「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、文科一類 から教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コースに進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:S・Fさん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース(詳細:こちら)
2. はじめに
私は小さな町に生まれ、のほほんと小学校・中学校生活を送っていました。東大を志ざしたのは中1の頃だったと思います。田舎の公立中学校で「無双」していた私は、「一番になる」ことに異常に拘っていました。
そんな私にとって、「国内最難関」の東京大学、とりわけ「国内文系最難関」の文一、そして法学部を卒業してキャリア官僚になる、このようなキャリアプランはまさに「一番」の人生だと思っていました。そして、「一番への憧れ」から6年後の春、私は満を持して東京大学文科一類に入学しました。
この体験記は、拗れた価値観を持って東大に入学した私が、進振りを通して少し大人になっていくお話です。ご一読いただけますと嬉しいです。
3. 1Sー政治学と心理学の面白さに気づく
東大に合格するという6年越しの夢が叶った私は、燃え尽き症候群に陥ってしまいました。同時に、みんながみんな学問に対して真摯に向き合っている訳でもないことにもショックを受けました。「なんか思ってたのと違う。」悶々とした思いで1Sセメスターは過ごすこととなりました。
ただ、そのような中でも一定の収穫がありました。東大に入学する前は当たり前のように法学部で法律を勉強するんだろうなと思っていましたが、実際に私が心惹かれたものは政治学と心理学でした。
政治学は社会科学の政治Ⅰの授業を履修していました。「権力」「権威」「自由」など、人間社会の中に遍在する概念が、多様な学者の多様な議論を通して、言語化されていく面白さ、こういったものを政治1の授業では実感しました。
心理学は人文科学の心理Ⅰの授業を履修していました。人間社会の中に遍在する概念の言語化の面白さを政治学に見出したように、心理学に関しては、人間の脳内における情報処理の言語化の面白さを実感しました。
先ほどから繰り返し「言語化」という言葉を使っていますが、私の特性を語る上で外せないのが「言語化」です。私は何かモヤモヤしたことを言語化しないと気が済まない性格です。進振り、そして現在の学科での生活を振り返ると、「言語化」というものが私にとって重要な位置を占めているように思えます。
4. 1Aー好きな授業を、好きなだけ
1Aセメスターは、私の進振り先を決める上で決定的に重要な役割を果たしました。幸いなことに、1Sセメスターより履修の自由度が大幅に高まった1Aは、政治学と心理学に関する授業を中心に履修しました。政治学系の授業に関しては、歴史と文化、国際関係史、国際関係論、政治経済学を履修し、心理学系の授業に関しては、認知脳科学と社会行動論を履修しました。
この中でも、国際関係論、政治経済学、社会行動論は特に進振り先を決める上でのターニングポイントになりました。
まずは国際関係論です。近年の国際政治学では「ism」だけで国際政治事象を捉えることに懐疑的な声もありますが、当時の私は「リアリズムにせよリベラリズムにせよ、単一の理論によって、国際情勢の分析がこれほど議論しやすくなるのか。すご〜。」と感動しました。
次に政治経済学です。この授業では、ヘーゲル、マルクスをはじめ、歴史観について学んでいく授業でした。この授業も、歴史という通時的な世界に対して、意味づけを行っていく、言語化を行っていく、こう言ったことに強く関心を抱いたのを覚えています。
最後に社会行動論です。個人的に、社会行動論の面白さは、人間の意思決定がどのような認知プロセスを経て行われているのかについて学ぶことができることだと考えています。意思決定というごくごく日常的な行為を紐解いていくことは快感でしたね。
ここまで私の1Aまでの過程を振り返ってみましたが、私は進振り先を決める上で、結構風変わりなことをしました。それは、UT-BASEの学部・学科紹介を片っ端から全部見るということです。恐らく制度的に進学可能なところは一通り見尽くしました。
この「学部・学科紹介ローラー作戦」は結構オススメです。意外なほどに我々は学部・学科についてよく知っていません。「こんな学科あったんだ!!」となることも多いので、暇な時に読み漁ることをオススメします。その中で、特に惹かれたのが国関でした。幸いなことに1Aで満足のいく成績を収めることができ、「国関も狙えるんじゃね!?」と考えるようになりました。ただ、私も大人になりました。もちろん国関のカリキュラムには魅力を感じている。だけど、総社が底点が高いから、進振り競争で勝った証になるから、一番だから、国関に惹かれているという事実も否定しがたい。
2Sは、「一番への憧れ」と向き合う時間となりました。
5. 進振り先の決定
「一番だから」以外の理由で国関に行きたい理由を見つけたい、そう思いながら2Sは過ごしていました。これは他の方とは違う感じもしますが、僕はまず国関への漠然とした進学希望があり、その後に理由を後付けしていきました。一般的な進振り先の決定は、自分のやりたいことを見つけて、そこから学科を決めていくことになりますが、逆にある学部学科への漠然とした憧れから出発して、そこからなぜ行きたいのかの理由を詰めていくのも「あり」なのではないかと思います。
2Sは必修の授業も少なかったので、頻繁に駒場図書館に通って本を読んでいました。2階の新書のエリアや4階の専門書のエリアはよく訪れていました。2階の新書のエリアはその学問分野の入門書的な本が大量に並んでいます。「この分野興味があるんだけど専門書とか分厚い本は読みたくないなあ。」という場合は、まずは新書から入ることをオススメします。特に高坂正堯の『国際政治』や、入江昭の『日本の外交』は個人的にめちゃくちゃ好きな本で、「やっぱり国際政治が好きなんだなあ。」と思うようになりました。
4階の専門書のエリアも、僕なりの過ごし方があります。このエリアは、ただ本のタイトルを眺めているだけでも勉強になります。僕は暇な時にこのエリアをぷらぷらしていたのですが、学問分野の繋がりであったり、国際政治と一口に言っても、どのようなジャンルをカバーしているのかだったり、学問の全体図のようなものが視覚的に理解することができるかなと思います。
その中で、国際関係論のアプローチの多様さに惹かれたのを覚えています。歴史的に分析をしたり、ゲーム理論を用いて分析をしたり、思想的に分析をしたり…。僕が大学で学びたいのは、社会現象を色々なアプローチを使って分析をすることができるようになることなのではないかと考えるようになりました。国関は「ある程度軸を持っていないと何も軸を持たないまま卒業することになる。」と言われます。この軸というのは興味分野の軸としてばかり捉えていました。しかし、アプローチの仕方という軸で国関に進学してもいいと思うんですよね。僕は、とにかく様々なアプローチを学んで、ある社会現象を多角的に分析できる視座を身につけたい、そう思うようになりました。
とは言え、「とにかく様々なアプローチを学んで、ある社会現象を多角的に分析できる視座を身につけたい。」というのは、別に国関じゃなくても良さそうな気はするんですよね。法学部でも、経済学部でも、歴史的な分析もするし、ゲーム理論や統計を用いて分析もするし、思想的に分析もしますよね。だから、客観的に見ると僕の進振り先の決定は「爪が甘い」ものであったかもしれません。ただ、「一番」以外の理由で国関に行きたい積極的な理由が見つかったので、個人的には満足しています。また、あれだけ心理学にも関心があったのに、割と早い段階から選択肢から除外してしまいました。これもツッコミどころは多くあると思うのですが、一口に言うと、「国関以上に惹かれなかったから。」というのが正直なところです。社会現象と自分の心の現象、どちらの分析能力、言語化能力を高めたいかを率直に考えた結果、社会現象の方に天秤が傾いた。そんな具合です。ただ、国関でも安全保障政策上の意思決定についてであったり、アイデンティティが国際政治上に及ぼす影響であったり、部分的ではありますが、心理学(特に社会心理学的)と重なることは学ぶことができるのは補足させて下さい。
6. 進振り先にてー洗礼の2A
ここからは国関での日々の生活について綴っていこうと思います。ハードアカデミズムの筆頭というイメージがある国関でしたが、想像の10倍ハードでした。英語が苦手な僕にとって、特に最初の2週間くらいは「来るところ間違えたかも。」と思う程でした。とは言え、流石に2ヶ月半も経てば人間も変わるものですね。英語論文を読むスピードも速くなってきました。気合いさえあれば英弱でも国関で全然やっていけると思います。
国関同期の外園くんが書いた進振り体験記にて、国関に向いている人について、「国際政治に関心がある人は国関、それ以外だったら法学部第三類。」という極めて明快なアドバイスを示してくれました。そこで、僕も国関に向いている人についてのアドバイスを贈って締めたいと思います。外園くんが学問分野面でのアドバイスを贈っていたので、僕は他の視点でアドバイスを贈ろうと思います。国関がおすすめな人は、「1:ゼミ形式で学ぶのが好きな人。2:メタ的に知性を強化させたい人。3:自分の知性に自信がある人。」、この3つだと考えています。
一つ目、ゼミ形式で学ぶのが好きな人。国関の授業の多くがゼミのような少人数の授業です。そのため、就活などで「私は4つのゼミに参加し…」などという、他の学部ではありえない経験をすることができます笑。履修者が少ない分、一人あたりの授業への積極的な参加は前提ですし、責任感も重いため、毎回充実した時間を過ごすことができている実感はあります。
二つ目、メタ的に知性を強化させたい人。国関で学び始めて2ヶ月半ほど経ちますが、知識を学んでいるというより、考え方そのものを学んでいる実感が強いです。これは入る前は想像できなかったことでした。国際政治上の事象を分析する上で必要な視点、ものの見方、あるいは議論の組み立て方、論文の読み方、理論の作り方、これらの「メタ的な」能力が鍛えられているように感じます。根本的に頭が良くなるトレーニングを積むことができるのが国関の魅力だと思います。
三つ目、自分の知性に自信がある人。これはかつての僕ですね。やはり国関には、「凄すぎてウケる。」という先生方、先輩方、同期が数多くいます。東大に入学後も大海を知ることができずに燻っているカエルの皆さんこそ、国関という大海で学びを深めるのがオススメです。
結びに、僕がそうであったように、後々振り返ってみて「雑だったな〜」と感じるかもしれませんが、自分が考え抜いた上で出した結論には間違いはないと思います。この記事が皆さんの進振り先の決定に少しでも役に立てば幸いです。あと、これだけはどうしても最後に伝えたかったのですが、今年(2022年度)は第一段階での総社希望者が少なかったので、来年は総社に第一段階からたくさん希望が来てくれることを願っています!!
UT-BASEメンバーより
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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