UT-BASEがお送りする「後期課程の歩き方」(学部学科紹介)は、後期課程での学生生活を紹介しています。しかし、今この拙文をお読みいただいている好奇心旺盛・頭脳明晰な読者の皆様は「どんな雰囲気かは分かったけど、具体的に何が学べるのだろう…?」とお思いのことでしょう。
そこで!!「学部学科紹介イカ東edition」、つまり、東大生が所属学部で学んでいることを"エンジン全開"で語り倒す企画を実施することになりました!
一端の学部生が書いているので学問的誤りがあるかもしれませんが、学問の雰囲気を掴んでいただくことを趣旨としておりますので、どうぞ間違いには優しく目を瞑るか、そっと教えていただくよう、よろしくお願い致します。
さて、本記事は「砂漠」として愛されてやまない法学部についてです!2020年のタイムラインを質問箱で埋め尽くしたUT-BASE公式Twitterの「中の人」がお送りいたします。お楽しみあれ。
また、法学部の制度や学生生活は、UT-BASEの学部学科紹介ページを、第3類の記事は「【法学部3類】~実は「王道」⁉ 政治学を志す君へ~」をご覧ください。
法学部は孤独に法律を学ぶ、無味乾燥な砂漠
こういった認識はあながち間違いではないのですが、(大事なので2回言うと、あ な が ち 間 違 い で は な い で す。)
…少しフォローしておくと、友人との勉強会を開く人がいたり、代々続くコミュニティがいくつかあったりと、ところどころにオアシスが存在しています。ゼミも一応あります。
さて、いきなり話が脱線しましたが、ここでは「法学部でどのようなことを学ぶのか」について、冗談や愚痴交じりに語らせていただきたいと思います。イメージが湧きやすい?例として、ディズニーと法律の関係を取り上げます。
ポンコツ学部生の分際で書かせていただいているので多分に間違いを含んでいたり、敢えて不正確な表現をしたりしている部分があります。あくまで、「そういう雰囲気なんだな」というテンションで読んでいただければと思います。
これから#1~#5の5章に分けて説明しますが、調子に乗って書き進めるうちにとても長くなってしまいましたm(_ _)m 頑張って読んでください!
#1 「法」の定義
皆さんご存じの通り、法学部は法を学ぶところです。ところで、「法」といったとき、それは何を指しているのでしょう?
憲法、民法や刑法、労働基準法、条例などの成文法は当然に法律です。そして当然、これらは法学部で習うことができます。
では、不文法は?──
多くの分野で、"玄人"界隈では独自のルールが発達します。それは東京ディズニーリゾートも例外ではありません。何を隠そう、ディズニーオタク(「Dオタ」)である私が言うのですから本当です(爆) 例えば、
・パレードを見るときは後ろの人に配慮して被り物を脱ぐ
・キャラクターが写真撮影中に特定のジェスチャーをしたときには、次の人に撮影の順番を譲る
・夜のショーではカメラのストロボを過度に焚いて人の目を潰さない(まじ許せん!)
・Twitterのタグ「#TDR_now」では個人的な投稿をしない
…このように枚挙に暇がないのですが、知る人のみぞ知るような"マナー"が存在します。
(ちなみに、年間パスポートでの入園が禁止されている日は秩序が乱れがちで、パークの運営が大変になると言うキャストさんも多いらしい。)
マナーは人々の内面に存在し、その行動を拘束する道徳規範です。この道徳規範は一定のコミュニティに属する人々に共有され、もしそれに違反するとコミュニティの構成員から有形無形の制裁を受けることになります。
ディズニーの例なら、上記のようなマナーは「Dオタ」界隈で共有され、極端な違反者はTwitterで晒されるとかね。怖い怖い。
この例から分かるように、道徳規範とは
1. コミュニティに属する人が皆守る必要があって
2. 違反者には(ほぼ)確実な罰則があり
3. 皆その罰則を恐れる故に違反を犯さない
という性質を持つものです。
他方、日本の刑法などは
1. 日本国に属する人が皆守る必要があって
2. 違反者には(ほぼ)確実な罰則があり
3. 皆その罰則を恐れる故に違反を犯さない
という性質を持っています。
このように比較すると、道徳規範と法律はとても似たものであることが分かると思います。つまり、道徳規範や慣習も一種の法なのです。これらは、オイゲン・エールリッヒによって「生ける法」と呼ばれています。
この類の話は、「法社会学」の講義をはじめとする法学部の随所に現れます。なんなら、イギリスではcommon lawから連綿と続く不文法が法の中核を担っています。
また、ここでは触れませんでしたが、裁判所がこれまでに出してきた判決、つまり「判例」も法的性格を持つものです。判例には裁判所に対する拘束力があり、裁判官は以前の判例に沿うような判決を下します。裁判官は判例という「法」に縛られるのです。
※「法」と一口に言ってもそれぞれの性質は異なります。先ほど挙げた性質1~3は、考えやすいように噛み砕いたものに過ぎません。
#2 「法」の要件
次に、「法」が正常に機能するためには、どのような条件が必要かを考えてみましょう。この話は主に「法社会学」で学ぶことができます。(なお、分かりやすいように#1同様、懲罰的な法に限定します。)
#1では法の性質として
1. コミュニティに属する人が皆守る必要があって
2. 違反者には(ほぼ)確実な罰則があり
3. 皆その罰則を恐れる故に違反を犯さない
を挙げました。
実は、これら3つは法の要件と表裏一体になっています。すなわち、
1→規範が当該コミュニティに属する人に共有されていること
2→確実な罰則や制度の執行を可能にするシステムがあること
3→罰則が全員にとって罰だと認識されること
が要件になります。
ディズニーで喩えてみましょう。
【規範が当該コミュニティに属する人に共有されていること】
もし私が今「ディズニーランドに入園したときにはウォルト・ディズニー像の前で一礼しなければならない」と言ったら、皆さん「は?」と言ってそのままブラウザバックしますよね?このように、独り過激派が言っていることは規範にはなりません。みんなが首肯して初めて規範となるのです。
対して、先に挙げた「パレードを見るときは後ろの人に配慮して被り物を脱ぐ」という決まりは、良好なパーク環境のために多くの人に受け入れられているルールです。
【確実な罰則や制度の執行を可能にするシステムがあること】
罰則が高確率で執行されないのであれば、罰則を恐れずにルール違反をする人が出てきます。
ディズニーでは、正義感の強い方々がTwitterで「跋扈」しています。大きくルールから逸脱すると(もちろん違反者にも大きな非があるのですが)見事Twitterで晒されてしまいます。
加えて、東京ディズニーリゾートのサイトには「東京ディズニーリゾートからのお願い」という、遵守事項を載せたページが密かに存在していて、そこには
他のお客様等のご迷惑となる恐れのある場合、また東京ディズニーランドからのお願いに対しご協力いただけなかった場合は、入園をお断りすることや、退園していただくことがあります。
という文言があります。9000円ほど支払って入園したのに退園命令が下ったらたまったものではないので、この王国の「権力者」である運営(が定めた各種公式のルール)に従わなければならないのです。
権力には多くの定義や次元が存在するのですが、ここで説明してしまうと即座に法学部砂漠が立ち現れてしまうので、気になる方は「政治学」や「行政法」などの講義を聞いてください。
【罰則が全員にとって罰だと認識されること】
法が成り立つための要件3つ目。これはちょっと盲点というか、面白い観点ではあるのですが、コミュニティのメンバーにおいて「何が利益で何が不利益か」が共通している必要があります。
先ほどの例では、Twitterで晒されるのが最高の喜びであるような人がいた場合は、自ら進んでルールを破るでしょう。
この話は専らゲーム理論的な問題で、法学部では例えば、「法社会学」での期待の相補性(パーソンズ)、「国際政治」での好戦国家問題、「政治学」での選好順序(コンドルセのパラドクス)の話につながります。
お気付きになったかと思いますが、法学部は法律の条文のみを扱っているのではありません。このように社会的なこと、政治的なことも学ぶ対象です。現実社会のダイナミクスを学ぶことができるのが法学部で、法学に加えて政治学が法学部の二大領域を構成しています。また、領域によっては経済学や会計学、統計学も必要になり(例えば独禁法や会社法、金融商品取引法)学生によっては数式を扱う場面も出てきます。
#3 「法」の目的
法はなぜ存在するのでしょうか?当然、法にメリットがあるから存在する、ということになるのですが、そのメリット(=法の目的)とは何でしょう?
例えば、民法の目的は権利義務関係の調整です。
例えば、AさんとBさんが売買契約を結んだとき、買い手のBさんが商品代金を支払わなかったときにどうなるか?という調整を行います。民法を離れてディズニーの話で見てみましょう。
ディズニーのマナー、「キャラクターとのふれあいや写真撮影の最中にキャラクターが特定のジェスチャーをしたときには他の人に順番を譲る」は、パーク内を歩いているキャラクターを誰かが長時間独り占めしてしまうことを防ぐ法です。ここでは、キャラクターが長時間独り占めしているゲスト(A)に対して「交代」の合図(両手の人差し指をクルクルするジェスチャー)を行うことで、"法"的には、当該ゲストAが別の順番待ちをしているゲスト(B)に「順番を譲る義務」が生じます。また、その義務に対応し、Bには「順番を譲っててもらう権利」が与えられます。
"法"によって、元々は赤の他人であったAとBの間に、写真撮影の順番をめぐる1対1の権利義務関係が新たに規定されるのです。
法の目的には他にも、望ましいと政治家が考える社会を強制的に実現する・社会秩序を維持することなどもあります。次の章で紹介する、「地方鐡道法」もその類です。
ディズニーで言うと、Twitter上のタグ「#TDR_now」が挙げられます。このタグでは以下の"ルール"によって秩序維持が図られています。
(写真:#TDR_nowのルール 出典はコチラ)
ちなみに、最近はこのルールを共有していないコミュニティの外の人(要はDオタでない人)も#TDR_nowを使うようになった結果、個人的な情報が氾濫するという事案が発生しています。それを取り締まる「ナウタグ警察」が巡回するという事態になっています…
しかし、やはり規範意識の共有は必須であり、その観点で言えば、警察の方々はそのための戦いを強いられている=法の維持のために奮闘しているとも言えます。
#4 法律の適用
法律は作っておしまいではありません。実際に法律が作動する場面では、法律はどのように適用されるのでしょう?(法適用の基本は「憲法」の司法の部分や、「刑法第1部」、「行政法」などで学びます。法適用は法学部のどこにでも現れるトピックです。)
ここで今までの道徳規範から離れ、ディズニーの中でもより法律っぽい例で進めることとします。
※この先、漢字かな交じりの条文が出てきますが、学部で扱う多くの条文は現代語化されているので安心してください。
【事例】
東京ディズニーランドにある「ウエスタンリバー鉄道」はご存じでしょうか?19世紀のアメリカを彷彿とさせる灯油焚きの本物の蒸気機関車に乗車し、パーク内の線路を1周して同じ駅に戻ってくるアトラクションです。本物の蒸気機関車ですよ!!
(画像は公式サイトより)
ディズニー側は当初、アメリカのパークのように複数の駅を設けて移動手段として使いたいと思っていました。その願望は東京ディズニーシーの「エレクトリック・レールウェイ」で実現されるのですが、なぜウエスタンリバー鉄道は1駅のみの環状線になってしまったのでしょうか?
その理由は、開業当時存在していた「地方鐡道法」にあります。この法律の規定が適用される路線では、私有地であってもダイヤと運賃の設定をしなくてはならなかったのです。
(画像は国立公文書館デジタルアーカイブより)
この話に関連する地方鐡道法の条文を勝手に翻訳して紹介すると…
第一条
この法律は、「軌道法」という別の法律で定めているものを除いて、地方公共団体や、企業などの民間人が、一般の人に利用させるために敷設した「地方鉄道」に適用されます。(第2項略)
第二十一条
「地方鉄道」を運営する事業者は、旅客や荷物の運賃やその他運輸に関する料金を設定して、鉄道を管轄する省庁の認可を受けなければなりません。(第2項略)
第二十二条
「地方鉄道」を運営する事業者は、旅客を運ぶ列車については、その運転速度と本数を設定して、鉄道を管轄する省庁の認可を受けなければなりません。(第2項略)
好奇心旺盛な人のために原文を書き起こしてみました。[ ]内に現代かな遣い・新字を補充しておきます。「道府県」と書かれ、「都」がないことから時代を感じますね。
第一條
本法ハ軌道法ニ規定スルモノヲ除クノ外[ほか]道府縣[県]其ノ他ノ公共團體[団体]又ハ私人カ[が]公衆ノ用ニ供スル爲[ため]敷設スル地方鐡[鉄]道ニ之ヲ適用ス(第2項略)
第二十一條
地方鐡[鉄]道業者ハ旅客及荷物ノ運賃其ノ他運輸に關[関]スル料金ヲ定メ
監督官廳[庁]ノ認可ヲ受クヘシ[べし](第2項略)
第二十二條
地方鐡[鉄]道業者ハ旅客列車及混合列車ノ運轉[転]速度及度數[数]ヲ定メ
監督官廳[庁]ノ認可ヲ受クヘシ[べし](第2項略)
※各条文は東京ディズニーランド開園当時の改正条文です。之繞は、正しくは二点之繞です。(以下同じ)
以下では、この原文を引用しつつ検討を進めます。
【検討】
では、ウエスタンリバー鉄道にこれらの条文は適用されるのでしょうか?
法律の適用を考える際には、要件と効果に注目します。多くの法律は「AならばB」という構造になっていて、Aが要件、Bが効果です。
<地方鐡道法第1条の要件効果>
地方鐡道法の第一条を見てみましょう。この条文には、「どのような鉄道にこの法律全体を適用するのか」が書いてあります。
本法ハ軌道法ニ規定スルモノヲ除クノ外道府縣其ノ他ノ公共團體又ハ私人カ公衆ノ用ニ供スル爲敷設スル地方鐡道ニ之ヲ適用ス(第2項略)
同条文の要件と効果は次の通り:
①積極的要件1=「道府縣其ノ他ノ公共團體又ハ私人カ」
②積極的要件2=「公衆ノ用ニ供スル爲」
③積極的要件3=「敷設スル地方鐡道」
④消極的要件 =「軌道法ニ規定スルモノヲ除クノ外」
↓
・効果=「之[本法]ヲ適用ス」
ためしに、ウエスタンリバー鉄道が、当初の思惑のように2つ以上の停車駅を有していると仮定します。このとき、ウエスタンリバー鉄道が要件①~④の全てに該当するのであれば、地方鐡道法が適用されます。
東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドは、
東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドは、
①私人であって(※法人も私人です。)
②ゲスト(来園客)=公衆のために ③鉄道を敷設しており
④ウエスタンリバー鉄道は軌道法に規定する軌道(≒路面電車)ではない
ので全ての要件を満たします。効果は全ての要件が満たされたときに発動するので、地方鐡道法の適用対象になります。
したがって、同法第二十一条と第二十二条が適用される結果、オリエンタルランドはウエスタンリバー鉄道の運営に際して運賃とダイヤグラムを設定しなければならなくなってしまいます。
アトラクションなのに運賃を取られたり、時刻表があったりするのはなかなかに幻滅ですね…
今は、停車駅が複数あることを仮定しましたが、次は実際の通り、停車駅が1つの場合を考えてみましょう。
<地方鐡道法第1条の文言解釈>
突然ですが、要件③の「地方鐡道」とはつまり何でしょう?
「地方」とは「私設の」という意味なのですが、「鉄道」はどこからが鉄道でどこまでが鉄道ではないのか、イマイチ分かりません。例えば、極端な話、1/100スケールの鉄道模型それ自体は「鉄道」なのでしょうか?これが分からないと、鉄道模型が要件③を満たして地方鐡道法が適用されるのかが分かりません。
ここで必要な作業が、条文の文言解釈です。なぜそれが必要かというと、条文の文言は非常に短く抽象的で、世の中の全ての事象を条文の中に言葉で表現するのは不可能だからです。
例えば、民法709条は
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者 は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
という条文ですが、「他人の権利」、「法律上保護される利益」、「損害」とはそれぞれ何でしょう?定期試験を学生に受けさせるのは、学生の平穏な大学生活を送る権利を侵害していると言えるのでしょうか?それによって生じた損害とは?
このように、ある具体的な事例がその条文に当てはまるのかには争いが生じ得ます。そこで裁判所は、法適用の場面では文言を拡大したり、縮小したり、言い換えたりして解釈を行い、結論を導くのです。
民法709条なら「法律上保護される利益は守る必要性の高い重大な権利のことを指しているから、学生の平穏な大学生活を送る権利は法律上保護される利益ではない」という風に。
もちろん「どこまでの解釈なら許されるのか」という限界もあります。この問題は、解釈と実際の文言との乖離の程度、立法目的、一般常識(道徳や慣習も含む)などを比較検討して解決されるのですが、法学部の講義ではこの点も重点的に説明されます。
立法目的で言うと、例えば、刑法の条文の拡大解釈は厳に慎まれます。なぜなら、刑法違反の効果は刑事罰であり、刑事罰は人権に制限行為であるところ、確実にクロでない限りは刑事罰を加えないでいる必要があるからです。条文を拡大解釈してしまうと、刑法違反になる範囲が広がってしまいますからね。
では、同条第1項の文言解釈に戻ります。「地方鐡道」の解釈が問題でした。
地方鐡道法は、私企業が建設・営業する鉄道や企業の経営を規整する(秩序維持する)という立法目的を持っています。この目的から考えると、鉄道の交通機関としての安定性を、この法律は実現したいようです。
また、この法律の前身は「私設鐡道法」(明治33年施行)や、さらにその前身である「私設鐡道條例」(明治20年・勅令第12号)です。これらの第1条に大きなヒントが隠されています。
私設鐡道法第一条
本法ハ軌道條例其ノ他特別ノ法令ニ規定スルモノヲ除クノ外一般運送ノ用ニ供スル私設鐡道ニ之ヲ適用ス(第2項略)
私設鐡道條例第1条
旅客及荷物運輸営業ノ目的ヲ以テ鐡道ヲ布設セントスル者ハ(以下略)
上の条文によれば、鉄道とは「運送」とか「運輸」を行うものだと定義されています。「運送」や「運輸」、また、上の立法目的で出てきた「交通」とは、辞書的には出発地から目的地に人や物を移動させることを言います。
したがって、「地方鐡道」とは、「異なる2地点間を結ぶ私設の鉄道」であるという解釈(限定解釈)をすることができます。
以上によれば、駅を1つしか持たないウエスタンリバー鉄道は、要件③(地方鐡道であること)を満たさないので、地方鐡道法の適用対象外ということになります。よって、ダイヤや運賃を設定する必要もありません。
このように、我々が思う「鉄道」と法律上の「鉄道」は異なるという点が難しいところでしょう。
…とまあ、このように長い長い作業を経て結論を得ることができました。後年、地方鐡道法は鉄道事業法に改正され、私有地における鉄道における運賃・ダイヤの設定義務は緩和されました。結果、ディズニーシーでは一般交通の用に供されている「エレクトリック・レールウェイ」が平然と運転されています。
ここまでまとめると、条文を事例に適用する際には
①適用したい条文の目星をつけて
②条文の要件と効果に着目し
③立法目的等を踏まえつつ解釈を行い
④以上の一般論を具体的な事案にあてはめる
という作業が行われ、定期試験では一通りこれができるかが試されます。
さて、ここでそろそろ締めに入りたいところですが、ウエスタンリバー鉄道の話はまだ終わりません。
#5 法律の運用
法律は国会が定めて国民に提示されるわけですが、それを実際に動かすのは誰でしょう?…行政…もとい、公務員です(`・ω・´)キリッ
今しがた紹介した地方鐡道法も、「監督官廳ノ認可」という文言から分かるように、官庁(ここでは当時の陸運局)によって法律の運用がなされています。
法律の運用で問題になるのが、「ちゃんとそれが運用されているか」です。何を簡単なことを…と思われるかもしれませんが、実は、これは非常に難しい問題なのです。というのも、公務員と一口に言っても、それは一枚岩ではないからです。
例えば、官僚と役所の窓口で働く第一線職員とでは、その性格は天と地ほどの差があります。これが原因で、法律の運用に困難が生じます。
地方鐡道の運用について、wikipediaの記述を引用します。
当時の管轄陸運局(現:運輸局)によって運用の基準が曖昧で、東京陸運局は厳しく運用していた一方、名古屋陸運局(中部運輸局)では緩く、博物館明治村の蒸気列車や京都市電、修善寺虹の郷のロムニー鉄道は複数駅による移動手段であるが遊戯施設として許可されている。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E9%89%84%E9%81%93 )
陸運局は地方ごとに組織が分割されていいて、それぞれの陸運局は互いに独立して動いています。これが原因で、陸運局ごとに地方鐡道法の運用の厳密さに違いが出てしまったのです。オリエンタルランドは「運悪く」厳格に運用する東京陸運局の管轄下に属していたのですね。
法学部では、なぜそのようなことが起こったのかも研究できます。組織の文化を比較したり、職員の個性を比較したり、陸運局と外部団体の癒着や利益団体の圧力を考えたり、現場と上層部の違いを考えたり、日本を飛び出して海外と比較してみたり、、、これらは「行政学」の講義で学べます。
これはお役所の話でしたが、刑法や刑事訴訟法では警察官や検察官が法律をしっかり遵守しているか、という問題になります。
このように、(公務員に特化した)組織学も法学部で学ぶことができますし、現実の事例を分析して、社会の仕組みを垣間見ることができるのです。新型コロナウイルス対策で日本政府がどうしてこんなに弱腰なのか、客観的に説明出来たら面白いですよね?(面白いですよね??)
「行政学」の授業に限りませんが、法学部では判例や現実の事例を扱うので、様々なドラマを楽しめるというのも一つ魅力だと言えます。
おわりに
ディズニーが好きすぎてついつい筆が進んでしまいましたが、実は法学部で学べることは多様である、ということ実感していただけたと信じています。
最後に、法学部で身につくこととして、ものの見方・考え方を挙げます。実はこの記事全体は一貫して、一般論→個別論、条件→帰結という構造になっています。これは法学の記述の基本的な構造であって、このように、法学部では因果関係等の論理や条件分岐、様々な要素の比較衡量等、今後の生活に役立つものの考え方をツールとして獲得できます。
法学部は確かに砂漠です。しかし、そこでしっかり根を張ってみると、そこには、今後の成長に不可欠な豊かな地下水脈があると分かるでしょう。