「東大関連スタートアップでインターン!?」は、東京大学の完全子会社のベンチャーキャピタルである東大IPCと、東大の学生メディアUT-BASEが連携して執筆する連載記事です。
東大関連スタートアップでインターンをする現役学生と、その企業の創業者やCEOの方などをゲストにお迎えし、どんな思いでどんなお仕事をされているのかを率直にお聞きして記事にしました。
この記事を読んでくださっている皆さんに「スタートアップで働くこと」の魅力が伝われば幸いです。どうしてこのような記事を執筆することになったかについてはこのシリーズの第0弾の記事をこちらからお読みください!
※広報等を含め、当企画において、UT-BASE及び東大IPCはあらゆる機関から一切の金銭その他の報酬を受け取っておりません。事実に基づき客観的に記事執筆を行っていますが、事実誤認等がありましたら早急にお知らせください。
はじめに
東京大学公共政策大学院で宇宙政策を研究する仲間さんは、日本の宇宙ビジネスをリードするアクセルスペースでインターンをすることが夢で、創業者の中村さんは憧れの存在だったそうです。そうしたこともあり、どうしても働きたいという熱意を必死に伝え、でアクセルスペースでのインターンに採用された(※記事内で詳述)仲間さんは、アクセルスペースの職場環境を「アットホームかつインターナショナル」と言います。そんな環境の中、仲間さんはご自身の研究と、アクセルスペースでのインターンをどのように意味付けているのでしょうか。アカデミアでのキャリアとアクセルスペースでのインターンの意外な関係性が見えてきました。
⓪基本情報
CEO:中村さん
株式会社アクセルスペース代表取締役CEO
1979年生まれ、三重県出身。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に超小型衛星のパイオニアである中須賀真一東大大学院教授に師事し、手のひらサイズの人工衛星「キューブサット」の開発に従事。2003年に世界で初めて打ち上げ・軌道上運用を成功させ、その後も研究の傍ら合計3機の超小型衛星プロジェクトに関わった。卒業後、同専攻での特任研究員を経て 2008年に株式会社アクセルスペースを設立し、代表取締役に就任。2015年より宇宙政策委員会部会委員を歴任。
学生インターン:仲間さん
東京大学公共政策大学院在学中。
2022年4月から、東京大学公共政策大学院(GraSPP)にて、鈴木一人先生とQuentin Verspieren先生の下で宇宙政策を研究中。現在は大学の交換留学プログラムにて、パリ政治学院(Sciences-Po)で国際安全保障を学ぶ。沖縄県出身、高校まで首里城の近くに住んでいた。アクセルスペースでは今年6月からインターン生として、調査業務を担当。
取材先:株式会社アクセルスペース
2008年創業。”Space within Your Reach”をビジョンに掲げ、これまでに9機の小型衛星を設計、製造、運用し、小型人工衛星に関わるトータルソリューション(自社小型衛星群による地球観測データ事業「AxelGlobe」と、小型衛星の設計製造・運用サービス提供事業「AxelLiner」)を提供。衛星が撮影する画像は、農作物の生育管理や収穫適期予測、都市計画や経済動向把握、災害予測・対応への利用のほか、サプライチェーンのリモート監視、SDGsへの貢献やESG対応のための環境モニタリングでの活用が注目されている。
募集職種:ビジネス・エンジニア
表記:CEOの中村さん -(C)・インターンの仲間さん -(I)
①どんなスタートアップ?
ーーーはじめまして。中村さん、仲間さん、今日は宜しくお願いします。スタートアップで過ごす時間はどのようなものか、お二人にお聞きできればと思います。早速なのですが、まずはアクセルスペースさんがどんな会社なのか簡単に教えてください!
(C)アクセルスペースは小型の人工衛星について扱っている宇宙ベンチャーです。もともと2000年代には超小型衛星をビジネスに活用している企業はほとんどなく、宇宙ビジネスに関心も集まっていませんでした。
ーーーえ、そうなんですか?個人的には宇宙ビジネスは「熱い」イメージがありました!
(C)私たちが2008年にウェザーニューズさんと共同でプロジェクトを立ち上げた頃は、そんなビジネスがありうるのか、とかなり奇異な目で見られました。投資家には何も話を聞いてもらえませんでしたしね。2010年代になって、アメリカの宇宙スタートアップが大きな資金調達をするようになり、当社も2015年に最初の大型資金調達を完了させた頃から、社会的にも宇宙ビジネスにかなり注目をして頂けるようになりましたね。現在は事業形態が起業当時とは大きく変わっており、2つの柱からなる事業の構造になっています。
1つ目の柱は2015年に始まった「AxelGlobe」です。これは、自社で複数の人工衛星を打ち上げて世界を高頻度で観測する、次世代の衛星データ収集プラットフォームです。例えば農業向けであれば作物の生育状況のモニタリングをしたり、政府向けであれば災害被害の把握や違法伐採への監視を行ったりという用途があります。
そして、2つ目の柱は今年の4月に発表した新サービス「AxelLiner」です。これまでとの比較で言えば、衛星を開発する事業であることに変わりはないのですが、その進め方が大きく異なっています。端的に言えば、「さまざまなミッションに対応できる汎用性を持ち、量産性に優れた開発手法を導入する」ことで、世界で急速に高まる小型衛星ニーズに対応することを目指しているんです。2024年初頭に実証機を打ち上げる予定で、今は試験モデルの製造段階にあります。
ーーーなるほど!汎用性・量産性を備えた人工衛星をどうやって作るんですか?
(C)実際に作る「モノ」を変えるわけではなく、モノの作り方の「コンセプト」、つまりUX(※編集部注:ユーザーエクスペリエンスの略)を変えるんです。具体的には、今まで「専用衛星」として、お客様の依頼に合わせて人工衛星をその都度作っていたところを、スタンダードな人工衛星を1つ作り、それをお客様のミッション、例えば通信や実験などに合わせて活用してもらうことを目指しています。
ーーーそうなんですね、作るモノを変えるというよりは、ビジネスモデルを変えるわけですね。ちなみに、こういう変化はどういう経緯で生まれたんでしょうか?
(C)私たちは創業してから14年経ちますが、この間に宇宙を取り巻く状況は大きく変わりました。人工衛星をビジネスに使うことへの認知が進み、「こういう衛星を作れない?」というご相談がすごく増えました。社内のキャパシティが足りず、いくつかの案件を断らざるを得なくなっていました。そこで、人工衛星の作り方そのもの、ビジネスそのものを変える時期だと考えたわけです。
ーーー時代の変化に合わせてビジネスモデルを変えていくんですね!
②CEOと学生インターン、それぞれのやりがいとは…?
ーーーさて、ここまでは会社についてのことをお伺いしてきましたが、次に中村さんと仲間さんがどんなやりがいを感じ、どんなお仕事をされているかをお聞きできたらと思います。まずは仲間さんからお願いします。
(I)アクセルスペースでのインターンは今年の6月から始めました。私は主にリサーチ業務を担当していて、内容としては諸外国の宇宙安全保障を扱っているんです。
ーーー宇宙安全保障ですか、何だかカッコいいですね。
(I)ありがとうございます(笑)。実は私は東京大学公共政策大学院で、宇宙空間の持続的な利用(宇宙デブリ問題等)に関する国際的な取り組みや、日本の宇宙産業発展を促進させる経済政策について研究しているんです。
普段の研究活動では、宇宙の平和利用に焦点を当てているのですが、インターンを通して、安全保障の側面について詳しく調査したことで、宇宙産業を多角的な視点で理解することが出来るようになりました。
ーーーなるほど。経済の面だけでなく、安全保障の面からも宇宙政策を勉強されたわけですね。何か見方が変わったりはしましたか?
(I)海外の政府が現在進めている宇宙安全保障のプロジェクトついて調査し、やはり「宇宙開発は国際政治と結びついている」ということを強く再認識しましたね。余談ではありますが、実は、日本では宇宙政策のスペシャリストとしてビジネスで活躍なさっている方は数名しかいません。留学先のフランスを始め欧米では、宇宙政策の研究・実践がかなり進んでいます。それもあって今は、将来は、日本の宇宙政策者(Space Policymaker)として国際舞台で活躍したいという気持ちもありインターンを楽しんでいます。
ーーー中村さんにお聞きしたいのですが、こういったリサーチを行うインターンは、アクセルスペースさんでは今も募集されているんですか?
(C)いえ、仲間さんは通常と異なる応募の形でしたが、基本的に学生インターンはエンジニアもしくはビジネスのどちらかを担う形で採用しています。
ーーーそうなんですね、ちなみにその「通常と異なる応募の形」というとどんな感じなんでしょうか?
(C)私が毎月出演しているラジオ番組の収録関係者と仲間さんがもともと知り合いで、収録現場に直接訪れ「インターンさせてください」と相談されたんですよ(笑)。
ーーー本当ですか(笑)。すごい行動力で、もはや尊敬です。
(I)中村さんの大ファンだったので…(笑)。
(C)今のところこうしたリサーチ担当のインターンは常時採用しているわけではありませんが、タイミングによっては何かご紹介できるかもしれませんね。
ーーーありがとうございます。さて、続いて中村さんはどんなお仕事をされているんでしょうか。
(C)私は経営者なので会社の方針、課題への対処などについて意思決定をすることが仕事の中心です。だから会議の数は多いですね。あと取材や講演も行っていますし、事業の戦略立案、採用活動のアシストなどもしています。必要なことは全部やっているというのが答えになるかもしれません。
ーーーなるほど!では、やりがいはどういった部分にありますか?
(C)私はもともとエンジニアだったので、実は経営の勉強などは全くしていませんでした。起業したいという気持ちがあったわけではなく、自分がやりたいことをやるためには起業するしかなかったんですよね。まあ、起業したいのであれば、お金も時間もかかり、リスクがとても大きい宇宙産業をわざわざ選んで起業しないですよね(笑)。
でも、今の仕事は楽しいです。そう思うことができている背景として、この技術(編集部注:小型人工衛星)を何とか世の中に広めていきたいというパッションがあるからなのではないかと思います。
ーーーなるほど、技術への情熱が原動力になっていらっしゃるんですね。
(C)そうですね。大変なことや苦しい時期を乗り越えていける気力は「新しい価値を作り上げているんだ」という気概があったからです。もちろん、まだまだやらないといけないことも多いと思っていますが。
ーーー中村さんの「世の中に新しい価値をこの技術で届けたいんだ!」という想いが伝わってきました。ありがとうございました。
③インターン生の「ホンネ」
ーーーいよいよ、この企画のメインでもある「インターンのホンネ」のパートです。お二人には、なるべく率直なお気持ちを話して頂ければと思います。まずは仲間さんにお聞きしたいことがあります。
(I)はい!
ーーー仲間さんは学部生の時に様々なインターンを経験されていたかと思いますが、他のインターンと比べ、アクセルスペースさんはどんな部分に違いを感じますか?
(I)そうですね。アクセルスペースはインターナショナルであると同時にアットホームなんですよね。やっぱりそこはベンチャーの良さを感じます。以前のインターンは大規模な国際機関や政府機関で行っていたため、アクセルスペースでは社内でポジションに関係なく色々な人と話せる環境がある点に新鮮さを感じました。
ーーーでは中村さんと話す機会も多いんですか?
(I)そうですね。オフィスの机がフリースペースになっているので、中村さんが隣に座ることもあり、すごく緊張します(笑)。 さらに、学生インターンの裁量がかなり大きいため、他では味わえないプレッシャーを感じながらやりがいのある仕事に取り組むことが出来ます。大きな組織であればあるほど、インターンの仕事は雑務が多くなる印象があります。
ーーーでは、あんまり「ここは直して欲しい!」みたいなところはないんですか?
(I)これ、ホンネで話してるんですけどあまりないんですよ(笑)。職場環境については全く文句なしですし、調査業務も難しくはありましたが、本当に楽しかったので。
ーーーそれは最高ですね!続いて、中村さんにお伺いします。仲間さんにお聞きしたこととは逆になりますが、アクセルスペースさんの学生インターンとして、どのような特徴がある学生を歓迎しているんでしょうか。
(C)もちろんエンジニアのインターンには即戦力として業務を任せることが多いので、メンターによるサポートも用意しているとはいえ、プログラミングなどのスキルを重要視します。ただ、一番重要なのは、チームで1つのものを作り上げることに前向きになれるかという点ですね。アクセルスペースでは、学生インターンも実際にビジネスとして展開しているプロジェクトに関わり、その業務内容がプロダクトに反映されることもあります。
例えばコンサルは各個人がどれだけ頑張れるかが重要ですが、人工衛星のプロジェクトは違います。チームのみんなで分業して、力を合わせて1つのものを作り上げるわけです。なので、今自分がやっていることがプロジェクト全体にどのように役立つのかを理解しようとする姿勢が大切になってくると思います。
ーーーありがとうございます。アクセルスペースさんならではの視点ですね。さて、仲間さんから中村さんに、普段なかなか聞けないけど聞いてみたいというような質問はありますか?
(I)難しいお題ですね(笑)。でも一点お聞きしたいことがあります。
現状、宇宙ベンチャーではエンジニアがメインで活躍していますが、文系出身の宇宙政策・宇宙法に関わる担当者を中村さんご自身はどの程度重要視されていますか?
(C)そうですね。ともすれば宇宙産業は技術が中心になりがちです。しかし、技術だけではビジネスにならないんですよね。モノだけ作ってもダメで、保険などの契約・政府からの許認可・周波数の国際的調整など、あらゆる調整や準備を行わないとビジネスができないわけです。
なので、法律も含めたビジネスの要素は今後どんどん強まっていくと思いますし、法律家をはじめとした文系出身者が今後どんどん宇宙業界で活躍する機会が広がると思いますよ。実際、アクセルスペースはCFO(※編集部注:Chief Financial Officer)・CPO(※編集部注:Chief Product Officer)を筆頭に文系出身の社員も多いです。
ーーーお二人とも貴重なお話をありがとうございました。
④それぞれの将来の展望を教えてください!
ーーーそれではお二方の今後のご展望、どんなことにチャレンジしたいか、どんなことを達成したいかについて教えてください!
(C)「AxcelGlobe」が昨年ようやく本格的なビジネスのスタートラインに立ちました。世界中に営業拠点を置いて受注も順調に増えているので、これを足がかりにしてもっと事業を拡大していきたいです。また、「AxcelLiner」についても、来年をめどにグローバル展開を始めたいですね。中長期的な展開ということで言えばやはり、自分たちの技術を新たなインフラにしたいという気持ちが強いです。
ーーーインフラに…というと具体的にはどういったことを指すのでしょうか。
(C)アクセルスペースのビジョン「Space within your reach~宇宙を普通の場所に~」(詳細はこちら)が示す通り、宇宙が特別な場所ではなくて、宇宙にあるデータなどが直接暮らしの中に入り込んでくる社会を実現したいです。ここ数年で宇宙産業を取り巻く状況はさらに大きく変わると思います。その過程でアクセルスペースが重要な役割を果たせるように、スピード感をもって技術開発や戦略設計をしていきたいですね。
ーーー仲間さんはいかがでしょうか。
(I)持続可能な宇宙開発(※編集部注:例えば宇宙ゴミに関する問題など)に関して、国際舞台でのルールメイキングに貢献したいと思っています。今年からパリ政治学院へ留学していますし、来年夏にはジョージワシントン大学での研究活動や、同じくワシントンDCにある宇宙関係のシンクタンクでのインターンシップも計画しています。大学院修了後には、現在国連で取り組まれている「宇宙の脅威に対する議論」(Open-ended working group on reducing space threats)の一員になりたいです。そこで、先進国、発展途上国問わず、世界各国の宇宙活動における責任ある行動規則を形成していくことが目標です!
⑤学生へのメッセージ
ーーー最後に、現役の東大生に向けてメッセージをお願いしたいです!
(C)私たちの「宇宙を普通の場所に」という夢を実現していくために、大学生の皆さんもアクセルスペースのインターンや社員に応募してみて欲しいなと思います。また、私が学生の頃は、スタートアップでインターンをするチャンスはありませんでした。スタートアップでのインターンは社会を垣間見る大きなチャンスですし、自分が進むべき進路を考えるきっかけにもなると思うので、ぜひ経験してみて欲しいなと思います。
(I)スタートアップだからこそさせて頂ける仕事はとても多く、どれも貴重な経験となります。。特に「自分の実力を試してみたい」という人には向いてると思います。また、アカデミアと実務との違いを肌で感じることができ「世界が広がった」という感覚があります。刻一刻と変化する「宇宙ビジネス」という大きな舞台を経験する機会は学生には少ないと思うので、ぜひ挑戦してみてください。ちなみに東京大学公共政策大学院は、日本で唯一(※編集部注:2022年現在)、宇宙政策を勉強することができます。もし興味があれば大歓迎です。
ーーーお二人とも今日は本当にありがとうございました。
⑥おわりに
ここまで記事を読んで頂き、ありがとうございました。アクセルスペースさん、またはこうした東大関連スタートアップでインターンをしてみたいと思ったそこのあなた!
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