「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、理科一類 から 農学部 獣医学課程 獣医学専修 に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:ばーの さん
◯出身科類:理科一類
◯進学先:農学部 獣医学課程 獣医学専修(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
私の通っていた高校では、入学してすぐの頃からずっと大学受験と真剣に向き合うような空気感があり、大学での学問について情報を得る機会には恵まれていました。特に大きな影響を受けたのは、学校からの案内で参加した「夢ナビ」というイベントでした。夢ナビは、様々な大学の教授が学問の紹介をしてくれる、という非常に大きなイベントで、ここで数々の学問分野と出会いました。その中で、材料力学に興味を持ち、もっと詳しく学んでみたい、工学部系の道に進もう、と考えるようになりました。
受験する大学を決めるとき、東京大学と、1年生から材料工学を学べる他の大学と、どちらにするかとても悩みました。進振りの仕組みについては身近に東京大学に通う学生がいたためある程度知っており、いろいろな学部学科の底点なども確認していました。材料工学を学ぶならマテリアル工学科に進むだろう、ということでマテリアル工学科についても調べ、そんなに入るのが大変な学科ではなさそうだ、ということを知っていたため、進振りの大変さはそこまで気になりませんでした。ただの高校生の興味に人生を賭ける自信がなかった私は、入学時点で専門が決まっている他の大学ではなく東京大学を選び、その中でも自分は工学部系を軸としていたので理科一類を受けることにしました。
3. 可能性が高かった未来
入学後、しばらくはマテリアル工学科に進むことを第一希望としていましたが、せっかく進学選択という制度があるのだから他の選択肢も検討してみよう、とは思っていました。1年Aセメスターで取る授業を考えるときに、「どうせなら後期で活かせそうな科目も取りたいな」という思いがあり、ある程度候補を絞るために進振り先を考え始めたのが夏休みです。
進学先を考えるにあたって、後期教養学部・理学部・工学部・薬学部・農学部の5つの学部についてホームページを眺めました。進振りについて考え始めた最初の頃は、全体的には見つつも、理学部・工学部しか真剣には考えていませんでした。というのも、情けない話ではありますが、周りから私は理工系に進むものだと思われていたから、というのが大きな理由です。周りが思っていることと異なることをするには何かとエネルギーが必要になるため、面倒くさいな、と思ってしまう自分がいました。
理学部・工学部の中で、研究内容や時間割を見て、「心が踊るかどうか」を基準に少しずつ絞り込みました。クラスの人など周りの影響もあり、理学部の地球惑星物理学科や天文学科、工学部の航空宇宙工学科、応用化学科、建築学科などを考え、そしてもちろんマテリアル工学科も選択肢としては残っていました。ある程度絞り込んだ後は、幸いにも興味のある学科に進んでいる先輩方が部活や上クラにいたので、直接学科の様子などのお話を聞き、参考にしていました。
もし私が進振りについて十分に考える時間を取らずに、このまま進学先を決めていたら、おそらく工学部に進学していたでしょう。
4. 思考の変化
ここまで工学部に進みそうな雰囲気を出しておきながら、実際に進学したのは「獣医学専修」。何か大きな1つのきっかけがあったのではなく、1年間をかけて、思考が少しずつ変わった、というのが近いと思います。1年生の間、たくさんの人と関わって、いろいろな考え方にふれて、私は気づいてしまいました。「私って、別に勉強が好きなわけじゃないな」と。自分の周りには、試験があるからとか、単位をとらなければならないからとかではなく、ただその学問について知識を得ることや新しい発見をすることが好きで勉強をしている人がたくさんいました。私はただ単位をとれればいいや、くらいの気持ちで「試験のための勉強」をしている人だったので、勉強が好きな人たちと一緒に学ぶのはよほど好きなことでないと厳しいのではないか、と思うようになりました。材料工学に興味があるとはいえ、漠然としたものであったし、理科一類の必修の授業で心惹かれる科目がなかった時点で工学部では好きなものに出会えることはないだろうな、と感じていました。
東大で1年間過ごした後の春休み、進振りについて考えたことは「何を学びたいか」ではなく「何が好きか」でした。自分が好きなものって何だろう、というのをひたすらに考え続け、「動物」しかないな、という結論に至りました。
5. 進学先の決定
動物について学べる場所は、後期教養学部の統合自然科学科や、理学部生物学科、農学部のほとんどの専修、などたくさんありますが、「行きたい」と感じたのは獣医学専修(獣医)と水圏生物科学(水圏)の二つでした。
この二つが心に響いたのは、私の今までの動物との関わり方にあると思います。私は、物心ついたときから、ずっと家で何かしらの動物を飼い続けています。犬、猫、鳥、亀、金魚、イグアナ、なんでもござれという感じでした。動物に囲まれて育ったらそれ相応の愛も芽生えるというものです。加えて、中学時代には、横浜にある八景島シーパラダイスに通い詰め、大学入学後も10館以上の水族館を訪れる、という海の動物大好き人間でもあります。このような背景があり、獣医と水圏の2つで春休みから2S1ターム終わりごろまでずっと迷っていました。
獣医学専修に気持ちが傾いたのは第1回の希望調査のあたり(6月半ば頃)だったと思います。最後まで、はっきりと気持ちが固まることはなく、ことあるごとに「水圏もいいよな、でも獣医にしよう」を繰り返しているような形でした。獣医への進学に傾いていた理由としては、
①海の動物だけでなく、動物全般が好きであること
②将来自分がペットを飼ったときに自分である程度までは診ることができるようになること
③資格が取れること
④時間割的に部活に参加しやすいこと
などがあります。ただ、高校時代に生物を選択していたわけでもなく、大学に入ってからも理科一類のカリキュラムのもとで生命科学はほとんど触れず、という生物の知識がほぼ0の状態だった私が、獣医学という生物そのもののような学科に進んでついていけるものか、かなり不安ではありました。最終的には、動物への愛だけは誰にも負けない自信があったため、「愛さえあれば乗り越えられる!」とどこぞの物語のセリフのような想いを持って、獣医学専修に進学を決めました。
6. 獣医学専修での生活
2年生のAセメスターでは、座学のみで、獣医学生になったぞ!という感じはあまりありません。ですが、前期教養の時よりも、授業に集中できていること、勉強がそれほどしんどくないことなどから、「興味があることの勉強ができているのだろうな」と思います。農学部の図書館で獣医学の棚を眺めたとき、どの本を見てもワクワクが止まらず、この学科に来てよかったな、と思いました。進学前に不安に思っていた生物の知識については、学科の人に聞いたり、生物に強い友人に聞いたり、Google先生に聞いたり、と周りを頼りに頼ってなんとかついていけています。この学科を選んだことを後悔するとしたら、3年生から始まる実習(特に解剖の授業)で精神的苦痛を感じてしまうことくらいだと思うので、この選択が本当によかったのかわかるのはきっと1年後になるのでしょう。
学生や教授の雰囲気は、学科に入る前のイメージ通りでした。私の持論として、「動物が好きな人は心が広い」というものがあります。(注:動物が好きじゃなければ心が狭い、という意図は一切ありません…) というのも、動物は予想もつかないような動きをしたり、理不尽なことをしたりするため、それを受け入れるにはある程度の寛容さがないと難しいと思うのです。そのため、コミュニティが自分に合うかの心配は入る前からほとんどありませんでした。もちろん、学科の人全員が動物が好きなわけではないですが、コミュニティの雰囲気としては、ほんわかしていて過ごしやすいです。
7. アドバイス
身近な人から直接話を聞いてみる、というのはかなりおすすめです。ホームページは、学部や学科によってかなり情報量に差があり、欲しい情報がないこともたくさんあります。実際の生活の様子を聞くと、自分がそこに入ったときどんな振る舞いをするのかな、というのが想像しやすくなります。直接の知り合いでなくても、友達の先輩や、SNS上でなど、少し遠い関係でも喜んで話してくれる人は多いと思うので、実際にその学科に進んだ人から話を聞く、というのはとても参考になると思います。名前の響きだけで興味を持ったとか、点数的に行けそうだからとか、友達の志望だからとか、そういった小さな理由でも、たいして強い興味がなくても、その学科で生活している人の話を聞いてみたら、「アリ」な選択肢に変わるかもしれません。
8. メッセージ
進振りに関しては、「迷い得」だと思います。正直なところ、どこの学科に進もうが、将来が完全に決まる、ということはなかなかありません。(それこそ獣医のように資格が必要な職業には獣医学以外に進学したらなれない、のように多少の選択肢の狭まりはありますが…。) ですが、少なくとも2年は費やすものですから、面倒くさがらずに、じっくり時間をかけて悩んで、自分の中で納得のいく選択をしてほしいと思います。
もし自分が春休みに進振りについて真剣に考えていなければ、工学部に進学し、現状をほどほどに楽しみつつも単位をとるためだけの勉強を続けていたのだろうな、と思います。私にとっては、工学部に進学していた世界線よりも、今の獣医学に進学した世界線のほうがより楽しめている、という確信があります。悩めば悩むほど良い選択ができるとは思いませんが、悩まないで後悔するよりは悩みすぎて後悔したほうが多少自分で納得ができる気がしています。
私の場合は「好きなこと」を軸にして進学選択をしましたが、人によって自分に合った選び方、というのは異なると思います。これを読んでくださった皆さんが、もともと持っていた興味+入学してからの1年強の時間で得たものを活かして、自分にとってその時点での最良であろう選択ができることを願っています。
UT-BASEメンバーより
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