こんにちは。理科1類2年のfinalと申します。
私は好きなことをとことん出来る道を選んで、入試も進振りも乗り越えてきました。
振り返ってみると、進振り先は理学部情報科学科(以下では略して「理情」とします)に行きたいと、高2の頃にもう決めていたと思います。入学後、確かに他の学科を考えたりもしましたが、それは進振り先を迷っていたというより「理情に行くんだ」という覚悟を得たかったのだと、今となっては感じます。
ここでは、どうして高2の段階で行きたい学科が決まったかや、それから内定するまでどのような努力をしたか、そして「やりたいこと」で学科を選ぶ上で迷いが無かったか、などについて書こうと思います。好きなこと・やりたいことがあるけど、本当にそこに行けるか心配だったり、覚悟がまだ持てていない人にとって、届けられることがあればと思って書こうと思います。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:final さん
◯出身科類:理科一類
◯進学先:理学部情報科学科(詳細:こちら)
2. どうして、高2の段階で行きたい学科が決まっていたか
小さい頃からコンピューターが好きでした。物心ついた頃には、PowerPointで遊んでいました。アニメーションやハイパーリンクを使ってクイズゲームを作ったりしていました。小4のときVisual Basicというプログラミング言語を書くようになって、そこからは下校したらゲームづくりに没頭する日々を過ごしていました。
高1の頃の数学の先生の授業が本当に面白く、数学についてもっと勉強してみたいと思うようになりました。数学ガールという本に出会い、熱中して読みました。特にその中でも、ゲーデルの不完全性定理の回が好きでした。これは数学基礎論において非常に重要な定理なのですが、数学そのものに関する議論をするために数学を数学の中で定義していく過程にワクワクしました。その後、ゲーデルの論文を読んで、こうやって厳密に数学を構築していくことができるんだ…という風に感動したのを覚えています。
高2の頃、高校の友だちと東大のオープンキャンパスに行って、理学部情報科学科の展示があった部屋に入りました。学科のパンフレットを見たら、本当に興味のある授業ばかり載っていました。大好きだったコンピューターについて、今までよりももっと深く学べるのだとわかりました。しかも、どうやら不完全性定理やその周辺の論理学も詳しく学べるようでした。どちらも興味のあることなのですが、以前はそこまで関係があると思っていなかった実用的なコンピューターと極めて抽象的な不完全性定理のようなものが繋がっているのだと分かって驚きました。これだけ興味と一致しているのだから、ここに行ったらきっと未知の面白いことにもたくさん出会えるだろうと思いました。
3. 周りの人によると、壁は高いらしい
ただただ好きなことを勉強したいという一心で、受験勉強も進振りも乗り切りました。
理学部情報科学科の枠が一番大きいという理由で理科一類を選択し、合格しました。
入ってみると理情は進学に必要な点数が高くて本当に難しいという話をよく聞くようになりました。高校時代からお世話になっていた先輩には理情に行くのを諦めたと言われたし、初ゼミの友だちにも「理情は行ってみたいけど厳しいかなあ」と言われて、「受験を終えても自分のやりたい勉強ができない可能性がある」という進振りのシステムをすごく残念に感じました。
ですが、諦めようとは思いませんでした。もし行けなかったとしても全力を出して行けないならその時はその時で、とりあえず自分の力を出しきってみようと思いました。1Sは単位を制限ギリギリまで取っていて、本当に忙しく、受験期よりも勉強したと思います。中でも「計算の理論」という授業は印象的でした。これは理情の先生が前期課程の学生向けに開講している授業であり、計算量理論やラムダ計算について学べます。この授業は特に前半が、私の2Aまでの授業を振り返っても一番難しいと思えるほどレベルが高く、1Sの5月辺りで受けた時は何を言っているかさっぱり分からず打ちのめされそうになりました。ですが、計算可能性の話やラムダ計算で条件分岐や再帰を構成する話、Curry-Howard同型などの話は本当に面白く、さらに理情に行きたいという気持ちが強くなりました。特にこの授業に関しては、自分が全力を出したら理情の先生にどのくらい評価されるのかも気になったので、提出物に本気で取り組みました。
4. 全力で勉強した1S
1Sはこうして本当にたくさん勉強をしました。結果は良かったです。「計算の理論」も満足のいく点数がもらえました。ありがとうございました。
大学に入ってまで、こうして受験期のような詰め込み型の勉強で1セメスターを過ごしてしまったのは少しもったいない気もしますが、これで成績に余裕が出たため、1A以降は本当に自分のためになるような勉強ができました。思想系にも興味があったので、思弁的実在論をテーマにした星野太先生の現代思想を受講したり、想像力をテーマにした國分功一郎先生の哲学Ⅱを聴講したりしました。
また、必修の線形代数と演習が好きだったので、自分でその延長線で代数学を勉強しました。この時期に学んだことは、今の自分が情報科学の分野でも「どういうことをしていきたいと思うか」「どういうことを面白いと思うか」を形作る基礎になった実感があり、有意義だったと思います。
進振り制度は「その分野が好きな人がその分野に行けないかもしれない」という点で問題もあると思いますが、ある程度は自分の意志がきくシステムだと思います(もちろん、それぞれの人の事情で努力が思うように出来ないということもあると思うし、私は改善点もあると思います)。そして「好きだ」「面白い」という気持ちがあれば、努力のパワーに繋げられると思います。
5.「好きなこと」で選んでしまって良いのだろうか
このように行きたい学科は早くから決まっていたのですが、それでもいざ進学するとなると、覚悟はやはり要るものでした。
私はある程度成績があったので、「理情よりもっと"高い"所にいけるんじゃないの」と言われることがよくありました。"高い"って何だよと本当に思いますが、そう言われてしまうと、こちらとしても全く動じずにいられるというわけではありませんでした。
私は実は生物にも興味があり、iGEMという課外活動で「塩基配列を設計し、生命をプログラミングする」ということを行っていたため、「医進(医学部に進学)したら?」と、友人や、挙句の果てには保健センターの先生にも(雑談ではありますが)言われました。
そういう風に言われると、本当に「好きなこと」で選んでしまって良いのだろうかという迷いが生じてきてしまいました。たしかに、医進したほうが将来は安定して豊かに暮らせるかもしれず、そういうことを思って医学部に行く人もいると思います。医学部は私にとってはあまり面白そうに思えなかったので、さすがに考えませんでしたが、情報系の中でももっとお金に直結するような、実用的なことを学ぶ学科もあり、「生きていく」ことを考えるとそういうのを重視したほうが良いのかなあ、と思わなかったとも言えないです。さらに、「やりたいこと」がずっと将来に渡ってやりたいままでいられるのだろうかという不安も無いわけではありませんでした。
そのような中で「理情に行く」という覚悟は、2年生向けの進学選択の学科ガイダンスで固まりました。再び高2の頃のオープンキャンパスのようなワクワク感を感じたためです。スライドの2枚目に「情報科学研究の目的:生命とは何かを知る」と書かれており、驚きとともにこのことが非常に心に響きました。スライドの本意がどうだったのかは分かりませんが、私は「コンピューターとはなにか」「計算とはなにか」という問いと「生命とはなにか」「人間とはなにか」という問いはそれほど離れていないと考えており、そのような気持ちでiGEMの活動も行っていました。またもや「理情でできること」と自分のこうした考えや興味関心が一致したように思えて、ここしかないと思いました。
6. 内定が決まってから
理情の授業はやはりどれも興味のある内容で本当に面白く、満足できています。特に「形式言語理論」という授業が好きです。オートマトンや形式言語について学ぶのですが、言語とは何か、言語を理解するとはどういうことなのか、コンピューターが機械的にかつ自律的に記号を認識するのとは何が違うのか、ということを考えさせてくれます。どうやら、形式言語理論は特に文脈自由文法などが塩基配列の解析にも使えるらしいということがわかり、ここでも自分の知らなかった、自分の興味の中のつながりに出会うことができました。
「自分の好きなことをとことんできる道に進む」べきか「『生きていく』ことを考えて道を進む」べきかということに対しては、私は覚悟はあっても答えはないまま進振りを終えました。というより、そもそも答えは無いと思いました。その意味で、私は別の基準で道を選んだ人の選択も尊重したいと思います。大事なのは、当人がそのような選択をする覚悟を持つことだと思います。そうすると、自分の選択に後悔はなくなり、結果的に「その道を選んで『正解』だった」と思えるようになっていくはずです。進振りで覚悟を持てるように、色々な学科と比較したり、色々な話を聞きに行ったりすると良いと思います。
私はこれからも、自分が好きなことをできる道を見つけて、そこに進めるように努力していこうと思います。皆さんが自分の人生が豊かになるような道に進むことができるよう、応援しています。
# UT-BASEメンバーより
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