「あなたはどのようにして進学先を決めましたか?」
多くの東大生が1度は頭を悩ませる、進学選択(通称「進振り」)。
——何を基準に学部・学科を決めれば良い?どんな手段で情報を集めれば良い?自分の興味・関心にどう向き合えば良い?
そんな疑問を抱く東大生に寄り添うべく、悩み抜き、考え抜いて進学先を決めた先輩たちの経験を発信する連載「進振り体験記」!
今回は、理科二類 から 農学部応用生物学専修 に進学した学生の体験談です。
1. 基本情報
今回、体験をシェアしてくださった方の基本情報は以下の通りです。
◯名前:M.H.さん
◯出身科類:理科二類
◯進学先:農学部応用生物学専修(詳細:こちら)(以下「応用生物」)
2. 大学に入る前
ーなぜ理科二類に入学しようと思われたのか教えてください。
僕の場合、もともとやりたいことが決まっていて、そのために農学部に行こうと思っていました。高校に入った時に詳しい東大の進振りシステムを知ったので、そのくらいから理二にしようと思っていました。
ーそんなに早い時期からやりたいことが決まっていたんですか?
実は小学生の時からやりたいことが決まっていたんです。僕は公立の小学校に通っていて給食があったのですが、小学校4、5年生の時の担任の先生が食教育に厳しく、「給食を残すな、食べ物を大切にしなさい」と教えられました。その先生は海外青年協力隊でアフリカに行ったことがあり、食料不足による飢餓の状態を目の当たりにすることで食べ物の大切さを実感された方だったんです。
自分たちは大抵の場合食べ物を満足に食べられて、普段の生活の中では食料不足の状態に陥らないけれど、海外も日本国内でも食料がなくて苦しんでいる人がいるという現状を小学生の時に知り衝撃を受けました。その時からこの問題に取り組みたいなとずっと思っていたんです。
なぜそれが農学部につながるのかというと、単純に「食べ物がないなら食べ物を作ればいいのではないか」という発想で、このためには農業が大事なのではないかと考えたからです。
高校生の時には、食料不足に陥る発展途上国には水がないということを知っていたので「井戸を作るのも食料問題に貢献する一つの手段なのではないか」とも考えていました。親にも相談して、井戸を作るとしたら土木業かと思いましたが、それも農学部で学べるのではないかという結論に至りました。東大農学部は一つの学部といってもカバーできる分野が広いし、なんとでもなるのではないかと思っていたんです。
それに、理科二類に行っても工学部に行けなくはありません。最悪他の学部に進むのもありだから、とりあえず理科二類にしたという感じでした。
3. 現在から入学時を振り返って
ー興味分野は変わりましたか?
高校生から入学したときくらいは井戸作ったりとかを考えたことはあったけれど、今は遺伝子組み換えなどの食料そのものに直接的に関わるような技術に関心を持っています。もちろん土とか水とかのインフラ整備も大切ですが、食べ物となる作物自体にアプローチするという方向に変わってきたような気がしますね。
ー遺伝子組み換えに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
なんとなく知っていたからです。厳密な定義は知らなかったけれど、遺伝子組み換えとかゲノム編集とかの存在は知っていました。例えば「アフリカの砂漠で作物を育てるためには今の稲や小麦では不適当だから乾燥に強い作物が必要だ」となった時に、その方法の一つとして遺伝子組み換えやゲノム編集などの方法があるということは高校生の時からなんとなく知識として持っていました。
大学生になって、農学系や生物系の授業を受けました。理二、理三だと1S, 1Aで必修の生命科学という授業でなんとなく遺伝子組み換えの話も出てきましたし、総合科目のE系列でも農学部が出しているような授業や生物系の授業だと遺伝子組み換えは頻出のトピックでした。そこで改めて「遺伝子組み換えとは」というところから学んで、「かっこいいなあ」と思いました。
ーどういうところにかっこよさを感じましたか?
新しいものを作り出すところはすごいと思うし、なんとなく研究室・生物系の研究者というものをイメージした時に思い浮かんできた、「研究室で白衣を着て実験をする」という研究者像がかっこいいと感じました。
ー井戸に関する関心はどうなったんでしょうか?
農学部の専修を決める時に、土やダムなどインフラの分野にも関係する生物・環境工学専修や国際開発農学専修などもあり、それらももちろん検討しました。
それでも、例えば乾燥に強い作物を作りそれが育てられて実際に食べている人がいる、という目に見える影響を求めた結果、今は作物自体の方により関心があります。
4. ターニングポイント
ー進振りにおいてターニングポイントとなった授業はありますか?
今は遺伝子組み換えなどラボ系の方に関心が移ったと言いましたが、もともと僕はわんぱく少年で外に出るのが好きだったので、フィールドワークにも関心がありました。例えば井戸を作るには外に出なければならないし、作物を作るときも育て方の研究をするにはフィールドに出なくてはいけないからです。
しかし、1Aで大杉美穂先生の「最先端の生命科学研究を駒場で体験する」という主題科目をとったことが大きな転機になりました。
主題科目の単位は2単位しかいらないけれど、せっかくなら面白い授業をとりたいと思っていて、最終的に見つけたのがこの授業でした。後期教養の生物系のラボを選んで研究ができる授業で、研究に憧れていた僕にぴったりな授業でした。
僕はたまたま植物と共生菌共生関係・相互関係というのを研究している晝間研という研究室に配属になりました。非常にやりがいがあり、学会発表の準備もやらせてもらえたので、まさに自分が思い描いていた「研究者」の体験ができました。実験のお作法や高校では扱わなかったようなハイレベルな器具の使い方なども一から研究室の人に教えてもらえ、研究の楽しさに目覚めました。
ーターニングポイントになった課外活動はありますか?
2Sの6月くらいから東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の増田建研究室でバイトを始めました。基礎生命科学実験という理二・理三の必修の科目で先生がラボの手伝いを募集していたので、主題科目で鍛えられた力を活かそうと思ったんです。週一くらいで「いかにも研究者」らしいことができるので、研究の楽しさを実感するもう一つのきっかけになりました。
もう一個進振りに影響を与えたのが、農業×地域おこしをコンセプトとしている東大むら塾です。農学部に行きたいと思っていましたし、「例えばアフリカに行って食料問題を解決するのであれば実際に作物を育てられるようにならないとな」と思い、入りました。1年生の時から月1、2回くらいの頻度で農作業をしに行っていました。
田植え、水の管理や稲刈りなどの農作業自体も楽しかったですし、自分で収穫したお米の味は格別でした。さらに、自分が収穫したものでなくても苦労を知ったから大切に食べようともさらに強く思うようになりました。こういう活動を通してフィールドで活動する楽しさも感じていましたね。
5. 悩み・葛藤・苦悩
ーそれでは、「将来フィールドに行きたい」という思いは今でもあるんでしょうか。
全然あります!やはり一つに絞りきれなくて、できれば両立したいと思い1年生の春休みに調べた結果、4つの学科が選択肢として挙がりました。
①生命科学・工学専修
②国際開発農業専修
③生物・環境工学専修
④応用生物学専修
専修によっては要望・希望科目もあるし、行きたい専修によって2Sの履修科目も決めようかなと思っていたのでこの時期に一気に調べました。
生命科学・工学専修は70人くらいの有名なラボよりの学科で、生物・環境工学専修はかなりフィールドよりでした。将来や進振りについて相談させていただいたむら塾の顧問の溝口先生は水や土の研究をしている国際開発農業専修に所属していらっしゃる教授で、そちらも考えましたが、フィールド寄りだったので選びませんでした。一方で、応用生物はラボワークとフィールドワークどちらもあるという印象を抱いて、「とりあえずフィールドとラボ、両方の可能性を残せる応用生物に進んで後々興味が出てきた方にいけば良い」という決断をしました。
また、応用生物学専修のウェブサイトで「日本と世界の食糧生産と人間環境を支える」「人を取り巻く自然環境の破壊と世界的な食料不足に対する、生物科学の最新の知見と技術を駆使した問題解決」というキャッチフレーズを見たことも一つの要因です。「農業と食糧はまさに自分のやりたい分野だ」と思ったからです。
1年生の春休みにこれらのことを考えていたので、2Sになってからは自分の進路はかなり固まっていました。
2Sでは自分の興味に従って授業をとりました。その結果植物医科学の授業が面白いなと思い、調べてみるとこの授業を出しているのは応用生物学の准教授でした。植物医科学というのは簡単にいうと植物の病気で作物が失われるのをどう防ぐのかを考える分野です。植物の病気や適切でない気候条件などが原因でだめになってしまう作物の量はかなり多く、その量の食料があれば世界の食糧難もだいぶ良くなると思っています。なので、食料問題の解決方法としての植物医科学に可能性を感じ、このことについて考えられるのが応用生物だったので「応用生物一択だ」と意思が固まっていきました。
ー研究室は行かれましたか?
自分でアポを取って行くということはしませんでした。しかし、4年生になって研究室に配属される時に「どこもしっくりこない」となってしまわないように、行きたい研究室がある学部学科に行った方がいいというのは主題の先生やバイトの先生、友達から言われていました。なので、かなり前にオープンキャンパスでもらった農学部のパンフレットなどでどのような研究室があるのかを見て、その中で先ほど言及した植物医科学の授業を見つけました。
ー情報収集は何で行われていましたか?
農学部のホームページを参照したり、むら塾の先輩で応用生物に進学した人に話を聞いたりしていました。
6. 今の学部での雰囲気・満足感
ー実際に進学してみて、学部での生活はどうですか?
必修が5〜6コマあり、あとは選択必修で比較的自由に履修が組めます。全部の授業が将来生きてきそうだったり、興味あるものが多いので授業は全部面白いです。前期教養過程だと取らなければいけない科目もありますが、2Aだと自分が興味のある授業をとることができているのでとても満足しています。
ただ、農学部の選択必修や必修の授業形態が大教室での一方向の授業なので、あまり同じ専修で一緒に受ける授業がなく、専修内で特別仲が良いわけではないです。しかし、3Sでは西東京にある農場で農場実習(野菜など作物を育てる週一の実習)があるのでそこで仲良くなれることを楽しみにしています。
キャンパスの話になりますが、農学部は弥生キャンパスで授業があります。僕は元々安田講堂や赤門などの建物の雰囲気に憧れていたので、なかなか本郷にいく機会がなく、本質的ではないのですが少し残念です(笑)。また、農学部だけ独立したキャンパスにあるので他の学部の知り合いと会うことがありません。他の学部の知り合いにあって話すというのも総合大学の醍醐味なので、若干の孤立感はあります。それでも、自分で行くと決めたので頑張ろうと思いますし、自分の決断には本当に満足しています。
7. アドバイス
ーこれから進振りを迎える新2年生へのアドバイスをお願いします。
話を聞きに行くのは大切だと思います。もちろんリサーチはすると思うのですが、その上で進振りについてさらに詳しい話を実際に聞きに行ったり、研究室に行ったりしてみるといいと思います。実際に話を聞きに行くというのは、サークルの先輩に自分が気になっている専修、学科に進学した先輩の話を聞いてみることをおすすめします。
自分が関心を持っている学部のガイダンスは行った方がいいと思います。僕は2Sで頻繁に届いていた農学部のガイダンスについてのメールもあったのは知っていて、ガイダンスにも行こうと思っていたのですが行きませんでした。知り合いにはガイダンスで先生の話を聞いて進振り先を決めたという人がいました。
また、一回自分で決断を下したら、その進路を信じて「いい選択をしたな」と後から思えるように頑張れるといいと思います。
ーご自分の進振りでやってよかったと思うことはなんですか?
やりたいことが決まっていたということだと思います。これは人それぞれだと思うのでなんとも言えないところもありますが、自分の場合やりたいことが決まっていて、さらにむら塾や基礎科目や研究室のバイトなど、いろいろな体験ができたことが自分の進振りに関する決断に大きく影響したと思います。
東大にはいろいろなチャンスが転がっているのでぜひ活用していきましょう!
UT-BASEメンバーより
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