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【農学部】~農業・資源経済学専修で考える食の社会科学~

2021.8.30

UT-BASEがお送りする「後期課程の歩き方」(学部学科紹介)は、後期課程での学生生活を紹介しています。しかし、今この拙文をお読みいただいている好奇心旺盛・頭脳明晰な読者の皆様は「どんな雰囲気かは分かったけど、具体的に何が学べるのだろう…?」とお思いのことでしょう。
そこで!!「学部学科紹介イカ東edition」、つまり、東大生が所属学部で学んでいることを"エンジン全開"で語り倒す企画を実施することになりました!

一端の学部生が書いているので学問的誤りがあるかもしれませんが、学問の雰囲気を掴んでいただくことを趣旨としておりますので、どうぞ間違いには優しく目を瞑るか、そっと教えていただくよう、よろしくお願い致します。

さて、本記事は「農学部随一の社会科学系」であることで有名な農学部農業・資源経済学専修についてです!農業・資源経済学専修4年の餌取がお送りいたします。お楽しみあれ。
また、「農経」の制度や学生生活は、UT-BASEの学部学科紹介ページをご覧ください。

食を経済する?

農経こと、農業・資源経済学専修に興味をもってくださりありがとうございます!
ところで、農経と言われて、みなさんはどのようなことを想像されるでしょうか?
農経は、どうやったら農業で儲けられるか考えるところなのでしょうか。

私が思うに、農経は、食に関わるあらゆる課題に、社会科学という道具でアプローチするところだと思います。ここでは、そんな農経において根底にある問題意識についてご紹介します。

#1 食に関わる課題とは?

先程、農経は食に関わる課題にアプローチするところと書きました。では、具体的に「食に関わる課題」としてはどんなものがあるのでしょうか?

例えば、グローバルな視点では、人口が増加し続ける中で今後食料が足りなくなることが懸念されています。
そもそも現時点で食料が人々に十分に行き渡っていない地域もあります。
私たちの身近なところに目を向けてみると、貧困で十分な食料にありつけない人は日本にも数多くいます。
あるいは、フードロスという言葉を聞いたことがあるかもしれません。大量の食料の廃棄も問題視されています。
また、もし今後電車や車で田舎を通る機会があったら、窓の外から田畑がある辺りを注意深く見てみてください。田畑に周りを囲まれた草やぶが見えるかもしれません。(そのような土地は必ずしも耕作放棄地とは限りませんが、)耕し手がいなくなって荒れる農地が多く発生していることもまた事実です。

こうして見ると、一口に「食に関わる課題」と言っても、様々な問題があることがわかります。さらに、農業固有の事情が強く関与するものもありますが、これらの問題は必ずしも私たちから遠く離れたところにある田んぼや畑だけの話ではないことが見てとれます。
これらは全て、農経がアプローチする社会課題です。では、これらの何が問題なのか、それにどうアプローチするのか、例として世界的な人口増加による食料問題と、耕作放棄地について見ていきましょう。

#2 世界的な人口増加と食料問題

世界の人口はここ数十年、急速な勢いで増加しています。人間は食料なしでは生きていけないので、人が増えるということは、それだけ必要な食料が多くなることを意味します。では、どうやってそれほどの食料の増加を実現してきたのでしょうか。次のグラフをご覧ください。


図1 世界の人口、穀物収穫面積、穀物収量の推移(1961年~2017年)
それぞれ1961年の値を1とした。
出典:FAOSTAT、筆者作成

図1は世界の人口、穀物収穫面積、穀物収量の変化を表したものです。なお、簡単に言えば、穀物収穫面積とは穀物を最終的に収穫した面積(穀物を栽培していたがうまく育たずに収穫できなかった場合は含まれません)、穀物収量とは一定の面積あたりに収穫できた穀物の量です。つまり、

穀物の収穫量 = 穀物収穫面積 × 穀物収量

という関係が成り立ちます。

図1から、人口はここ50年で2倍以上に増加していることがわかります。この人口増加は食料、特に主要なカロリー源となる穀物の生産量の増加に支えられています。しかし、図1からわかる通り、穀物の収穫面積はここ50年であまり変わっていません。穀物の生産量の増加は専ら収量の増加によっています。
しかしながら、先進国では穀物の収量は既に頭打ちになっていると言われています。発展途上国では穀物の収量は上昇傾向ですが、この傾向もいつまで続くかわかりません。
一方で、穀物の需要に注目すると、人口増加に限らず様々な要因により、穀物需要の増大は確実視されています。例えば、経済成長に伴って食肉の需要が増大するという経験則が見出されています。今は相対的に貧しい国が今後経済成長を遂げることで、食肉の需要が増し、食肉の生産に必要な飼料の需要の増加も見込まれています。

こうして考えると、世界的な食料不足の危機が現実味を帯びてきます。では、次に、食料が足りなくなった場合に何が起こるか、経済学的に考えてみましょう。

#3 食料問題を経済学的に見ると

みなさんは需要曲線や供給曲線という用語を聞いたことがあるでしょうか?簡潔に言うと、経済学では、商品の価格は需要量と供給量が同じになるような価格に落ち着くと考えます(厳密にはこのことは完全競争市場で成り立ちます)。供給が何らかの理由で困難になると、多くの需要者が少ない供給量を奪い合うことになるので、需要量と供給量を等しくする価格は上がることになります。

初歩的な経済学としては、ある商品の供給が需要に対して相対的に不足すれば、その商品の価格が上がる、というのが結論です。では、これを食料にあてはめて考えたとき、このことは何を意味するのでしょうか?

需要量が供給量と等しくなるまで価格が上がるということは、価格が上がる前に比べて需要量が減るということです。しかしながら、人の数は変わらないのに、食料供給が困難になると食料需要が減るとはどういうことでしょうか?これが高級な牛肉やフルーツならまだしも、特に穀物などは、誰もが生きるために必要としているわけです。
その需要量が減るということは、誰かが満足に食事できなくなっていることの裏返しと考えられます。さらに、上がった価格を支払えないのは貧しい人々です。市場のシステムでは、世界的な食料不足が起こると、減少した供給分はこのように貧しい人々の我慢で埋め合わせることになるのです。

もっと言えば、世界的な食料不足の際には食料の輸出国が輸出を制限することが考えられます。食料輸出国は自国の食料を輸出するかしないかを選択できますが、食料輸入国は輸出国に断られれば輸入ができません。この意味で、主導権は食料輸出国にあるわけであり、いざ食料が不足すると、食料輸出国は自国民の生活を優先して食料輸出を停止しかねません。現にコロナ禍では、食料を輸出する19ヵ国で食料の輸出が制限されました(農林水産省『令和2年度 食料・農業・農村白書』)。こうなると、普段から食料を輸入に頼っている国では、食料不足の際に深刻なダメージを負いかねません。

まとめると、世界的な食料不足の際には、貧しい人々や、食料輸入国にしわ寄せが来ることが以上の考察からわかりました。ところで、農経の特徴として、はじめに「農経は、食に関わるあらゆる課題に、社会科学という道具でアプローチする」と書きました。私は、農経では、抽象的な理論は目的ではなく手段であって、現実に社会で起こっている問題の構造を明らかにすること、ひいては解決策を考えることが目的だと感じています。ここでは経済学の理論を用いて、食糧不足に伴う現実的な問題の構造を説明しましたが、農経の実学重視の姿勢が少しでも伝わっていたら幸いです。

#4 田舎で増える謎の草やぶ

さて、次は話題をがらっと変えて、日本の田舎に焦点を当ててみましょう。田舎というと、田んぼや畑がどこまでも広がっている牧歌的なイメージを抱くかもしれません。あるいは、車や電車、飛行機の窓から実際に見たそのような光景が目に焼き付いている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、#1でも述べましたが、今後車窓から田舎の農業地帯を見る機会があったら、田畑に囲まれた区画で、圃場の作物より明らかに背の高い草が生い茂っている区画がないかよく見てみてください。場合によっては木が生えているかもしれません。近年、このような草やぶが日本全国で増加しています。ここでは、この草やぶが何なのか、その背景には何があるのか、社会科学の視点で見ていきましょう。

結論から言うと、そのような草やぶは耕作放棄地である可能性が高いです。厳密には、耕作放棄地は「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」(農林水産省『2015年農林業センサス報告書』)です。耕作しない結果草やぶになっているかどうかは定義に含まれていませんが、ここでは耕作放棄地は「耕作されずに荒れている農地」ぐらいに捉えることにします。
農地が耕作されなくなる要因には様々なものがあります。例えば、耕作者が病気や老衰など身体的な理由で耕作を続けられなくなった、あるいは、農地の所有者が死亡し農地が子に相続されたが、子が就職や結婚を機に遠方に引っ越しており農地の管理ができない、更には農地が山あいにあるなどの理由で効率的な耕作が困難であり、引受け手が現れないなどの要因が考えられます。

では、耕作放棄地があると何が問題なのでしょうか。

まず、耕作放棄地は周囲の農業生産に支障を来します。せっかく田畑の雑草を取り除いても、隣の農地が草やぶになっていては、雑草の種がどんどん圃場に入ってきます。
さらに、耕作放棄地は害虫の温床にもなります。例えば稲作では、カメムシが籾(もみ)を吸汁すると米粒に斑点が発生し、商品価値が下がってしまいます。カメムシの発生を抑制するためには、カメムシが好むイネ科雑草を圃場付近から除去することが重要ですが、田んぼのすぐ近くにイネ科雑草だらけの草やぶがあってはひとたまりもありません。

次に、耕作放棄地は住環境を悪化させます。ある程度の背丈のある草やぶは害獣のいい隠れ場所になります。市街地に熊やイノシシが頻繁に出没するような街では、住民が安心して暮らせません。更には、農地が耕作放棄され保水機能が低下すると、その地域は洪水の被害を受けやすくなってしまいます。

加えて、#2の議論を踏まえると、食料の需給が世界的に逼迫することが予想されている中で、収量の高い日本の圃場で耕作を止めることは食料危機のリスクを高めることになってしまいます。

と、耕作放棄地の問題をいろいろ見てきましたが、今度は地域経済の観点で耕作放棄地の発生について考えてみましょう。地域というスケールで見たとき、今まで農業生産が行われていた土地で農業が行われなくなるということは、その地域における農作物の他地域への出荷が減る、つまり、その地域が域外から稼ぐお金が減るということです。

地域が存続するためには、域外から地域に入ってくるお金が、地域から域外に出ていくお金以上である必要があります。そうでないと、地域の人々は有限の貯蓄を切り崩して生活していくことになり、いつかは貯蓄がなくなって地域経済が存続できなくなります。地域から域外に出ていくお金としては、その地域で生産していない食料品や日用品の購入費用、あるいは電力光熱費や通信費などがあります。これらは人が生活する上で必ず発生するので、地域が存続していくためにはこれらを賄えるだけのお金を域外から稼いでくる必要があります。では、どうやって田舎が他地域からお金を稼いでくればいいのでしょうか?

大企業の工場があって、そこで多くの雇用が生み出されているなら、その人たちの給料が域内に入ってきます。あるいは、多くの観光客を集める景勝地や温泉地では、大きな観光収入があるかもしれません。ただ、日本全国の田舎で大きな工場を誘致したり、多くの観光客を呼び込めたりするわけではありません。そこで、田舎でも、というより田舎だからこそ成立する産業として、農業が重要な意味を帯びてきます。田舎の豊かな自然環境を活かして農業生産を行い、収穫物を域外に販売することは、地域にとって安定した収益源を確保することになります。以上のことから、田舎の地域社会の存続のためには農業を維持することが有効だと考えることができます。

#5 地域の農業を維持していくために ~農経の役割~

では、次の課題はどうやって農業を維持するかです。地域の農業を活性化するために、全国各地で様々な取り組みが行われています。具体的には、新規就農者や季節労働者を広く募ったり、AIやICT、IoTを活用したスマート農業を導入して軽労化を図ったり、既存の経営に農地を集積させて大規模な経営を創出したりなど、様々な試みが行われています。

この潮流の中で、農経には新たな「知」を提供することが求められています。例えば、どういう工夫をすれば新規就農者が地域に定着しやすくなるか、スマート農業を導入することのメリットはコストに見合うのか、農業経営の規模拡大において何がネックになるかなど、求められている知見は数多くあります。

では実際に、例えばどんな工夫で新規就農者が定着しやすくなるか明らかにしたい場合はどういうことをするかというと、様々な地域で行政や農協などの方に新規就農者を呼び込むために行っている施策を聞いたり、新規就農者の方々に話を聞いたり、と農業の現場に密着することになるでしょう。(アンケートや統計を計量経済学の手法を用いて分析する方法もあります。)現場に出て課題を探し、その構造や解決策を探る姿勢は、実学重視の農経だからこそのものだと思います。

おわりに

ここまで読んでくださりありがとうございました!
この記事では初歩的な(しかし重要な)社会科学の考え方を援用しつつ、農経の問題意識について紹介しました。現実に起きている問題を出発点として、その問題の構造や解決策を探る農経の姿勢を感じていただけたら幸いです。
それでは、農経でお会いしましょう!

最後まで記事を読んでくださりありがとうございました!
最後に2点、この記事を作成したUT-BASEからお伝えしたいことがあります。

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