【進振り体験記】#20 託されたバトンを繋ぐ

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「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。

——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?

そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!

今回は、文科一類から法学部に進学した学生の体験談です。

1. 基本情報

今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。

◯名前: 長尾すみれさん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:法学部 第2類(詳細:こちら

2. 自分を見つめ直すプロセスとしての進振りのススメ

みなさんは、進振り、どこに行くか悩んでいますか?

おそらく、自分の進学先を決めるにあたって何か判断基準のようなものを見つけようと、この体験記を読んでいる方が多いのではないでしょうか。もしかしたら、進振りの話題で盛り上がる周りと自分を比べて、まだ進振りに悩めていないこと自体を焦り、悩んでいるような人もいるかもしれません。

文科一類から法学部への進学。至極一般的な進学ルートを歩んだ私が、進振り体験記を書く意義を考えました。もちろん、私が複数の進学先を前に迷った末に法学部への進学を決断した際の判断基準もみなさんのお役に立てるかもしれませんが、それよりも強調したいのは、自分自身について真剣に考えられる機会としての進振りの貴重さです。

「自分は何に興味があるのだろう?」「自分がしたいことって何だろう?」と悩むことの意義は、迷った末に大きく進学先を変えた場合も、結局進学先に迷いが生じなかった場合も同じです。

みなさんが進学先について悩む時間が、自分自身を見つめ直し、将来後期課程を歩むときにみなさんの背中を押すような、素敵な経験になるよう願っています。

3. 大学に入るまで

私は小さい頃から比較的正義感が強く、活動的な学生でした。

そんな私はいつも近所のお医者さんにお世話になっていたこともあり(ただの鼻炎)、次第に医者になりたいと思うようになりました。

中学、高校に入ってからは、「課外活動をやっていたら自分の行きたい大学に入れないのではないか」と思い(決してそんなことはありませんでしたが)、課外活動などはあまり行わず、勉強とその他の学生生活に集中していました。

そんな私が東京大学への進学を決めたのは、高校1年生の秋でした。

医者という職業や生物という学問にあまり興味が湧かなくなった一方で、政治や政策といった社会的なトピックに惹かれ始めた私は、医学部に進むことに不安を覚え、当時担任をしてくださっていた先生のもとに相談に行きました。

その際に東京大学の文科一類への進学を強く勧めていただいたことが進路決定の決め手です。

今思えばその時の私も、これからの自分とその将来に胸を躍らせていました。尊敬する先生と自分の将来について相談でき、背中を押してもらえたことの喜びを噛み締めて進路室を後にしたのを覚えています。

4. 勉強する中で生じた変化

ここでは自分の勉強の指針や進学先について考える上で、重要となった2つの変化を、段階を追って手短にご説明したいと思います。

■ ①恵まれているからこそ気がつける社会の不条理

一方で、政治や法律という広く漠然とした興味しか持っていなかった私は、大学に入ってからしばらく、能動的に学ぶことができていませんでした。授業の課題や復習はこなすものの、全ての勉強が高校時代と変わらず受動的で、物足りなさを感じていました。

そんな中、私の心を掴んだのが、初年次ゼミナールという授業の一環で読んだベティ・フリーダン著『新しい女性の創造』でした。1960年代のアメリカを舞台としたこの本は、著者ベティ・フリーダンが数多くの主婦を対象に行ったインタビュー調査をもとに、「主婦として働くことの物足りなさ」「性別役割分業によって人生を拘束されることの不条理」を詳細に生々しく記したものです。素敵な男性と結婚してめでたく会社を辞め、家事と育児に奔走する、これが憧れの「女の人生」とされた社会の中で、ずっと封じ込められてきた女性の苦悩に光を当てた最初の報告でした。

大学に入るまで、努力をすれば報われる、夢を抱いたら誰もがそれを応援してくれる、そんな恵まれた人生を送ってきた私は、自分の母親が主婦となって正社員として働けないのは「彼女が若い頃に努力をしなかったからなのかもしれない」と思っていました。

そんな私にとって、社会的要請や無意識のバイアスから自分の人生の可能性を大きく狭められた、より新たな「主婦像」はそれまでの私の社会の見え方を一変させました。そして同時に、ジェンダーによる差別・格差の残る現代社会に強い憤りと不安を感じました。

そこから私の興味は次第に日本の現代社会におけるジェンダー格差や貧困格差に移っていき、ジェンダー学やフェミニズム、社会学などについて1Aから2Sにかけて授業での勉強に加え、UT-Basecampというゼミ(詳しくはこちら)で勉強会を開いたり、大学の学術プログラム(詳しくはこちら)に参加したりして自分なりに勉強してみました。このような勉強の機会を自分で探すことも、進振り先について考えるとても重要な一歩だと思います。

②先人の思いを繋ぐ

このように勉強を続けるなかで、私の中である思いが芽生えてきました。それは、「自分のために今まで犠牲となり、闘ってきた人たちのために、少しでも社会を良い方向に導き、恩返しがしたい」というものです。

今を生きる私たちがふと振り返ると壮大な歴史が長く脈々と続いています。しかしそれは帯のような無機質なものではなく、個人個人の小さな営みの有機的な繋がりのようなものだと思います。

それは女性解放を唱えた平塚らいてうや、先述のベティ・フリーダン、女性参政権運動の主体にとどまらず、#Me Tooとハッシュタグをつけた一つ一つのツイートのような小さな営みが連綿と今に繋がっているようなイメージです。その小さな営みの1つとして、私を産み育てるために働き続けることを諦めた母の犠牲の上で、私は成長して、勉強して、社会の不条理とそれに抗う人たちの歴史を知り、このように語ることができるのです。

そして、これらの不条理に気がついたりその解決策を思考したりできるのも、勉強ができる大変恵まれた環境にいるからです。

だからこそ、歴史の先端の今を生きる自分が、先人のバトンを繋いでその不条理を少しでも解消する形で、彼ら彼女らに恩返しをするべきなのだと感じています。

この思いは自分自身で気がついたものではなく、先述の学術プログラムの中で、最も尊敬する教授の一人である上野千鶴子先生に、私の質問に対して「逆にあなたはどうすればいいと思う?」と問い返された時に咄嗟に口に出た内容でした。他者との対話において自分の思いが初めて形となって現れた例だと思います。

それから、自分がしたいことは、現状のモヤモヤを分析するだけではなく、実際に勉強することによって社会を少しでも良い方向に推し進める方法を学ぶことである、と感じるようになりました。その思いを軸に、自分の興味のあることに飛び込み、教授の皆さんや友人、元官僚の方々との出会いや対話を重ねる中で、自分の理想やロールモデルが鮮明になっていきました。(特に赤松良子先生との出会いは大きかったと思います。気になる方は『均等法をつくる』をぜひ読んでみてください!!)

一方でモヤモヤの分析や感受性なしに机上で解決策を考えたところで意味はありません。授業はもちろんのこと、所属する学生団体での経験・学びや個人的な勉強など、さまざまな学習機会を最大限利用し飛び込み続けることで自分の感覚を磨き続ける努力をすることが重要なのだと思います。

5. 学部学科と興味を照らし合わせる

ではここで本格的に、今までお話ししてきた私自身の思いや興味と進学先を結びつけていきたいと思います。

私が進学を迷った学部学科は以下の三つです。

法学部
教養学部 相関社会科学コース
文学部 社会学専修

まず、学問的な興味としてはジェンダー論や公共政策、法に興味がありました。そうすると学際的に学べる相関が自然と選択肢として挙がりました。一方で、私自身の興味が次第にモヤモヤの分析から実務的な法や政策の方に傾いており、実際に瀬地山角先生の授業を受講してみて、その問題意識やモヤモヤに強く共感する一方で、なおさらその先の解決策を模索したい!という気持ちが強くなりました(瀬地山先生のジェンダー論は内容や構成、先生のお人柄も素晴らしく最も影響を受けた授業のうちの一つです。強く受講をおすすめします!)。

また、社会学専修には白波瀬佐和子先生というジェンダーや貧困などの格差を計量的に分析される教授がいらっしゃいます。個人的には政策などの実践的な分析を踏まえた勉強ができる最良の選択肢だと考えていましたが、先生が私の進学後すぐに退官されることを耳にして断念しました。これは自分の中では進学先を決める大きなきっかけとなりました。

一方で法学部では、法学だけではなく政治学も学べ、公共政策大学院との繋がりも強いこと、そして何よりも専門的に法を学べることが、法学部以外にはない大きな魅力でした。またジェンダーに関しては法学部のそれぞれの授業において大変重要なトピックの一つとして取り上げられており、モヤモヤの一歩先を勉強したい自分にとってとても良いのではないかと感じました(ジェンダー法学の授業がないのが残念ではありますが...)。

このように進学先の教授の授業やご著書を積極的に受講したり読んだりするのはもちろんのこと、ご退官の情報などもとても重要になってくると思いますので、気になる方はその学科に進んだ先輩や教授に直接お伺いするなどすると良いかもしれません!

実際に私が最終的に進学先を決めたのは2年生の初夏だったと思います。

6. 実際に法学部に進学して

法学部の授業で受講できたのは2Sから始まる持ち出し科目(詳しくはこちら)のみで、たくさんの授業を受講できたわけではありませんが、大講義の授業がほとんどで物足りなく感じる人も多いと思います。その点で学友を持つことの大切さを痛感しています。

しかし、ジェンダー問題や格差など自分の感じるモヤモヤを駆動力に、さまざまなトピックの最先端の議論を、最先端を走る講師陣から学習できることは大変興味深いです。例えば、同性婚や夫婦別姓制度の最高裁判決について憲法の授業で学んだり、制定法と社会のギャップについて、ジェンダーの観点から法社会学で学んだりすることもできます。

法学部の授業では、実際に問題になる法律の条文や法案の内容をもとにした議論・分析ができるため勉強にも力が入ります。

さらに、3Sからは財政学や社会保障法、比較法など個人の興味に合わせた履修が可能になる他、ゼミも開講されるためこれからの履修を決めるのがとても楽しみです。余裕を見て相関や社会学専修の授業の他学部履修もしてみたいと思っています。

※科類に関しては、政策に携わる公務員も、法曹もどちらもやってみたい!!という思いから第2類に進学した上で両方を目指すか、片方に絞るかどうかは検討中です。

7. 結びに代えて

進振りに際して多くの教授や友人に相談に乗っていただきました。また、その中で紹介していただいた方々との会話も、自分について考える貴重な機会だったと思います。他者との会話の中で自覚していなかった自分の気持ちが言語化され、客観的に自分を見つめ直すことができたのも良かったです(一方でその言葉に支配されないように、自分のフィーリングをないがしろにしないようにするのも大切だと思います!)。

何気ない会話をしてくれた大切な友人たちや、私のために親身に相談に乗ってくださった先生方に本当に感謝しています。

この進振り体験記を書いていて、自分がそれまで考えてきたことや自分が法学部を選択した理由を振り返ることができ、学部での勉強のモチベーションや決意がさらに固まったように思います。

皆さんが進振り先を真剣に悩んだり、自分の決まっていた進学先を再考したりする過程が、きっと後から自分の背中を押してくれるような経験になると思います。それができればもうあとは最終的に自分が選んだ進学先が最善だったと思えるように努力するのみだと思います(これは自戒でもありますが、笑)。

この体験記を読んでくださった皆さんが、少しでも自分が満足できる決断ができ、充実した大学生活を送られることを心からお祈りしています。

みなさんの進振りに幸あれ!

UT-BASEメンバーより

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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