「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、理科二類から 工学部 電子情報工学科に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:Y.H.さん
◯出身科類:理科二類
◯進学先:工学部 電子情報工学科(詳細:こちら)
2. 大学に入るまで
中高生の時は、正直全く進路が定まっていませんでした。理数系の科目の方が好きだったのと、古典が苦手だったのもあって、受験を理系科目で行うことは決めていましたが、「何学部に行くか」ということは全く決められていなかったです。
古典以外は、特に苦手科目もなく、逆に言えば超得意科目もないような状態で、分野によらず大体の科目が好きでした。そのため、受験時の併願校などもブレブレでした。東大以外の併願校は、某私立大学の理工学部、経済学部、国立大後期の医学部という感じで、ここまでぐちゃぐちゃな人もなかなかいないのではないかと思います。
科類に関しても、高3の1月までは理科一類志望でしたが、直前で「志望が明確でないのであれば、理一に入ることより東大に入ることを優先した方がいいかもしれない」と考え、その当時の自分の相当な現役志向も相まって、少しでも不合格の確率を減らすために理科二類に志望を変えました。
そもそも、東大志望にしていた理由の一つは進振り制度があることでした。僕のように決断を後回しにしがちなタイプにはぴったりな制度だと思っていたからです。
入学当初は文転する可能性も考えており、本当にカオスな状態でした。また、高校時代に「まだ決めなくていい」とたかを括っていたこともあって、東大の学部に関する知識もほとんどありませんでした。理一と理二の違いも、「理二はカエルの解剖をしないと留年する」くらいの断片的な情報しか知らず、大学に入ってから驚かされることもありました。
3. 高校生へ ー 科類選びについて
科類選びを迷う高校生は多いと思います。個人的には、理二に行ったことに強い後悔はありません。僕は心配性なので、正直、受験期の異常なメンタルを考えるとあそこで理二に志望変更した自分を責める気にはなれないですし、ある種合理的な選択ではあったと思います。ただ、冷静に考えると、理二にする「必要」はなかったと思いますし、理一の方がいいこともあったかもしれないとは思っています。
科類を決める際に、個人的には以下の基準で考えるといいと思います。
- まず、ちゃんと東大の学部学科を調べる。
- どこの学部学科に入る可能性があるかを洗い出す。
- やりたいことが明確でない場合は、消去法でもいい。
- 進振り定員を調べる(「東大 進学選択 定員」で公式情報が出てきます)。
- 「行く可能性がある学科」への定員が極端に少ないような科類はできるだけ避ける(例えば航空宇宙に行く可能性があるなら、よほどのことがない限り理一にすべき)。
- 自分の成績や、浪人の可否などと相談。
基本的に、定員が2人みたいなところは、たまたま自分より点が高い人2人が志望した瞬間に詰むのでおすすめはできません。
理系学科のほとんどは理一からの方が理二からより行きやすいので、進振りのことだけを考えるなら多くの人は理一を選んだ方がいいと思います。しかし、僕みたいに心配性の人や、成績が不安な人は理二にする選択肢も大いにあります。
それと、これは中々語られることがないですが、正直東大に入ってからの点の取りやすさは科類によって違うと思います。
東大はクラス制です。クラスは、原則として科類及び第二外国語選択で決まります。そして、同じクラスの人は多くの授業が一緒で、東大の成績は相対評価なため、どんなクラスに入るかで点の取りやすさがどうしても変わります。周りがみんな真面目であれば、相対的に成績が取りづらくなり、周りが成績取得にそこまで真剣でなければ相対的に成績はとりやすくなります。これはあくまで個人的感想であり、どこにもそんなデータはないので話半分に聞いてほしいのですが、個人的には理一クラスの方が真面目であり、相対的に理二クラスの方が成績がとりやすいと思います。
もちろん、これはクラスに依存するので、どの第二外国語に真面目な人が集まるかという話にもなります。個人的には中国語やドイツ語は真面目なイメージで、スペイン語はゆるい雰囲気なイメージなので、そこも大きく関係すると思います。ちなみに僕は理二スペイン語出身なのでこういうことを言っています。そうしたことを考えると、例えば「この学科は理一の底点が理二の底点より5点低い!」となったときに、本当にそこに5点分の差があるかはわからないということです。
もちろん、点の取りやすさだけのことを考えて科類や第二外国語を選択すればいいということではありません。真面目な人が多いクラスであれば、その分刺激も受けやすいですし、より充実感があるかもしれません。ゆるいクラスでは物足りないと思う人もいることでしょう。そういったメリットデメリットを考えて自分に合わせて選択するのが良いと思います。
4. 学部・学科の絞り込み
1年次から、いろいろな授業を受けました。必修科目はもちろん、生物系の授業や宇宙系の授業、経済系の授業、歴史系の授業、心理系の授業、情報系の授業、工学系の授業…。そうした中で、まず、理系にとどまることを決めました(元々、経済学部なども主要な選択肢の一つでした)。
これにはいくつか理由があります。
一つは、文系でも面白い分野は多々ありますが、研究したいとまでは思わなかったことです。教養として知っておく分には面白いけれど、この道で生きていくことは難しいな、と思いました。
そもそも、専攻を決める要素はいくつかあると思います。
一つは、やはりその分野が好きでもっと知りたいとか、研究したいとかいうモチベーションです。
もう一つは、現実的な話、例えば就職に有利かとか将来に役立つかというところです(学問を修める上で後者は不純だ、という人もいるとは思いますが、現実には多くの人がこういう考えをしていると思います)。僕は、学問を修める上では前者の理由が崇高だと思いますが、仮に前者でグッとくる専攻がないとすると後者で選ぶことになります。その時、もし後者のみで選ぶなら、僕の中では文系は選択肢にありませんでした。せっかく理系で入っていて、多少は理数系ができるので、後者のモチベーションなら理系学部に行く方がいいと考えていました。なので、文系科目に対して前者のモチベーションがわかなかった時点で、文系に進む道は絶たれることになります。(これは、後者を仮定したときに私の中では文系の道が絶たれるという話であって、私が今の学科に進んだ理由が後者であるということを意味しません。)
さて、そうした中で私が興味を持ち始めたのがいわゆる「情報系」です。元々テクノロジーとかは大好きで、ITってカッコいいなあというなんとなくの憧れもありました。
やっぱり「AI」とかは言葉がカッコ良さそうですよね。IT系の起業なども考えていたので、元々非常に好きな分野ではありました。そこで、情報系の学科をいくつか調べました。HPを見たりもしましたが、メインは学科のガイダンスに行くことでした。そこで実際話を聞いてみて、学生や先生に質問したりしました。
このような経緯で、大体1年生が終わるくらいには、ざっくり「情報系にしようかな」と思っていました。最終的に学科を決めたのは、2Sが終わったあたりです。
5. なぜ電子情報工学科なのか
「情報系」と言っても、いくつか学科があります。理学部情報科学科(理情)、工学部計数工学科(計数)、教養学部学際科学科B群(学際B)、そして工学部電子情報工学科(電情)などです(他にもあります)。
その中で、なぜ私が電情を選んだかの話をします。
ざっくり言うと私が電情を選んだ理由は次の2つです。
- 学べる幅が広い
- グローバルに出ようという雰囲気が多少なりともある(と思う)
まず、学べる幅についてです。個人的に、情報系に進むと言ったときに、「単にプログラミングを学ぶ」のであれば、その学科に行く必要はないと考えました。プログラミングだけなら、個人でできるし、何より今は理系のどの分野に行ってもプログラミングが登場するので、プログラミングするためだけに情報系に行くのは、「英語を学んで世界に羽ばたきたいから英文科に行く」ようなものだと思ったからです。英文科は、もちろんそれ独自の魅力がありますが、単に英語を話したいから行く場所ではないと思います。
結局、化学系に行こうが、生命系に行こうが、物理系に行こうが、多くの分野でコンピュータを用いたシミュレーションなどをするので、プログラミングを使います。なので、結局情報系に行く時に重要なのは、情報技術を活用して何をするかと言うことです。
その点、電情は学ぶ幅が広いです。電情は、電気電子工学科(電電)と姉妹学科であり「EEIC」と一括りに呼ばれることも多いです(授業もほとんど一緒です)。電電は名前の通り電気系ですが、電情も電電と連続的に情報系になっていく感じなので、電気系のことも幅広く学べます。
結局のところ、コンピュータは深掘りしていけば電気機器なので、真に理解するにはどうしても電気知識が必要になります。さらに、電気系の知識があれば「AIを活用して機器を操作する」といったことも可能です。電情はそうした意味で、情報系の最も下層(理論的なところ)のところから、情報技術を使う応用の上層まで非常に幅広く学べる学部です。実際、情報系の下層というと理情を考える人がいると思いますが、コンピュータを理論的に突き進めていった先で必ず到達するトランジスタの詳細な仕組みなどは電情でしか学ばないようです(伝聞ですが)。
学べる幅が広いというと、計数工学科もよく挙げられると思います。私も計数工学科は最後まで迷っていました。そこでなぜ電情にしたかは、2番目の理由(グローバル化の進展)です。
両方の学科のガイダンスに出た際、計数の方は「いかに自分の学科や大学院が欧米に負けていないか」と言う話をしていました。基本的に「日本に残ってくれ」という雰囲気を強く感じました。実際、ガイダンス後に先生に「大学院などで海外に行く人はいるか」と言う話を聞いたところ、「わからないがほぼ居ない」と言う話をされました。一方で、電情のガイダンスは、そもそも登壇した学生が留学が決まっている学生でした。実際に留学する人数はさておき、少なくとも学科の雰囲気として電情の方が留学等に寛容であるということを感じました。私自身、一つの選択肢として留学を考えているので、寛容な方がいいと感じました。
実際電情に入ると、国際色のある人が比較的多い雰囲気があります(もちろん理系なので文系に比べると留学に行く人などは少ないです)。
僕はGLPという東大のグローバルプログラムに参加していますが、そこにもEEICの人が僕含め4人おり、これは理系学科のなかでかなり多い方です。交換留学に行く人も友達にいて、やはりグローバルに出る意識がある程度はある気がします。
もちろん、留学を全く考えていないのであれば考慮する必要はありませんが、少しでも考えているのであれば、少なくとも学科として留学に寛容でないと選択肢が狭まってしまうので、この辺の雰囲気はとても大切です。
ある程度自分の進むジャンルが決まって、そこからどの学科やコースに進むか考えるという人は多いと思います。同じジャンルである以上、共通点も多く決めるのは難しいことが多いです。ここは、とにかく人の話を聞くことです。学科の先輩や先生などにガイダンスで話しかけましょう。色々聞いてください。それと、同じような分野に興味のある同輩がいたら、その人と情報交換するのもいいと思います。
6. 電子情報工学科のメリット
- 色々学べる
- いろんな人がいる
- ちゃんとプログラミングをやる
- オンラインデーがある
1.については、先述したので割愛します。2.のいろんな人がいる、というのは学科の人数が多いことにも関係します。EEIC全体(電情+電電)で大体130人くらいいます。特に2学科で分断されていることもないので、いろんな友達ができます。いろんな分野に興味ある人がいたり、いろんなことをしている人がいたり、本当にさまざまです。適度に人数が多いので、仲良くなれる人が見つかると思います。また、極端に人数が多いわけでもないので、前期時代のクラスで固まるといったこともなく、はじめはみんな頑張って友達を作りに行くので、知り合いがいない状態でスタートしても全然大丈夫です。この辺はすごくいい点だと思います。僕も理二からの進学で知り合いが少なかったので心配でしたが、ちゃんと友達ができました。
3.についてですが、電情は2Aの時点でかなりプログラミングをします。情報系の学科によっては、プログラミングを使う授業が意外と少ないというところもありますが、電情はちゃんと授業が存在します。難易度もそれなりに調整されており、初心者には難しいがついて行けるというレベルくらいから、だんだん難しくなっていく感じです。僕は進学前の夏休みにC言語をやっていたので、最初の方は楽でしたが、A2くらいから大変になってきた感じですね。プログラミングもちゃんとやっておきたい人にはおすすめです。
4.これ大事!!金曜日はリラックスしながら、おうち受講できます。EEICは、現在は原則対面講義ですが、コロナ禍でオンラインの方がより学習効果が高いと判断した授業を金曜日にまとめて、金曜日を「オンラインデー」としています。おうち受講できるのもメリットですが、例えば先生がVR空間で授業をするもの(VRとZOOMのハイブリッド授業という新形態)など、オンラインを活用した授業があるのも非常に面白いです。
7. 電子情報工学科のデメリット
デメリットも正直に書きます。僕の感じる電情のデメリットは、
- 授業多すぎる
- 1限多すぎる
- テスト多すぎる
- 課題多い
- 電気苦手だとしんどい
です。
まず、授業が多すぎます。幅広く学ぶ分、学ばなければならないことが多いのです。2Aは20コマ前後(19〜 21)が平均です。死んじゃいそうです。しかも105分授業なので正直集中力が持ちません。そして、1限が多い!もちろん全て取る必要はありませんが、毎日1限が開講されています。必要単位数を考えると、そのうち最低でも2〜3個は取ることになると思います。朝が苦手なみなさんにとっては地獄です。正直にいうと、僕は1限はほとんどリタイアしています。理情の友達を見ていると、全休が2日もあるし、授業は3限からだし、羨ましいったらありゃしない。
そして、テストが多すぎる!これは単純に授業数が多いのもあるのですが、テストで決める科目がほとんどなのと、みんな中間試験をやるので、11月とかは4日に一回くらいテストがあります。そして、課題も多い!これは、「多すぎる」というほどではないですが、それでもやっぱり多いです。毎日何かしらの課題を提出しています。せめて中間試験か課題かどっちか無くしてほしいです。僕は実は教職課程を取っていたり、先述のGLPを取ったり、団体を運営したりしているので、どうしても忙しくなってしまいます。
そしてもう一つ、電気が苦手だと辛いです。電情は基本的に電電と同じ授業を受けます。回路の授業や、電磁気学の授業がしっかりあります。僕は電気がそこまで得意ではないので、その辺は辛いです。中には電気つよつよの同級生もいるので、圧倒されます。まあ、この辺は分かっていて進学しているので、仕方ないのですが。本当に「情報だけ」をやりたいのであれば、電情は地獄だと思うのでおすすめしません。
8. これから進振りを経験する人へ
東大には私のように「全然進路決めずに入った人」が一定数存在すると思います。せっかくなのでいろんな授業をとって、色々してみて、ぜひ悩んでください。いろんな人に話を聞いたりするのもいいと思います。
私からするアドバイスは
- ある程度点を取っておく。
- たくさん授業を受ける。
- 第二段階は本当に行きたい順にとにかくちゃんと書く。
です。
理三以外から医学部に行きたいのでなければ、90点とかを取る必要はありません。が、80〜85点くらいは取っておくといいと思います。このくらいなら、極端に頑張らなくても取れるので、行きたい専攻が定まっていない人ほど選択肢を広げるために取っておくといいでしょう。
そして、色々授業をとりましょう。面白い分野、面白いけど進みたくはない分野、つまらない分野など色々見えてくるはずです。
それと、第二段階はしっかり志望を書きましょう。私自身は第一段階で入ったのですが、友人に第二段階で後悔している人が何人かいます。第二段階に裏戦略は存在しません。「点数的にいけるかどうか」とか「他の人がどうか」とかは一切考えなくていいのです。とにかく、自分が自由に選べるならどの順番で行くかを書いてください。「点数さえあれば入るのにな」という学部は、上に書いてください。進振りは未知数です。今年も、信じられない学科が定員割れしたり、下馬評よりも5点くらい点が低くても進学できているという例がありました。第二段階のシステムは、マッチング理論に基づいており、とにかく「本当に行きたい順で書いた人」が最も成功します。自分の点数とかは考える必要がないのです。私の周りに、「A学科は点数が高いのでそもそも選択肢に入れていなかった。だからB学科を書いた。結果B学科に進学が決まったが、A学科がなんと定員割れした。B学科よりA学科に行きたかった」という理由で後悔している人がいます。本当に、第二段階は行きたい順に書いてください。自分の点数が100だったらどこに進みたいのかを考えて書くべきなのです。
UT-BASEメンバーより
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