「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、文科2類 から 文学部 社会学専修 に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:星野匠海 さん
◯出身科類:文科2類
◯進学先:文学部 社会学専修(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
ー高校時代に興味のあったことや、文科2類を選んだ理由を教えていただけますでしょうか?
自分は、高校に入学した時点から「東大に行こう」ということを決めていました。高校受験に成功した勢いのようなものが大きかったかなと思います。さらに、当初は官僚になろうと思っていて、文1を受験するつもりでした。
後付けだったかもしれないけれど、東大や文1を目指すにあたって、何か人生の指針のようなものを決めよう!と思って、その時に出てきたのが「周りの人を幸せにしたい、そういう人生を生きたい」ということでした。官僚になると、日本という国に住む人に尽くせるし、大きなインパクトを残せるのではないかと。
もう一つ、「周りの人を幸せにする」ということは、今幸せではない人にアプローチしたいということで、社会問題に興味を持っている自分もいました。
高2の時、総合という科目の時間でNHKの作った「無縁社会」という言葉をテーマに小論文を書いたことがありました。現代社会において、人と人との繋がりが希薄化している気がして、これは自分の身の回りの世界や若者についても言えることだなと感じました。
今思うと、これはすごく社会学的ですよね(笑) でも、この頃は「社会学」という言葉も知らなかったし、自分がこの道を選ぶなんて夢にも思っていなかったです。
ー文科2類という選択肢はいつ頃出てきたのでしょうか?
高3の12月頃まではずっと文1志望のままだったのですが、塾の世界史の先生があるとき「法学部って本当に人を選ぶから、なんとなくで法学部を選ぶのはやめた方が良いと思う…」と言っていたのを聞いて、「自分には法学部は合わないかも?」と感じ始めました。
そのときに、高校1年生で一橋大学のオープンキャンパスに行って法学部の授業を受けた時に、「ちょっと違うかも…?」と思った記憶が蘇って、文1はやめようかなと。
じゃあどこに行こうか?と考えた時に、「そういえば、ニュースの最後に株価の変動とか色々出てくるけど、自分はあれを分かったことがないな。あれが何なのか分かるようになりたい!」と思って、よし文2だ!と思い切って決めました(笑) 進学選択があることも知っていたので、入ってからまた色々変わっても良いやという気持ちもあったと思います。
3. ターニングポイント(授業)
ー入学時を振り返って、現在に至るまでどのくらい興味の範囲が変わりましたか?複数の分野間で迷ったりされましたか?
迷いました。
入学当初は、官僚になりたいと思っていたこともあって、法学部に行くことも視野に入れていました。しかし、初ゼミで国際政治分野の授業を取って、自分はこの道ではないかなと思いました。官僚ということは対象を日本国民に絞っているのかなというのがあって、もう少し広く見てみようということで国際政治の分野を勉強しましたが、「ダイレクトさ」みたいなものが感じられませんでした。理論的な枠組みを考えたり、平和構築の仕組みを考察したりということをしても、自分が対象としている相手からは何の応答もないわけじゃないですか。自分が「周りの人を幸せにすること」を人生の指針としたのは、根源的には自分が幸せになりたいからだと思うんです。人の笑顔を見ているときが自分にとって一番幸せで、だからこそ人の幸せを願うんだと思います。
だから、対象からの直接的な応答が欲しいし、そのダイレクトさみたいなものを求めるんだと思います。
ーなるほど…なんだか泣きそうになります(笑) 他に、進学先を決めるにあたって強く影響を受けた授業などはありましたか?
先ほどの初ゼミと同じ1年生のSセメスターに受けた、「社会システム工学基礎」がとても面白かったです。自分は幼い頃から鉄道が好きで、そこから街にも興味を持つようになりました。近所の駅の工事とかを見て、シンプルに街ができる過程にワクワクしていたんだと思います。これは小学校の頃に持っていた関心なので、中高ではすっかり忘れていましたが、この授業では「東京のインフラストラクチャー」というのがテーマにされていて、自分の興味が蘇った感じがしました。
そこで自分の進路に「都市」という選択肢が生まれました。1Sが終わるタイミングでは、進学先候補として、工学部の社会基盤学科と都市工学科、そして経済学部が残っていた感じだと思います。
4. ターニングポイント(課外活動)
ー社会学との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?
社会学との出会いは、1年生のAセメスターに入った、「UT-Basecamp」というゼミでした。UT-BasecampはUT-BASE主催の自主ゼミですが、2021年度のAセメスターには、社会学者の上野千鶴子先生が登壇されるという案内を見ました。
そのときに、自分にとってフェミニズムや女性学はふわっとしたもので、すごくよく聞くな、そしてネガティブな言われ方をしているな、という印象がありました。
上野先生のことも、噂で名前は聞いていたけれど、東大の入学式での祝辞が反響を呼んだらしい、というくらいしか知りませんでした。
でもなんとなく、それが自分の中で食わず嫌いな気がして、「触れてみようかな」と。
さらに、自分の身近な人で、いつもはすごく明るい女性が、あるときふと「私も結婚して、子供を産んだら、仕事を辞めないといけないのかなあ。このあとどうしようかなあ。」と、不安を漏らしているところを見ました。
そのとき、自分はとても大きな衝撃を受けました。自分はそんなこと考えたことがなかったけど、女性にしか見えていない悩みがあるのではないか。そして、こんなに明るい人でもその悩みに苦しまされているんだ、と。
そういった個人的な動機もあって、UT-Basecampに応募しました。
このゼミでは課題図書として上野先生の著作『女たちのサバイバル作戦』を読んだのですが、この本を読んだ時、自分は本当に頭を殴られたような衝撃を覚えました。扶養制度の話や非正規雇用の話などを知って、こんなにも雇用や社会の枠組み自体が男性中心的に作られていたのか、と。男女雇用機会均等法や男女共同参画の取り組みなどがあって、万事OKだと思っていた自分にとって、社会の見え方が変わった瞬間でした。
この上野先生が社会学のバックグラウンドをお持ちということで、この時社会学という学問に初めて出会ったと記憶しています。
ーなるほど…。都市への興味や経済という選択肢も残っていましたが、どのように絞り込まれていったのでしょうか?
これも、UT-Basecampの最終発表で何をするかを考えていた時に、自分のジェンダー分野への関心と、都市への関心をどうにかしてクロスさせようとしていました。そこで出会ったのが『存在しない女たち』という本です。この本では、第1章で、都市に潜む性差別が扱われていました。公衆トイレだったり、除雪の順番にさえも女性差別が潜んでいる。
ここで、「あ、そっか!都市とジェンダーって繋がるんだ!」と思いました。
ここから大きなインスピレーションを得て、ジェンダーも都市も、どちらも社会学のドメインの中で扱うことができるのではないかと考えるようになりました。
5. 学部・学科の絞り込み
ーそこからは、社会学専修にすんなりと決まっていったのでしょうか?
1Aが終わった時点では、半分〜6割くらい社会学専修に行こうかなと思っていました。
この頃、理系と文系という違いも意識し始めました。
都市工学科や社会基盤学科は理系の学部に属するので、やはり必修などの数も増えて授業がすごく忙しくなるイメージがありました。
大学の外でも活動したいという気持ちがあったので、そこが少し懸念点になりました。
私は2年生の初めごろから、都市やモビリティに携わるLUUPという会社でインターンをしています。そこでの活動がすごく楽しくて、後期課程でも続けたいな、と思っていました。
ー経済学という選択肢は最後まで残っていたのでしょうか?
そうですね。これはもう当初の株価の変動などを理解したいという動機よりは、もう少しジェンダーに近づいた動機を持っていました。
これも上野先生の書籍に、経済学者として女性の地位向上や雇用形態の不平等の解消に取り組んだ方が紹介されていて。そういった切り口からアプローチするのも悪くないかなと思っていました。日本にはそういった取り組みをしている経済学者が少ない、ということも言われていたので。
ただ、学部の雰囲気が(もちろん、全員が全員就活を最優先にしているわけでは無いとは思いますが)「就活予備校」のような感じだということを先輩から聞いていて、就活は確かに大切だけど、自分にとってそれが最重要事項ではないかなという気持ちを持っていました。しかし、自分がそういった雰囲気の中で周りに流されずに信念を貫いて学問や課外活動に勤しめるか、というと、その自信がありませんでした。
自分は、大学の学問において「この価値観に関しては何が何でも譲れないんだ」という軸を固めたいと考えていました。
そのときに、これまでにお話ししてきたようなこともあって「社会学ならそれができるんじゃないか」となんとなく思ったんです。
これまでの経験から、朧げではありながらも形になりつつあったその「譲れない価値観」のようなものを、もっとスムーズに語る言語が欲しい、そして、それは社会学を通してなら見つけられるのではないか、と感じたんです。
ー社会学を通してなら見つけられる、と思ったのはやはりジェンダー関連の研究からなのでしょうか?
そうですね。上野先生の影響が一番大きかったと思います。
他にも、ミルズの『社会学的想像力』という書籍を読んだのですが、序文のあたりに「社会の中で生きる個人と社会全体とのギャップに架け橋を築くための力が社会学的想像力である」ということ趣旨のことが書かれていて、その力を身につけたいと思ったことも影響している気がします。
6. 決断の時期と理由
ー最終的な決断の時期はいつ頃だったのでしょうか?
明確な決断時期というのはないと思います。次第に他の選択肢がフェードアウトして行った感じです。進学先の第一志望などの調査があるときに、「第一希望は社会学専修だな」と回答して、そのまま本調査もそれで出した感じです。
ー学部を決める際に、就職や院進など、学部を卒業してからのことについてはどれくらい・どのように考えられていましたか?
一応考えてはいましたが、最終的な判断軸には入ってこなかった気がします。
東大ドリームネットで活動していたときに、通信インフラ系の会社で働いている方が「学部時代に勉強をしていたことと、今の仕事とは全くと言って良いほど関係していない。大学生の間は自分が学びたいことを学ぶことを大切にして、就職はその時に考えた」という話をされていて、進学先と仕事を全く繋げないのもありなんだなと気付きました。
7. 現在の学部・学科での生活/満足感
ー実際に進学されてみて、どのような点が良かった、想像とは違った、などはありますか?
まず良かったことは、必修が少なく、3年生以降も他学部の授業をたくさん履修することができる点です。2Aセメスターは後期教養の授業を取りまくっていて、中国語の授業を4つも取っていました(笑)
社会学自体があまりカチっとした学問領域ではありませんし、いろんなところに社会学が潜んでいると思うので、いろんな分野に触れられるのが良さではないかなと。
とはいえ、必修が少ない…!というのは少し残念な面もあります。
今学期は「社会学概論」の授業がオンラインで、もう一つの「社会調査」の授業もハイブリッド開催だったため、同期と会う機会がほとんどありませんでした。
そのあたりについては、3S以降本格的に本郷での生活が始まってからという部分はありそうですね。
また、顔合わせの時に、どうして社会学専修を選んだのかという話をしたら、社会学にすごく興味があるという人が意外に少なく、少し拍子抜けした部分はあります。
これから始まるゼミなどを通じて興味を磨いていくのかな、と思いますが。
8. アドバイス・メッセージ
ー最後に、これから進振りを迎える方にアドバイスやメッセージをお願いします!
自分が理想的な進振りの過程を歩んできた自信はないのでアドバイスと言えるかはわからないのですが、興味のあることを授業なり本なりで触れてみるのはいいことだと思います。
点数を取るために楽単で固めましたとかいうのよりも、興味ベースで授業を固めてみるのが良いのではないかなと。必ずしも授業でなくとも良いとも思います。自分も、自主ゼミであるBasecampだったり本だったりといったものにすごく大きな興味を受けたので。
また、少しでも興味があったら覗いてみるのが良いのかなと思います。そして、それは駒場のシステム上みんなが避けては通れないものなのではないかと(笑) 。
ただ、それを安易に批判するのではなく、それが自分の進振りに本当にダイレクトに関わってくるかもしれないと思いながら授業を受けると、その授業がもっと面白くなるかもしれません。実際に、たまたま取った授業が進振りに影響を与えるというのは珍しい話ではないと思います。
ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんのインタビューによると、南部先生は素粒子物理学のみならず他の物理学の分野も学んでいたからこそ、その経験が自分の斬新なアイデアに繋がったとおっしゃっていました。
一つの分野に特化して突き詰める人もいる一方で、他の分野の考え方を応用して、発見に繋げる人もいます。
駒場のシステムでいろんな学問の見方に触れて、それを自分の興味のある分野に応用していくと、その分野において常識とされていなかった斬新な発想ができるかもしれない。そして、そのことが大きな発見につながったりすることもあると思います。そして、発見につながらなくても、自分の中では革命的な出会いや気付きにつながるかもしれません。
実際に進学選択の過程にあるときは大変なことも悩むこともあると思いますが、いいところもたくさんあると思うので、ぜひ頑張ってください!
UT-BASEメンバーより
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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