「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、文科一類から 工学部 社会基盤学科 Cコースに進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:H.T.さん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:工学部社会基盤学科Cコース(詳細:こちら)
2. 大学入学まで
私は元々海外への興味が強く、50言語くらいのニュースを順番に流す動画をずっと見ていたり、東京外国語大学の言語モジュールを聞いて悦に入っていたりしていた記憶があります。文字も好きで、中学受験の最中にアラビア文字の書き方を必死に覚えていたりもしました。高校の頃は外務省の専門職員になって海外の文化を間近で体験したいと思っていました。なんにせよ、成績が良かったのでせっかく公務員になるなら東大の文科一類に入ろうかという法曹を目指している方に比べればかなり薄い動機で志望科類を決定しました。
しかし、大学入学前に「脱法」(文科一類に入って法学部以外に進学すること)を決意する一つの転機がありました。コロナ禍です。受験期にクリティカルヒットしたコロナ禍は、まず日本と海外について冷静に考えるきっかけとなりました。海外にばかり目を向けていた僕ですが、日本も素晴らしい特性を持った面白い国なのではないか、海外を賛美する前に日本を日本らしく改善すべきなのではないかと考え始めたのです。これが転機となり、いつの間にか海外の文化に触れながら仕事をしたいという気持ちは吹っ飛んでしまいました。また、コロナ禍の影響で時間が生まれたことで嫌いだと思っていた数学や物理と向き合うことが出来ました。難問といくつも向き合っているうちに、地道で論理的なアプローチと逆の発想から導き出した搦め手のアプローチとで次々と問題をときほぐして片付けていくのが楽しくなっていきました。もう受験が目前だったので受験科目の変更には至りませんでしたが、今考えればこの時期に苦手意識を払拭したのは進振りに大きく影響したと思います。
とはいえ、大学入学時点では「脱法」こそ視野に入れていたものの、工学部に行こうとは全く考えていませんでした。8割方は法学部に進学するつもりでしたし、違う学部に進学するとしても後期教養の国際関係論コースか数学を使うにしても経済学部くらいかなというのがその頃の僕の正直な考えでした。法律にあまり興味がないとはいえ、なんだかんだ進振り先は法学部第三類(政治)くらいに落ち着くだろうと思っていました。
3. 進振りまでの悪戦苦闘
いざ入学が叶い、文科一類として授業を受けていると、いくつかわかったことがありました。第一に、科類ごとの履修の縛りが思ったより厳しいことです。自分の興味の赴くままに授業を履修出来るのは早くて1年のAセメスターからでした。しかしそんな中でも最大限、制限に抗う履修を選択しました(おススメはしません)。始めから法律にはあまり興味がなかった僕は当初から「法Ⅰ」「法Ⅱ」をどちらも履修しないというなかなかアブノーマルな履修を行い、代わりに「社会Ⅰ」や「経済Ⅰ」をとって他の社会科学に関する知見を広げようとし、それに加え第三外国語をとり、理系分野にも少し触れたいと思っていくつか講義をとりました(何度もいいますがおススメしません)。
第二にわかったのは、自分は思っていたよりも政治や国際関係論の分野に強く関心を持っていなかったということです。進振り前の2年のSセメスターになって折悪くロシアによるウクライナ侵攻も始まり、現状の分析ばかりで何も事態を動かせない学問に対し歯がゆさを感じていました。そこで、目に見える形で社会実装ができる学問を学びたいという思いが生まれました。これが工学部に目を向ける大きなきっかけになりました。
残酷な現実も判明しました。自分の能力が悲しいことにどうしようもなく文系向きだと言うことです。抽象的な概念を論じることに長けていて、具体的な計算をする科目は点数が振るわず、逆にレポートを提出する科目はあらかた優をとれました。
このように自分の性格や得意な分野を明らかにしていく自己分析のツールとして前期教養課程を利用し、進振りの直前まで悩み続けました。進振りをする上で前期課程での学びは非常に役に立ちました。注意ですが、このような履修の仕方をするとある程度点数を度外視することになるため、後述するように綱渡りにもなりうることを言い添えておきます。
4. 進振り先の決定
進振り直前の頃は、UT-BASEの学部学科紹介のページとにらめっこして前期教養の間に抱いた関心と照らし合わせる毎日でした。全学科を巡回して少しでも面白そうだなと思ったところは残し、その中から消去法で消してみたり比較表を書いてみたりということを繰り返していたのを覚えています。全学科巡回は累計5回はやったと思います。また、上述のような履修をしていた副作用(?)として点数があまり振るわなかったことがあり、いくつかの学科は最初から候補から除外することとなったことも告白しておきます。
UTASで検索をかけてシラバスを見たりもしましたが、授業内容が詳しく書いてあることは少なくかかる労力に得られる情報が見合わないのでおすすめできません。講義タイトルだけで推測するのはかなり危険なので、UT-BASEのサイトを巡回したほうが良いと思われます。
様々な方法で自分なりにリサーチと自己分析を繰り返した結果、進振りの「軸」として、今まで「構想すること」が得意かつ好きな事でしたが、その構想を目に見える形として「創る」ことを大学で学ぶことにしようと心を決めたのです。その結果、候補に残っていた中で目を引いたのは建築系三学科(工学部建築学科(建築)・工学部都市工学科(都市工)・工学部社会基盤学科(社基)の総称です)でした。建築系三学科は守備範囲がかぶっているようでメインとしている戦場はまるで異なります。しかし、実際に行ってみないといまいち判らないのもまた事実です。結局悩んだ末に、第一段階は、とりあえず工学部都市工学科に出しました。建築系三学科の対談記事などもいくつも見ましたが、完全には違いがわかっていないまま第一段階の登録先を決定することとなりました。
ところが、幸か不幸か点数が若干足りずに落とされ、またしばらく進振り先について考える時間が残されました。第二段階の志望を決める際に目に止まったのが、都市工学科や建築学科で扱うスケールが小さめの「デザイン」(建築には構造などがっつり物理の分野もありますが、それは自分の関心にあまり合わないと思っていました)ではなく、解析的手法を用いた国土デザインのようなものに携われそうな社会基盤学科のCコースでした(1枠しか残っていませんでした...!)。第一段階の時も検討はしたのですが、社会基盤学科が建築学科や都市工学科に比べてより理系に寄っているために尻込みをしていました。しかしながら、前から関心があったものはマクロなスケールのものが多かった自分には、建築や都市といったスケールのものよりもインフラや国土計画といったもののほうが合っているのではないかと思い、思い切って志望に入れることにしました。Cコースは国際プロジェクト系の研究室に配属されやすいコースなのですが、文系時代に培った語学力や国際関係への基礎知識もそこで役立てることができるかもしれないということも背中を後押ししました。
5. 実際に進学した感想
第二段階を経て内定した社会基盤学科では、2年のAセメスターから想定通り(若干想定以上)理系科目のオンパレードで洗礼を受けることとなりました。人がそこまで多い学科ではない上に、導入プロジェクトでは全体で協力して橋の模型を作ることになるため、すぐに顔見知りが増えます。授業でわからない部分はキャッチアップしあったりすることもあり、理系にとっても初出の科目が多いため基礎的な大学数学がわかっていれば、悪戦苦闘具合は理系とあまり変わりません。とはいえ、確実に苦戦しています。3年から発展的な学習に入るために2年のAセメスターで基礎をすべて叩き込むので、進度が早いことは覚悟した方が良いです。
進学前の想定と異なっていた部分は、AコースBコースCコースと分かれてはいるものの研究室を振り分けるまでは特に履修に変わりはないことです。AコースやBコースの研究室に関連した、橋梁・水圏・交通などに関する内容も幅広く学べます。自分で自分に驚いたのは、関心がないと思っていた橋梁力学なんかも学んでみると面白いと思えてくるところです。もし気になっている学科の扱っている幅が広い場合も、思い切って飛び込んで学んでみると意外と面白く感じられると思います。
もう一つ挙げるとすれば、演習が意外と少ないことです。2年のAセメスターの前半に導入プロジェクトがある以外は建築学科や都市工学科と違って演習はありません。3年から研究室を具体的に考え出すと同時に演習が本格化していくようです。建築三学科とくくられがちですが、建築・都市工と社基はかなりスタンスが違い、建築と都市工はスケールに大きく違いがあります。インフラをやりたい人はもちろん社基がおすすめですが、建築や都市工を見てみて、「なんか分野は近いんだけどやりたいことと違うな...」と感じたら社基をおすすめします。
6. おわりに
人生を左右する進学選択を前に、関心のある分野が絞れず脱法したい・理転したいと漠然と思う一方で、決め手に欠け、そのまま惰性で科類に直結した学科に進学してしまう方もいると思います。僕の進振り体験記はそんな需要を満たすためのものです。研究室見学に行くほどやりたい分野が絞れていなかったり、駒場で色んな科目を学んで目移りしていたりする方は是非過ごし方を参考にしてみて下さい。十人十色の進振りのやり方があっていいと思いますが、どうかなんとなく流されずに後悔のない進振りが出来るよう祈っています。
入学前の方は、こんなヤツもいるんだなと面白く読んでいただければ幸いです。進振り制度は一般に言われているよりもずっと柔軟で、そして厳格で厄介なシステムであることが伝わればと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。