにも思われる。

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