東大の大きな特徴である、進学選択(通称「進振り」)。
※進振りに関してはこちらの【科類紹介記事】をご参照ください!
——進振りを終えた東大生たちは何を基準に学部・学科を決めたのか?どんな手段で情報を集めたのか?自分の興味・関心にどう向き合ったのか?
悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は 文科一類 から 工学部 化学生命工学科 に進学した学生の体験談です。
ぜひご覧ください!
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:R.S. さん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:工学部化学生命工学科(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
Q. 大学受験をするにあたって、なぜその科類を選んだのでしょうか?また、高校時代の関心分野がもしあれば、それについて教えてください。
A. 数式と睨めっこをするのが性に合わないなと思い、むしろ言葉などで数式に落とし込めない余白を持たせた領域を扱いたかったので、文系を選びました。また、中高一貫の進学校に通っていたため、周りが東大を目指していたこともあって自然と東大を目指すようになりました。科類については、まだ将来やりたいことが決まっていなかったので、一番選択肢の幅が広いところに行こうと思って文科1類を選びました。
高校時代の関心分野について、はっきりとは決まっていませんでしたが、高校1年生の時からヘルスケアに関するプログラム(後述)に参加していました。
3. ターニングポイント(授業)
Q. 現在から入学時を振り返って、どのくらい興味範囲は変わりましたか?
A. めちゃくちゃ変わっています(笑)
まず、入学当初は心理学に興味がありました。なので、総合科目を心理漬けにした履修登録にしました。だけど、実際に勉強してみると、授業の3週目くらいで自分の関心とはあまり合致しないことがわかってきて……そこで少し迷子になりました。
でも、1年生のAセメスターの時期に、周囲から「やっていることが狭すぎる」とアドバイスをもらい、興味のあることには全て手を出してみることにしました。それを受けて1年生のAセメスターでは、経済、歴史、現代思想、統計、数学、進化学など色々な授業を履修しました。興味分野が広がったし、視野も広がったように感じました。その中から、徐々に自分が好きだと感じるものの軸が3つくらいに絞り込まれていきました。
Q. 3つの軸はどのようにして絞り込まれたのでしょうか?
A. 最初のうちは、「好き」とか「嫌い」はあるけど「めちゃくちゃ好き」がなくて、大学には向いていないんじゃないかと思ったこともありました。でも、「面白い」「面白くない」という自分の純粋な感覚を頼りにしながら、そこに共通項を見出していきました。僕の場合、
- ① 哲学・倫理などの、感覚も関わってくるような主観的なものの見方をつきあわせて議論していくこと
- ② 生物を、分子レベルまでミクロかつ客観的に見ていくこと
- ③ 政治など、物事をマクロに見てどう動いているのかを考えること
の3軸がすごく好きだとわかるようになりました。
興味のありそうな分野を全部やってみて、そこから絞っていくのがおすすめですね。
Q. 「取ってよかった」というおすすめの授業はありますか?
A. 全学自由研究ゼミナールの「生命の普遍原理に迫る研究体験ゼミ」です。
なんとなくシラバスを読んでいたら見つけて、参加しました。蓋を開けてみたら周りは理系の生徒ばかりでしたが、これがとても面白かったです。最先端の研究室に配属され、実際に研究に取り組む機会をもらえるのですが、漠然と抱いていた「研究室に籠るのはどこか暗い気がして自分のやりたいこととは違うかな」というイメージが覆されました。
4. ターニングポイント(課外活動)
Q. 授業以外の課外活動などで、何か進振りの参考になったきっかけはありましたか。
A. 「inochi WAKAZO Project」という団体の大学生運営メンバーをしています。主な活動内容は、inochi Gakusei Innovators’ Program(通称i-GIP)という、中高生と大学生が一体となってヘルスケア課題に対するイノベーティブな解決策を考案する学生プロジェクトの運営です。高校生のときに、運営に携わっている大学生の話を聞いて「面白そうだな」と思って参加者として出場しましたが、大学生になった現在は2022年度の運営代表として、活動にのめり込んでいます。理系で医学部医学科の生徒が多いですが、自分はそこで文系として初めての代表になりました。
とにかくその団体の活動が好きだったのですが、プロジェクトが好きなのか、メンバーが好きなのか、それともヘルスケアという分野が好きなのか、ということがわからず、それをじっくり見極めようとするのも進振り先を決めるのに良い機会になりました。結果的には、全部が好きという結論になったのですが(笑)
5. ターニングポイント(その他)
Q. その他、日常生活などの場面で、ターニングポイントとなったことはありましたか?
A. いくつかのきっかけがありました。渋谷の街を歩いていて、ふと目に留まったポスターがあったので、その展示に行ってみました。「未来の美的身体について」という展示で、ある種ディストピアとして予想される未来における身体性の認識を可視化し、行き過ぎた医療や美容に警鐘を鳴らすといった内容でした。なんとなく入って、気がついたらその個展で2時間くらい過ごしていて、何気なく目に留まったものにここまで心を惹かれるということは、自分はやはり身体、生命性に関わるテーマに興味があるのだということを再確認するきっかけになりました。
あとは、「生命の普遍原理に迫る研究体験ゼミ(前述)」ではニューロンの研究をしていたのですが、ニューロンがすごくかわいいなと思える瞬間があって(笑) 研究対象をすごく好きでいられるというのは、向いているということかもしれないなと思いました。
また、2年生の初夏からいくつかの個人的な経験が重なりました。
幼い頃から死について真剣に考えることが多かったのですが、2年生の5月くらいに、西智弘さんの『だから、もう眠らせてほしい』という安楽死・尊厳死をテーマにした本を読みました。すると、深夜に読み始めてからそのまま朝まで一気読みしてしまって。30分ぐらい読んで寝るつもりだったんですが、そんな経験はしたことがなく、「自分にしてはおかしいな、よっぽどこのテーマに興味があるのか?」と思いました。
その後、「余命10年」という映画を見に行って、その後「なぜ死に近いところにいる人間が美的に描かれることが多いのだろうか」と考え込んでしまいました。
これらの経験や、普段の考え事の末、やはり自分は生命を、およびそれと不可分な死という現象の性質を、とことん探りたいんだと思うようになりました。
そして、「『死生学』という分野をもっと学問的に強くしたい」と心から思いました。それが決まってからは早かったですね。
6. 学部・学科の絞り込み
Q. なるほど。心の琴線に触れるようないくつかの出来事が重なったのですね。その「これをやりたい」というものを学問分野の名前にまで落とし込むのって、すごく難しい気がしていて。どのように興味分野の名前を決めましたか?
A. 自分は「死生学」という学問分野は、宗教学の1つのブランチとしてもともと知っていたような気がします。でも、それにどんな角度で切り込むかということについては迷いました。
Q. どのような学部・学科を検討しましたか?また、いつごろ決断をしましたか?
A. 文学部の宗教史学専修や倫理学専修、社会学専修も考えました。生物系では、理学部の生物学科、生物化学科、生物情報科学科も検討しました。最終的には、工学部化学生命工学科に決めました。「ここに絶対進もう」と決めたのは、2年生の5月末くらいだったと思います。
Q. 決め手になったのは何でしたか?
A. まず、文系か理転か、というところで、文系の目線で生命性に向き合う(宗教学、生の哲学、生命倫理、美学芸術学など)アプローチもすごく興味があって好きな一方、理系として体系的に生物学を学び専門性を持つことをまず優先したいなと思い理転を決意しました。文系学問は人と本に恵まれればできるが、理系で生物学をやるにはラボ設備がないとできない、という意味で、大学という資源を存分に活かせる確信が持てたというのも大きな理由になりました。
A. 次に、生命科学をやりたいという上での学科選びですが、化学生命工学科では、生物学を真正面から学ぶというよりは、最初は化学を本格的に学ぶことになります。長期的に見てそれが大きなメリットだなと思いました。また工学部ということで「エンジニアリング」マインドを持ってフロンティアを切り拓きたいという野望にもぴったりです(笑)
また、まだ決め切れてはいませんが、決め手になったのは研究室との相性でした。化学生命工学科のホームページを見ながら、鈴木研究室や神経細胞生物学研究室の研究内容が面白そうだなと思うようになりました。化学的に、分子レベルで生命を見られるな、化学のことをしっかり勉強しながら生物のことを研究できるな、と。
7. 現在の学部・学科での生活・満足感
Q. 実際に内定し、持ち出し科目などを受けてみてどうでしょうか?想定したイメージとどのくらい齟齬がありましたか?
A. コマ数がめっちゃ多いです(笑) 現在18コマ履修しています。文系だったのでコマ数の多さは新鮮ですが、化学漬けの日々をなんとか頑張っています。また、生物系の勉強をしたくて、医学部生向けの輪読ゼミ(全学自由研究ゼミナール「Molecular Biology of the Cell 輪読ゼミ」を取っています。これがすごく楽しいです!
8. アドバイス
Q. 進振り先を決めるのに悩んだとき、どのようなアクションを取ることを勧めますか?とってよかった行動などはありますか?
理系に行くなら、研究室の見学には絶対行った方が良いと思います。この研究室に行きたいからこの学科に行く、という決め方はすごく良いなと個人的には考えています。自分は直前まで行く学部を悩みすぎてこれができなかったからかもしれませんが……。
もちろん配属先の研究室は進学後に決めることができますが、早く決まっていればいるほど、動き出しが早ければ早いほど、レベルの高い研究ができるのではないでしょうか。バイオ系だと特に、興味のある研究室が決まっていると学部生のうちから修士レベルの知識を身につけることも可能だと思います。
Q. ご自身は情報収集にどのような手段を用いましたか?
A. インターネットで学部・学科の情報を検索したり、あとは課外活動のつながりで興味のある学科の先輩に繋げてもらって積極的に話を聞いていました。先輩に直接話を聞くことができたのは大きかったと思います。
9. メッセージ
Q. 最後に、自分の経験を通して、これから進振りを迎える人に伝えたいことがあれば、教えてください。
A. 「行きたいかも」と思った学部・学科の要求科目は必ずきちんと確認した方が良いと思います。自分の場合は要求科目がなかったので命拾いしましたが、もしあった場合、自分の行きたい学部・学科に行けなくなってしまいます。
逆に言えば、それさえ満たしていれば限界まで迷うことができます。
悩めば悩むほど、最後に得られる「これだけ迷って決めたのだから」という納得感が大きいと思います。
一度決めたとしても、「ここで本当に良いかな」「行って本当に良いかな」と自分を疑い続けることで、頭の中が整理されるのではないかと思います。
本、ネット、人など、あらゆる方面から情報を集め、限界まで考えてみてください!
UT-BASEメンバーより
自分の心の動きを丁寧に見つめ、最終的には自身の関心に理系からのアプローチをすることを決断したSさん。「大変」と言いながらも心底楽しそうに現在勉強していることを共有してくださる姿が印象的でした!
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