「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、文科一類 から 工学部都市工学科都市計画コース に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:S.T. さん
◯出身科類:文科一類
◯進学先:工学部都市工学科都市計画コース(以下「都市計画」と表記)(詳細:こちら)
2. 大学に入る前
ーなぜ高校時代に文科一類を選んだのですか?
高校の時から、社会問題に対するアプローチとして行政の側から関わっていきたいという考えを持っていたので、省庁に入る上でメジャーだろうなと思っていた文一に決めました。でも、その時はその後の詳細なキャリアパスはあまり考えていませんでした。
ー省庁へ行きたいという思いはどのようなところから生まれたのですか?
高校の時に生物学が好きな理系の友達がいて、研究をしてその果実を社会に広めていきたいと言っていたんです。それを行政の側から研究活動をサポートできるような仕事をしたいと思いました。
ただ、これはたくさんある理由のうちの一つに過ぎず、特に研究のサポートに関心があったというわけではないです。
ー高校時代に特に関心のある社会問題はありましたか?
特にこれといった関心分野はなかったです。でも昔から交通や旅行が好きで、特に地方部の交通網の再編に関する関心はずっと持っていました。なので、比重で言えばそれに対する関心は大きかったと言えるかもしれません。
3. 現在から入学時を振り返って
ー大学に入って、入学当時からの興味への変化はありましたか?
大学に入って、北京大生とディスカッションをする京論壇と言う団体に入ったのですが、その中の「国家政策と正義」という分科会での議論の内容からかなり大きな影響を受けたと思います。そこで、教育や地方と都市の格差について、抽象的な議論から実際のイシューに至るまで色々な話をして、特に子供が育つ環境における不平等がなかなか避けがたいことに気付かされました。もちろんそこには性別や出身地や階層など色々な条件が関係していて、不平等という問題の複雑性について考えさせられる機会が否応なく多くなっていきました。なので、1年生の時にはそういう不平等というもの全般に対する興味というのは強くなっていたかもしれません。
そうなると高校時代での関心分野とずいぶん断絶したなという感じはあるんですけど、自分の中では一貫したものがありました。交通に関する関心というのはその時もずっと持っていたし、さっき話した不平等に関することも高校時代の社会問題への関心の延長線上にあるものなので、結局興味分野はそんなに変わっていないのではないかなと思います。
ただ、この経験は僕の進振り体験の中ではあくまで下地の部分で、直接の決定打ではありませんでした。
4. ターニングポイント
ー現在の進学先に決めるまでの経緯を教えてください。
最終的に都市工に決めたのは2年生の6月くらいでした。実は都市計画に行きたいと思ったのがこの時期で、それまでは選択肢として考えてすらいなかったんです。
1番最初のターニングポイントは2年生のSセメスターに始まった法学部の専門科目でした。よく知られているように、法学部では大講堂での授業が多くて、人との距離が近づかないという特性があります。そういう中でも自分の周りにいる法学部生は政治やメディアなどそれぞれが強い関心がある分野を持っていて、さらにその分野を深めるための手段やビジョンを持っている人が多かったんです。その時点で、「僕は惰性で法学部に来ているのではないか」と思うようになりました。
そんなことを考えていた2年生のゴールデンウィーク期間に、京都にいる高校の同期(高校の時に生物学をやりたいといっていた友人)に会いにいきました。自分の夢を語っている彼は、確固とした興味の芯を持っていてそれを語ったり行動できたりしている法学部の人たちの姿と重なりました。
そこで、「じゃあ自分は何が語れるのだろう」と考えたんです。自分らしいことを専門として身につける道に進んだ方がいいのではないかと思うようになりました。
5. 悩み・葛藤・苦悩
ー都市計画の他に迷われた学部学科はありましたか?
進学選択のかなり直前の2年生の7〜8月くらいまで
①後期教養 地理・空間コース(以下「地理・空間コース」」と表記
②工学部 社会基盤学科(以下「社基」と表記)
③都市計画
という3つの選択肢で迷いました。
この3つの学部に絞ったのは、学部の中で自分が興味があることに近いのはこれら学部学科だろうなと思ったからです。
社会学なども考えないことはありませんでしたが、社会学という大きな枠組みの中では自分のやりたいことをやるのは難しいだろうし、あらかじめある程度絞り込まれている学部学科がいいのかなと思いました。
ー「自分のやりたいこと」がどのようなことなのか詳しくお聞きしたいです。
やりたいことは、広く交通網の再編や、交通という観点から見る都市の展開、交通網が作られている空間(道路や線路だけではなく、周辺にどのような施設を配置していくのか)などの様々なことを構想することです。ゆくゆくはそういうことを実際に実行に移せるような仕事に就けたらいいなと思います。
ー最終的に都市計画に決められたプロセスを伺いたいです。
①地理・空間コースは自分の興味分野に近い研究をされていた松原宏先生が退官されてしまうし、コースとして開講している授業もあまり多くないので、不完全燃焼に陥ってしまうのではないかと思いました。
②社基ではある目標が与えられていて、それを実現する方策を考えるという土木・建設とかの側面が重視されている印象がありました。自分はどちらかというと方針を定める方、プランニングの方により興味があると思ったので都市計画の方が向いているのではないかと思いました。
さらに、都市計画について調べている中で街区レベルでは実際に図面や模型を作り、自治体レベルでは広域プランを作ったりする演習の授業が面白そうだと思いました。このように、都市計画は社会そのものを材料として進める授業があり、社会とより繋がっている感じがしたのでこの学科に行きたいと思いました。
ー情報収集はどのように行っていましたか?
UT-BASEの記事を見たり、地理・空間コースの先輩に話を聞いたりしました。ちなみに自分の関心分野を地理・空間コースの先輩に話した時にも都市計画の方がいいんじゃないと言われたんです。それから都市計画の人にも話を聞いて…という流れでした。先輩と話して、自分の進学先が見えてきてどんどん調べて行ったという感じです。
社基については正直あまり真剣に検討していませんでした。噂でこういうところもいいかな、という程度でした。
ー社基はかなり理系のイメージが強いですが、そこも進振りで考慮しましたか?
そうかもしれません。構造計算とか、建物を建てるときの具体的なプロセスはあまり自分の関心分野ではありませんでした。
ーそれでいうと地理・空間は社会よりの印象があるのですが、授業内容やコースが扱っている学問分野が関心に沿わないと感じたのでしょうか?
地理・空間コースは元々人文地理学教室というものとしての性質を持っていて、都市工学よりも純粋な学問的性質が強い印象があるので、都市計画の方が社会との関わりが強いのではないかと思います。僕はかっちりした学問というよりかは、社会実装を含めたまちづくりという方に関心がありました。
ーそもそもまちづくりやプランニングの方向に関心が生まれたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか?
自分は小さい頃から電車が好きで、現在も電車、バス、船、それからより小規模な交通などの交通網全般に関心があって、自分のキャリアを考える上でも交通やそれを取り巻く環境といったものに関わっていきたいなと思っています。2年生の時に、宇都宮市でまちづくりコンサルタントをされている京論壇のOBの毛塚幹人さんという方に宇都宮市を案内してもらう機会もあり、より具体的なビジョンとして交通やまちづくりというものを自分のキャリアの一つの方針になり得ることに気づきました。
ー交通の何に魅力を感じますか?
人の動きというものが交通を通して見えてくることです。どういうところに、何をしに人が集まってくるのかなどを分析できる点に魅力を感じます。
ーちなみに、今の時点でこういう街がいいなというような理想はありますか?
「境界」が少ない街がいいですね。今の街は車が走るところが境界線になっていたり、必要とする施設と家が離れていることが境界になっていたり、車がないと動けないことが境界になっていたりすると思います。そういう「境界」、バリアを取り払って行っていきたいところに行ける、あるいは歩行可能な距離圏内だけで必要なものにアクセスできるというような街が理想的だと思います。
地方の過疎化に対応するためにデジタル化も進んでいくのではという意見もあると思いますが、僕はデジタル化されるからこそ、純粋に外に出て人と関わることの価値が見直されるようになると思います。これまでの商業施設は買い物に「来てもらうこと」を主眼に置いていたけれど、リアルの世界で買い物をする必然性がなくなってきてから「買い物体験」そのものに着目するという動きは間違いなく起こってきていると思います。例えば歩行中の風景を楽しむことや人と会うこと、街にある自然と触れ合うことなど、デジタルだけでは補えないような外に出ることそのものの価値・機能に着目する動きがこれから出てくるのではないかと思っています。
ー旅行がお好きだとおっしゃっていましたが、色々旅行をされる中で面白い街はありましたか?
福岡です。福岡は狭いエリアに機能が集中している印象があります。僕の出身地である名古屋は福岡とよく比べられるんですけど、福岡の方が狭い範囲で用事が完結することが多いように感じます。市街地には色々なものが密集していて、街を歩くということが促進されていると思うんですよね。そうすると人々が歩く所の周辺の商業が活性化したり、景観を良くしようという機運に繋がって行ったりして色々なメリットが考えられます。そういう点で言えば福岡はなかなか見所があるのではないかと思います。
6. 今の学部での雰囲気・満足感
ー今の学部での雰囲気はどうですか?
やっぱり人との距離が近いですね。演習でもグループで一緒に行動したりとか、個人制作で製図や模型を作成するときもお互いに知恵を出し合ったりして進めていくので。とにかく人との関わりは今までよりはるかに多いように感じます。
あと、やっぱり関心分野が似通っている人は多いです。街というものが好きで、それに関わりのある分野に問題意識を持っている人はとても多いです。
ただ、同質性というのは同時に良くないところでもあるかなと思っています。人文学の方面やより多様な社会問題とそれに関する知的刺激を得る機会は今までよりも少なくなっているように感じます。なので、視野を広げておくためにもこれまでの文一のコミュニティや牧原ゼミ、京論壇での人間関係を大事にしていきたいなと思っています。
ーフィールドワークなどでかなりたくさんの刺激が得られそうな気はしますが…?
今の段階では社会との関わりというのはあまり多くないんですよね。学部の講習のフィールドワークとして現地の人の話を聞いたわけではないので。そういうことができるのはもうちょっと先のことかと思いますし、自分で積極的に動かなきゃいけない部分でもあると思います。
現状では今与えられたことをこなすことに精一杯で、それ以外のことに関心を広げていく機会が少なくなっていると感じている部分があるのかもしれません。
ー必修は多いのでしょうか?
必修はさっき言った演習だけです。それ以外は都市計画の科目から一定数をとらなければいけません。指定科目がある程度絞られているので皆取る科目はおおよそ似通ってはきますけどね。
ー選択必修で取る科目は多いのでしょうか?
4年生まででみると必ずしも多いとは言えないかもしれません。他学部の科目をセメスターあたり10単位くらいは履修する余裕があると思います。工学部の他の学科に比べたら自由度は高いでしょうね。
ー今の生活は元々想像していた通りでしたか?
だいたい想像通りです。忙しいという話も前々から聞いていました。製図の中間発表があって、そこでは図面と模型と、それにどういう設計意図があるのか、空間をどのように作りたいのか、それはどういう問題意識に基づいているのかということをプレゼンします。そういうところで皆かなりこだわるので結構忙しくなってしまうんですよね。
今は演習、都市計画史や都市交通史などの概論的な話が多いですが、今後やっていきたいと思っているのは社会との関わりを増やすことです。やり方は考え中です。
ー将来街を見る時に、どういうスケールで見たいと考えていますか?
区画単位で細かく配置していく楽しさもあるだろうし、そのほうが成果も見えやすいと思います。でもその一方で、それだけでは取り組めない課題も多いから街全体としてどういう配置をしているかを考えるのも楽しいですよね。
都市工の授業では今はまだ街区単位の話が多くて、街全体という単位で実践的な演習をするのは3年以降なのでそれから決めようかと思っています。
ーまちづくりには行政として関わりたいですか?技術者として関わりたいですか?
元々は行政に行くことを考えていました。でも、友達に「大学に残って研究を続ける方が向いているんじゃないの?」と言われて、アカデミックな方面に進む道も考え始めました。
ー研究者になるのであれば交通に関することをやりたいと考えていますか?
今は交通に関心がありますが、どうなるかわかりませんね。都市計画には都市デザインや都市計画や都市交通など様々な分野の研究室があって、それを全部見たわけではないので。そろそろ研究室見に行こうと思っているところです。
ー都市工の研究室内での研究はどのように社会実装されているのでしょうか。
社会の中に問題があって、それにアプローチするために研究室がある印象です。研究室があって、そこで生まれたものを社会に実装する、という順番ではなくて、社会の中にある課題に取り組むためにその研究室での研究があると捉えています。
ー都市工学は自然科学というよりかは社会科学の学問なのでしょうか?
僕はずっと都市工学は社会科学だと思っています。だから皆が理転というのにすごく違和感を感じています(笑)。実際に都市計画36人中文系から来たのが9人で、決して異色とは言えない進振りルートだと言えると思います。
ー数学は使わないんですか?
少しは使うけど、社会学でも統計は使うでしょう?構造計算は社会基盤ではやるかもしれないけれど都市計画ではあまりやらないんじゃないかと思います。
7. アドバイス
ーこれから進振りを迎える一年生に向けてアドバイスはありますか?
人に話を聞いた方がいいと思います。人に話を聞くというのは単に情報を得るだけではなくて、自分の言葉を聞いてもらって自分自身を客観的に見つめる方法でもあると思うので。
僕はやっていないですが、年齢が上の人に聞いていって先々のビジョンまで考えてみるのもいいのかもしれませんね。
ー自分の進振り体験を通してやっておけば良かったことはありますか?
もっとリサーチをすれば良かったと思います。僕は半ばフィーリングで決めたようなものなので直前にもあまりリサーチはしませんでした。
なので、2Sの履修は法学部進学を前提として決め、進振り点を上げるための科目選択をしていませんでした。結果的に自分が納得できるような進学先に進めましたが、底点が高かったら行けていなかったかもしれないので、もう少し早く考えておくべきだったなと思います。
UT-BASEメンバーより
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