「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、理科二類 から教育学部 教育実践政策学コース に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:R.S. さん
◯出身科類:理科二類
◯進学先:教育学部 教育実践・政策学コース(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
Q. なぜ理科二類を受験されたのでしょうか?
高校のときは物理の勉強が好きで、理系に行こうと思っていました。東大を受験しようかなと思っていて、3つある科類の中で、医学をやりたいとは思わなかったので、必然的に残ったのは理1と理2でした。
その中でも、理2だと理3と合同のクラスになると知っていたので、理3の面白い人と同じクラスになって知り合ってみたいと思い、理2を選びました。
Q. なるほど…!教育にはもともとご関心があったのでしょうか?
もともと興味の幅は広い方でした。物理だけ熱心に頑張っていたというよりは、高校では様々な分野に興味を持っていました。
その一つだったのが、教育です。今振り返ると、複数ある興味の中でも、その頃から教育は突出していたかなと思います。
中学・高校と教育を受ける中で、学校教育について気になる部分がありました。
高校の同級生から見れば、自分は色々なことに意欲を持って、楽しみながら勉強していました。しかし、同級生には勉強に対して意欲を持てない人もいて、これはどうしてなのだろうと思っていました。
そういった子たちも、勉強や学校以外のところでは、例えばゲームをするときなどはものすごく努力するので、「みんな意欲のポテンシャルは持っているのではないか」と思っていました。そして、そのポテンシャルがあるにも関わらず勉強となると差が出てくるのはなぜだろう、というところから教育の制度に興味を持つようになりました。
「もしも制度に原因があるのならば、その原因を知りたい」
「そこを変えれば教育に向かう人々の意欲は変わるのではないか」
と考え、その変化を生じさせるところまでやってみたいと思っていました。
3. ターニングポイント
Q. 大学に入ってから今まで、興味の範囲はどのくらい変化しましたか?
理系は必修で埋まるコマ数が多いですが、その合間に色々な分野の授業を履修して、関心を広く育てていきました。教養課程を満喫したと思います。
その中で、前述のように興味のあった教育についての授業も複数受けました。佐々木英和先生の「現代教育論」に受けた影響は大きかったのではないかと思います。あとは、ターニングポイントになったかどうかは分かりませんが、教育イノベーションプロジェクトという授業や、教育学部卒の先生が企画している授業を受けていました。
大槻先生の「適応行動論」の授業や、大久保先生の「人間行動基礎論」、北村先生の「社会行動論」の授業も面白かったですね。いずれの授業でも、人がどう考えて、制度から影響を受けながら行動したり成長したりしているのか、というところに関心があるのだと分かりました。人間に興味があるのかもしれないです。
Q. 理系の授業と、そういった教育や社会科学の授業と、どちらをより面白く感じられていたのでしょうか?
理系の必修科目については、自分の意思で受けたわけではないという理由から何となくマイナスの感情が伴っていたかもしれないです。
でも、興味のあるものとか熱中するものって一過性があるから、進学先を決めるときに理系・文系のどちらに転んでも良いように、理系の必修科目もきちんと勉強していました。
Q. 授業以外で進振りに影響を与えた出来事や経験はありますか?
情報学環教育部(※1)や、自分が住んでいる学生寮での経験は大きかったと思います。いずれも上級生とたくさん関われるような場で、進学先を決める際にどの学部に進めば自分がやりたいことができるかについて、先輩方から情報収集をしていました。
教育学部を含め、多種多様な学部・学科の先輩たちがいましたね。
※1:情報学環教育部とは、情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人々のために、東京大学が開講する2年間の教育プログラム。
毎年の入学試験で1学年約30名の教育部研究生が選抜される。大学2年生以上であれば、東京大学の学生だけではなく他大学の学生、社会人も含めて受験をすることができる。
4. 悩み・葛藤・苦悩
Q. 進学先を決めるまでの過程で、迷ったり悩んだりしたことはありましたか。
教育系の学部に行くのか、それとも工学部に行くのか、直前まで確定しませんでした。
この2つで迷うに当たって、「教育学部に行くとできないこと」と「工学部に行くとできないこと」を天秤にかけていました。
教育学部に行くと、理系からは離れてしまうことになります。EduTech(※2)など、工学系のアプローチから教育課題を解決することは難しくなってくるだろうな、と。工学の体系的な知識は自分で一から勉強しないといけなくなるということですね。
※2 EduTechとは、Education x Technologyの造語で、技術によって教育分野にもたらされる変化を指す。格差や効率化といった、教育現場での課題解決に向けて果たす役割が注目されている。
一方、工学部に行くと、必修が多いことは確実です。自分が興味を持っている教育はおろか、他の分野の授業を取ることそのものが難しくなってくる、ということが、寮の先輩の話などを聞いて分かっていました。
Q. この2つでの悩みにどう決着をつけられたのでしょうか?
教育学部に行くとできなくなることについては、自分で勉強すればどうにかなるかもしれないけれど、工学部に行って必修に縛られることについては自分ではどうにもできないな、と思いました。
それで、工学系の勉強は自分で何とかしよう!と思って教育学部を選びました。
自分にとっては、何かに縛られてフットワークが重くなってしまうことが一番嫌だったのだと思います。
Q. なるほど。教育学部の中での学科やコースはどのように選ばれたのでしょうか?
教育学部の中には、基礎教育学コース、教育実践・政策学コース、教育心理学コース、比較教育社会学コース、身体教育学コース、の5つのコースがあります。
それらを比較した時に、身体はやりたいこととは違うし、心理学というよりはもう少しマクロな視点で教育を見たかったのでそれも違うと考え、身体教育学コースと教育心理学コースは違うな、と思いました。
最終的には、比較教育社会学コース(以下、「比教社」)と教育実践・政策学コース(以下、「教育実践」)の間で迷いました。
比教社では、データとかを用いた分析をしっかりやって、そこから問題提起をするところまでをやるのだという印象がありました。
一方で、実際にその問題提起を踏まえて制度作りをするのは教育実践だなと。自分は後者に興味があったので、教育実践を選びました。
また、教育実践には自分が興味のある研究をしている先生が多かったことも、理由の一つになりました。
5. アドバイス
Q. 進学先を決めるにあたって、情報収集はどのような媒体・手段で行っていましたか。
学部・学科の公式サイトを見たり、それだけでわからないことは実際にその学部・学科の先生に会って話を聞いたりしていました。
自分は、UTASのお知らせの掲示板を、毎日欠かさずチェックしていました。あれは多くの人は自分では見に行かないのではないかと思うのですが、東大は他の大学ではないような機会を提供してくれていることが多いので、確認して損はないと思います。
ものすごく良い情報や機会がゴロゴロ転がっています。
ちょっとの手間だけど、面白いことを見つけるきっかけになる可能性は高いと思います。確認している人が少なそうなのはもったいないなと。
Q. 先生にお話しを聞きに行かれたのは、ご自身でアポをとったのでしょうか?
もちろん、自分でメールしてアポを取って、ということもありました。対面の授業が始まってからは、好きな授業の先生には授業後に相談していました。
また、学部・学科主催のイベントやセミナーに顔を出し、先生や先輩の雰囲気を見る、ということもしていました。
6. 現在の学部・学科での生活/満足感
Q. 実際に教育学部に進学されて、授業や学科の雰囲気はどうですか?
2Aという今の時期は、選択必修はありますが3年末〜4年末までに取れば良いので焦る必要がなく、前期教養課程の延長にいる感じがしています。まだ教育実践の勉強をしている、という実感はないですね。
Q. 教育系の授業をメインに取られているのですか?
教育系の授業も、それ以外の分野の授業も取っています。
この夏から教職課程を始めたのですが、どちらかというとそちらの授業が忙しいですね。
教職課程は、将来的に教員になりたいから、というよりは「教職課程を自分が体験することを通じて、学校教育への理解を教師の目線から深めたい」という理由から履修しています。かつ、教職課程というものを内部の視点からも見られるようになりたいな、と。
Q. 俗に言うと「文転」されたわけですが、そのあたりについてイメージと違ったことなどはありましたか?
望んでいた通り、必修に縛られることなく余裕を持って好きな授業を取ることができるのが楽しいです。1Aで取り逃した授業などを受けつつ、焦らずに前期教養課程をもう少し楽しめているという感じです。
ただ、理系は必修が多いので同期と出会ったり交流したりする機会が多いというのは羨ましいですね。前期教養課程では、必修が多いからこそクラスの人と授業でたくさん会うので和気藹々とした雰囲気でした。
でも、今は必修が少ないので同じ学部・コースの人と会う機会が前期教養課程に比べて少なく、少し寂しいです。
7. メッセージ
Q. 最後に、これから進振りを迎える人に伝えたいメッセージがあれば、お願いします。
進振りを、「良く」活かしましょう!
進振りの良さは、その自由さにあると思います。もちろん点数による制限はありますが、文転することも、理転することも可能です。
しかし、それと表裏一体なのは、自由だからこそ自分に責任が伴うということです。
「こんなことできそう!」というイメージで学部学科を選んだけれど「自分が本当にやりたいことができるのは実は隣の学科だった…」とかいうことになることもあり得ます。
とにかく情報収集が大切だと思います。それが足りず、判断を間違えて後悔するのは本当にもったいないです。
徹底的に情報収集と準備をして、イメージと実際の様子になるべく齟齬がない状態で進学することがベストなのではないかと思います!
UT-BASEメンバーより
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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