「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:Y.H. さん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:法学部(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
Q. なぜ文科一類を選んだのでしょうか?高校生の時はどのようなことに興味を持っていましたか?
理科が好きではなかったので、まず文系を選びました。文一にしたのは、経済学や文学にあまりピンとこなかったからだと思います。
高校の「公民政治経済」という科目の先生の授業がとても面白く、中でも政治や法律に興味を持つようになりました。その頃は学問分野として、というよりは本を読んでいて面白いと感じたのがこれらのトピックだった、という感じでした。
また、高三の秋に教養学部の国際関係論コース(以下「国関」)の存在を知りました。
当時、「国どうしが国際社会の中でいがみあったり仲良くしたりしているのって面白い」と国際政治に興味を持っていたので、漠然と「国関に行きたいな」と考えていました。先輩の話を聞くと、国関に行くなら文三と比較し文一か文二が有利で、そのうち自分が関心を持っていた法や政治の授業が必修を占める割合が大きいのが文一だということで、文一を受験することに決めました。
3. 現在から入学時を振り返って
Q. 国際関係論コースに興味があったということですが、入学してから行きたい進学先に変化はありましたか?
東大に入って、進振りについて調べていると、興味のあった国関に行くにはかなりの高得点が必要であるということがわかりました。
そこで、進学先の学部については国関に行けるくらいの点を取ってから決めよう、取り敢えず1年生の間は単位を取り切ろう、と考えていました。
しかし、結果的に、点数を取るためにあまり興味のないような分野の楽単(※1)ばかりを取ってしまったことについては、後悔しています。点数を稼ぐことを目的にするよりも、もっと今しかできない勉強をしておけば良かった、と。
(※1:楽単とは、比較的単位を取得するのが楽であると言われる授業を指す。)
2年生になってからは進学先を絞り始め、国関に進学するか、法学部に進学するかでものすごく迷いました。本当にずっと悩んでいました。
Q. どういった理由でその二者で迷われたのでしょうか?
大前提として、自分は司法試験を受けるのに乗り気ではありませんでした。理由としては、法曹というキャリアに進む自分が想像できなかったことと、もう受験はたくさんだという気持ちもありました(笑)
司法試験を受けないとなると、法学部を卒業してもその後何ができるのだろうか?ということが少し見えづらかったです。
一方で、国関のOB・OGの人たちは、外務省に行ったり国連に行ったり、華々しい職業に就いているイメージがありました。また、国関での学びが非常にハードだということもあり、学生はちゃんと勉強するし、教員も熱心なのだろうな、と考えていました。
4. ターニングポイント
Q. 今お伺いしていると、どちらかというと国関の進学に気持ちが傾かれていたのかな?と思うのですが、どうして法学部に進学するに至ったのでしょうか。
まず、文一の必修科目である政治の授業を受けて、「『国際』がつかない政治も面白いな」と思いました。体系的かつ網羅的に政治を学んだことで、政治学という学問自体が勉強しがいのあるものだということに気付きました。特に、内山先生の政治I、伊藤先生の政治Ⅱの授業は、地に足をつけて「政治学ってこういう学問だよ」ということを基礎的なところから最先端の議論に近いところまで網羅的に教えてくださって、大変興味深かったです。政治学の見取り図を示してくれる感じでした。
政治は、人間が作ったものを人間が動かしているという意味で、100%上手くいくシステムなんてないし、人間がやっているからこそ腐敗や失敗があって、そこも面白いな、と思いました。人間が関わっていることが見えるところが好きだったのかもしれません。
一方で、国際関係だけに絞って考えると逆に視野が狭まるのでは、とも思いました。本郷の法学部に比べ、駒場の教養学部に属する国関では、政治を専門としている教員の人数は少ないです。
ここで法学部(特に政治学を学ぶ第3類)も国関と同じくらい魅力的に見え、2年生の夏休みに入るくらいで両者がトントンになりました。
そこから悩みました。全く決め手が見つからないまま毎日悩んでいました。
Q. なるほど。どのようにしてその迷いに踏ん切りをつけられたのでしょうか…?
自分は京論壇というサークルに所属しているのですが、その合宿で、ある先輩に迷っている進学先を理由と共に話したら、
「クジとかで決めちゃって良いんじゃないの?」
と言われました。真剣に迷いまくっていた自分には衝撃の一言でした(笑)
ただ、それにはちゃんと先輩の考えがあって、
「『その学部に進まなくちゃ勉強できない』ということはそんなにない。授業とは違うところでも学びはあるし、むしろ授業で学べることはほんの僅かで、自分が主体的に何を勉強するかの方が大切。迷うことは良いけど、そこに頭を支配されてしまうのはもったいないんじゃないか。」
と言われました。
ということで、クジではないですが、その先輩とじゃんけんをして、先輩が勝ったら法学部、自分が勝ったら国関に進学することにしました(笑)
ジャンケンの結果、見事先輩が勝利を収めました。
あくまで雑談の延長みたいな軽いノリだったし、もちろん従う必要も全くなかったのですが、今思うと、そういった軽いノリだからこそ決め手のなかった自分の選択を動かしてくれた気がします。希望を出さなければならない時期が迫っていたこともあり、取り敢えず、一旦法学部に仮決めしようと思いました。
そして、家に帰ってそれを正当化するために後付けで理由を書き出してみることにしました。
① まず、キャンパス。本郷キャンパスに通えることは、図書館をはじめとした施設の立派さ、周辺の街、さまざまな学部の講義を気軽に聴きに行ける点など、多くの点で駒場キャンパスを凌駕していると思いました(個人の感想です)。個人的には駒場より本郷の方が家から近いのもありました。
② 次に、学びのあり方についてです。国関は本当に勉強がハードであることで有名です。毎週のように大量の課題が課され、しっかりとした予習や授業での議論を通じて学生が成長できるというところは揺るぎないアイデンティティの一つと言えるでしょう。
そうした環境はとても貴重で、魅力的でしたが、一方で、課題に追われるように学ぶことは、自分の本当にやりたい学び方ではないのではないか、とも思いました。
2Sで沢山ゼミを取って、毎回文献の予習や発表の準備に追われるという生活をしてみたのですが、得るものは多かったものの、生活リズムが不安定になるなど、あまり落ち着きがなかったという印象があって、「もう少しどっしり構えて、余裕を持って勉強したい」と考えました。
③ 最後に、自分は法学を食わず嫌いしているのではないか?ということです。
法学がやっていることを、「文章を読んでひたすら解釈すること」だと思っていた節があって、何が面白いんだろうと感じていました。そして、それを国関に行く理由にしていた部分があると思います。法学をやりたくないから国関に行く、というふうに(もちろん、国関に行っても必修で国際法はありますが)。
しかし、政治学を少し学んでみて、政治と法は切っても切れない関係にある、ということがどんどん分かってきました。
「政治を専攻しようとしているのに、それと密接な関係にある法学の知識を体系的に身につけなくて良いのだろうか?」と考えるようになりました。国際政治は法学部でも勉強できるけど、法学は国関ではなかなか勉強できないとも考えました。
このような理由から、軽いノリのジャンケンで決めた法学部という選択肢に、最終的には納得していきました。
しかし、もしじゃんけんで国関に決まっていたら、国関という選択肢を同じように正当化していたのかもしれません。振り返ってみると、進振りって案外そんなものなのではないかな、と思います。
5. 悩み・葛藤・苦悩
Q. 進学先を決めるまでの過程において、悩んだり迷ったりしたことはありましたか。
学部に進学し、卒業した後の先が見えないというのが自分にとって不安でした。
何を勉強するのかはシラバスを見ればわかるけれど、その先で自分が何になれるのか、そこの想像が全くつきませんでした。
だから、対処法として、勉強でいっぱいいっぱいになってしまわず、心身に余裕を持って将来のキャリアを考える時間が取れそうな法学部を選択したというのもあります。
実際に進学し、今は企業の説明会に行ったりしながら卒業後の進路をじっくり考えています。
6. 現在の学部・学科での生活/満足感
Q. 実際に進学されて、学部の授業や雰囲気はどうですか。
良くも悪くも想像通りといった感じです。
法学部は、一方向の大講義が多いためコミュニティの充実度が比較的低く、「砂漠」と呼ばれますが、これは本当にその通りだと思います。自信をもって断言できます(笑)。この点で、少人数授業が中心の国関の仲の良さはやっぱり羨ましいです。
また、国関の友人らを見るとやはり毎週のように大量の課題が課されていて大変そうで、法学部で心身に余裕を持ってしっかりと勉強できるというのは、自分が求めていたものであると感じています。
同時に、「国関の人たちが得ているものも大きいはずだから自分も頑張らないと」と常に刺激をもらっています。
授業については、法学・政治学といった学問分野をきちんと体系的にカバーした上で、専門性をしっかり持つことができる、というのは法学部の最大の魅力だと思います。現在試験勉強に取り掛かっているのですが、法学の分野も勉強しがいがあって面白いです。
政治学に関しては、2年次ではその学問分野の見取り図のような授業をしてくださる先生が多く、体系的な知識が身についているという実感があります。
3年生以降はこうした基礎的な知識を踏み台に、より専門的な授業や、少人数形式の演習などを通じて学びを深めることができます。政治学に関して言えば、こうした学びの機会は、幅広く様々な学問を横断して学際的に取り組む駒場の教養学部では比較的難しいことなのかなと思います(もちろん駒場の政治学の先生方も素晴らしいですし、沢山お世話になりました!)。
7. アドバイス・メッセージ
Q. 学部・学科についての情報収集は、どのような媒体・手段で行われましたか。
色々な先輩に話を聞きに行きました。当初は国関に進学しようと思っていたので、国関の先輩が多めでしたね。入っていたサークル(京論壇)やゼミの繋がりで話を聞いていました。
また、政治学の先生のお話を聞きにも行きました。駒場の先生に、オフィスアワー(※2)を利用して自分が迷っていること・悩んでいることを話しました。
駒場の先生だけれど、駒場の悪いところも良いところも客観的かつ冷静に教えてくださり、とても参考になりました。
駒場の先生は大体優しい先生ばかりなので色々と相談に乗ってもらえると思います。
※2:大学において、学生と教員のコミュニケーションを充実させるために設置された時間帯のこと。
Q. これから進振りを迎える人に、何かメッセージがあればお願いします。
① 進振りは大切だけど、進振りに支配されないこと。
② 点数は大切だけど、点数を目的にしないこと。
この2つが重要だと思います。
確かに悩んだり、迷ったりするとは思うのですが、悩みすぎたゆえにそれに頭を支配されるのは本末転倒です。しっかり考え抜きつつ、最後はどこに決まっても自分がやりたい勉強はできる・自分でやる、くらいの気持ちでいるのが良いと思います。
また、希望の学部・学科に進学するために点数を取ることは必要ですが、それ自体を目的化するのも良くないと思います。点数はあくまで手段です。
せっかく東大に入って教養課程で様々な学問に触れられる期間を、単位や点数だけ追い求めて消費することは勿体ないのではないかと思います。自分が楽単を取って点数を稼いでいた時期を後悔しているので、皆さんには本当に、何を重要視するのかを考えて授業を履修してほしいと思います。
また、今の2点は、私のように、やりたいことが複数あって迷っている人・やりたいことがまだ明確に決まっていない人に対してのアドバイスです。
既にやりたいことが決まっている人や、「こうなりたい」という姿がはっきりと決まっている人は、とにかく情報収集を頑張って、自分のなりたい姿に一番近づける場所はどこなのかを見つけて、そこに向かって直進するのが良いと思います。
Q. Hさんは、点数や進振りに振り回されていなかったら何をしていたと思いますか?
もっと本を読んでいたと思います。
ゼミに所属したりしていると、周りの人たちに対して「この人たちはどれほど本を読んでいるんだ……追いつけない……」と、自分との学問知識の差を感じることがあります。自分も余裕を持ってもっとたくさんの時間を読書などに費やしておけば良かったな、と思います。
自分の場合はそれでしたが、サークル活動や課外活動に勤しむのも良いと思うし、重要なのは、狭い世界に閉じこもらずに、視野を広げる機会を掴むことだと思います。
UT-BASEメンバーより
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