UT-BASEがお送りする「後期課程の歩き方」(学部学科紹介)は、後期課程での学生生活を紹介しています。しかし、今この拙文をお読みいただいている好奇心旺盛・頭脳明晰・明鏡止水な読者の皆様は「どんな雰囲気かは分かったけど、具体的に何が学べるのだろう…?」とお思いのことでしょう。
そこで!!「学部学科紹介イカ東edition」つまり、後期課程の本学学生が学ぶ学問領域を"エンジン全開"で語り倒す企画を実施させていただきます!
一端の学部生が書いているので学問的誤りがあるかもしれませんが、学問の雰囲気を掴んでいただくことを趣旨としておりますので、どうぞ間違いには優しく目を瞑るか、そっと教えていただくよう、よろしくお願い致します。
さて、本記事は「進振り点が高く、変わった人が多い」ことで有名な教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コースについてです!近々北海道に移住予定の斉藤がお送りいたします。お楽しみあれ。
また、「国関」の制度や学生生活は、UT-BASEの学部学科紹介ページをご覧ください。
必ず聞かれる「国際関係論って何勉強してるの?」
所属を言うと、学内外を問わずほとんど必ず上記の質問を聞かれます。今日、「国際系サークル」「国際力」などの言葉が氾濫するなか、「国際関係論」もこれらの言葉同様に胡散臭く聞こえてしまうのも無理はありません。
学部に所属して約1年半が経ちますが、恥ずかしながらいまだに私は簡潔に答えることができません。簡潔には答えられませんが、国際関係論コース(以下「国関」)で学んだことの一部について自分なりに言語化してみようと思います。
ここでは通常国関生が2Aで必修科目として履修する「国際政治」の授業で扱ったトピックの一つである1国の外交(1国の対外政策)について取り上げてみます。
一見テーマがとても重そうですが、そんなことはありません!実は、国際政治の授業後に友人と、「外交って恋愛ととてもよく似ているね、私たちで本でも書こうか笑」という雑談をしていたくらい、ロジックは親しみやすいものです。読者の皆様に楽しんでいただければと思います!
この記事にある外交の考え方に触れることで、読者の皆様が日頃目にするニュースが一気に面白くなると、これを書いている人はとても嬉しいです。
数々の尖りに尖った学科同期をさしおいて、学科の中でも平凡な私がこの記事を書くことに若干の引け目も感じておりますが、凡人だからこそ書ける平易でわかりやすい文章を連ねたつもりなので、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです!
#1 外交の本質
「外交の本質は、意図(intention)を伝達することによって関係国の同意を確保することにある」(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013)とされています。
「といわれても、簡潔にまとまりすぎててよくわからん!」
という方がほとんどだと思いますので、ここでは意図の伝達と関係国の同意確保にわけて、上記の一文を解釈してみたいと思います。
【意図の伝達】
まずは意図の伝達についてです。
外交における意図(intention)とは、ある事柄に対する一国の立場や考えと言い換えることができるでしょう。意図(intention)の例として、トランプ前大統領の「米国第一主義」、メルケル首相の多国間主義を重視する立場などがあげられます。
意図の伝達とは、意図を相手国に誤認のないように伝達することを言います。
(写真:「G7首脳会談の1枚 この写真には誰と誰が」, BBC)
【関係国の同意確保】
次に関係国の同意確保についてです。同意確保は一般的に以下の3つに分類できるとされています。
① 武力実力などの威嚇を背景に同意を確保する強制
② 利益供与などの約束の見返りに同意を確保する誘導
③ 共通の理念・規範に訴えて同意を確保する説得
(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013,119頁)
わかりやすくするために、人気アニメ「かぐや様は告らせたい」の登場人物で考えてみましょう。タイトルにある通り、「四宮かぐや」さん(かぐや様)は「白金御行」君に告らせたいと考えています。
前提を3点確認します。
1.「白金君がかぐや様に告白をすること」をここにおける同意とします。
2.かぐや様は同意の確保を目指します。
3.かぐや様は4大財閥四宮グループの令嬢であり、財力と権力があります。
以上3つの仮定を踏まえて上記の同意確保の3類型に沿って考えると以下のようになります。
<① 強制:武力実力などの威嚇を背景に同意を確保する>
まず、かぐや様が白金君に、財力を以って「私に告白をしないと、白金君の家の水道と電気を全部止めるわよ」と言った場合を考えてみましょう。
この場合はかぐや様が、財閥令嬢という実力を以って、水道と電気をとめるという威嚇を背景に、「白金君がかぐや様に告白をする」という同意を確保する行為と言えます。これが同意確保の3類型の1つ目、強制による同意確保です。
<② 誘導:利益供与などの約束の見返りに同意を確保する>
次に、かぐや様が白金君に「コーラをあげるから、白金君が私に告白をして」と言った場合を考えてみましょう。
この場合はかぐや様が、白金君にコーラをあげるという利益供与をすることで「白金君がかぐや様に告白をする」という同意を確保する行為と言えます。これが同意確保の3類型の2つ目、誘導による同意確保です。
(素材:いらすとや)
<③ 説得:共通の理念・規範に訴えて同意を確保する>
最後に、かぐや様が白金君に「白金君が私に告白をしてくれたら、お互いの憧れである恋人同士で花火大会にいくことが実現するから、私に告白して」と言った場合を考えてみましょう。
この場合は、「恋人同士で花火大会に行く」という共通の理念に訴えて、「白金君がかぐや様に告白をする」という同意を確保する行為と言えます。これが同意確保の3類型の3つ目、説得による同意確保です。
(素材:BEIZ images, いらすとや)
これらの例を踏まえてもう一度外交の本質に立ち返ってみましょう。
「外交の本質は、意図(intention)を伝達することによって関係国の同意を確保することにある」(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013,119頁)です。
いかがでしょうか、外交の本質のイメージがなんとなく掴めましたでしょうか?
もしかぐや様の例がわかりにくい場合は、
かぐや様 → 米国
白金君 → 中国
確保したい同意 → 「中国を民主主義化する」
コーラ → ODA
恋人同士で花火大会 → 世界平和
と置き換えて考えてみて下さいね。
次節では、本節で扱った同意確保の3類型を発展させて外交を類型化してみます!
#2 外交の成否は「威嚇」と「約束」の説得力で決まる
前節では、外交の本質を確認し、関係国の同意確保の3類型(強制、誘導、説得)について確認しました。本節では、同意確保の3類型を発展させて外交を類型化し、外交の成否を決める「威嚇」と「約束」の説得力について具体例を交えながら説明します。
【外交の諸類型】
外交は以下のように類型化することができます。
(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013,124頁 を参考に筆者作成・UT-BASE編集)
<強制外交>
強制外交とは、「相手国に最悪事態をもたらす行動を断行するという威嚇によって、当該国に最善事態をもたらす行動の選択を相手国に迫ることを目的とするとするもの」(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013,124頁)です。
後段に書かれた目的である「最善事態をもたらす行動の選択を相手国に迫ること」を抑止と強要に細分化します。
抑止(deterrence)は当該国にとって好ましくない行動を相手国に自制させることを目的とします。
一方、強要(compellence)は、当該国にとって好ましい行動を相手国に実行させることを目的とします。
すなわち、相手の不作為を求めるものが抑止、相手の作為を求めるものが強要になります。
ちなみにこれを踏まえると、#1の【関係国の同意確保】<①強制>であげたかぐや様の白金君に対する行動は、水道と電気を止めるという威嚇によって告白という作為を求めていることから、強要にあたります!
<安心供与外交>
安心供与外交とは、「相手国に最悪事態をもたらす行動を自制するという約束によって(すなわち、相手国の不安を払拭することによって)、当該国に最悪事態をもたらす行動の選択を相手国に再考させ、それを回避することを目標とするもの」(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013,124頁)です。
便宜上、強制外交と同じかぐや様の例で考える安心供与外交は以下のようになります。
白金君に対するかぐや様の安心供与外交:
白金君にとって最悪事態である水道と電気の停止を、かぐや様が自制するという約束によって、かぐや様にとっての最悪事態である「白金君から告白されない」という事態を回避することを目標とする。
【「威嚇」と「約束」の説得力】
外交の成否は、強制外交の手段である「威嚇(threats)」と安心供与外交の手段である「約束(promises)」の説得力によって決定します(モーゲンソー 1948)。
なぜならば、強制外交における威嚇も安心供与外交における約束も、「あいつは本当にやるぞ」と相手国が思わない限り、相手国の選択に影響を及ぼすことができないからです。いくらかぐや様が「水道と電気をとめるわよ」と白金君にいっても、かぐや様が財閥令嬢ではなかった場合、その威嚇は説得力を持たないのです。
「威嚇」と「約束」の説得力が外交の成否を決める上で重要になることをお分かりいただけたでしょうか。
次の節では、強制外交・安全供与外交の破綻と戦争の勃発について論じます。
#3意図の誤認が外交の破綻と戦争の勃発を引き起こす┈
#2では、外交の類型と「威嚇」と「約束」の説得力について見ました。実は強制外交にも安心供与外交にも共通する外交の破綻原因があります。それは「威嚇」と「約束」の説得力欠如による意図の誤認です。
意図の誤認が起きた場合、戦争原因論から強制外交と安心供与外交を整理するとどのようになるかをみてみましょう。
【強制外交】
強制外交論は侵略国が被侵略国の反撃の意図を過小評価するという意図の誤認に戦争の原因があると考えます。
侵略国A国はB国の反撃の意図を過小評価しているとします。この場合、A国はB国の意図を誤認し、威嚇をし過ぎてしまいます。結果としてB国が威嚇に対する反撃をし、戦争が勃発します。
強制外交論における外交の破綻→戦争勃発
【安心供与外交】
一方、安心供与外交論は、相手国の攻撃の意図を過大評価するという意図の誤認に戦争の原因があると考えます(Jervis 1976)
被侵略国B国は侵略国A国の攻撃の意図を過大評価しているとします。
A国はB国を攻める意図はなく、B国を安心させるために「B国に侵略はしないよ!!」と約束をします。しかし、B国はA国約束に懐疑的であり、A国の約束を信じません。結果的にB国はA国に対して意図の誤認をし、A国に先制攻撃をしかけ、戦争が勃発します。
安心供与外交論における外交の破綻→戦争勃発
次節では、実際に意図の誤認が開戦に繋がった事例として1950年の朝鮮戦争をみていこうと思います。
#4 意図の誤認が生じた事例:朝鮮戦争
1950年の朝鮮戦争を例に、意図の誤認についてさらに考えてみましょう。ここでは朝鮮戦争開戦を引き起こした意図の誤認について取り上げてみようと思います。
【朝鮮戦争開戦前】
1950年1月に、アメリカの国務長官ディーン・アチソンは、ナショナル・プレス・クラブ演説で中国革命後の東アジアにおける防衛線(defense perimeter)を、アリューシャン諸島、日本列島、沖縄諸島、フィリピン諸島をつなぐ線として設定しました。(下図の実線)
しかし実際にアメリカが意図していた防衛ライン(このラインを超えたら反撃するぞというライン)は、朝鮮半島を含む下図の点線でした。
(写真:「南北会談宣言 朝鮮戦争の「終戦」が日本にもたらすもの」より)
このアメリカの意図が事前に明確にされず、東側陣営は米国の防衛ライン(=抑止)は実線のままだと思っていました。つまり、東側陣営は韓国に侵攻することによる米国からの反撃リスクを過小評価してしまったわけです。
結果として、6月25日に北朝鮮軍の侵攻という形で朝鮮戦争が勃発したと考えることができます。
以上より朝鮮戦争の勃発は、米国による「威嚇」の説得力の欠如と東側陣営による米国の意図の誤認があった結果生じたアメリカによる抑止の失敗とみることができます。
このように一国の意図を誤認のないように相手国に伝えることは、戦争を回避する上で大変重要になります。
#5 まとめ:1国の外交
ここまで長々とお付き合いいただき本当にありがとうございました。最後にここで扱った1国の外交について簡単にまとめてみたいと思います。
まず、「外交の本質は、意図(intention)を伝達することによって関係国の同意を確保すること」(国際政治学:石田淳,有斐閣,2013)にあります。
そして同意の確保には強制、誘導、説得という3つの手段があります。(#1)
同意確保の3類型を発展させて外交を類型化すると、強制外交と安心供与外交に分けられます。強制外交は細分化するとさらに抑止と強要に分けられます。(#2)
外交の成否は、強制外交の手段である「威嚇(threats)」と安心供与外交の手段である「約束(promises)」の説得力によって決定します。(#2)
「威嚇」と「約束」の説得力が欠如すると意図の誤認が生じ、外交の破綻と戦争の勃発を引き起こします。(#3)
朝鮮戦争の開戦が事例として挙げられます。(#4)
おわりに
ここまでお読みいただいた皆様、楽しんでいただけましたでしょうか?
ここで触れた外交の考え方は世の中で起きていることを解釈するレンズの一つです。今後ニュースを見るときに強制外交か安心供与外交か意識していただけるともっと面白く日々の出来事に触れることができるようになると思います!
国関は、授業や学科の学生との議論を通じて、世の中をさまざまな切り口で解釈するレンズにたくさん触れることのできる学科です。興味を持っていただけた方はぜひ進振りで国関へいらしてください、8号館でお待ちしております!